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処刑された令嬢、十年前に戻ったので今度は誰も信じません  作者: ななほし


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第3話 十年前には存在しない記憶

「……アリア」


窓の外から聞こえた声。


私は息を止めた。


間違えるはずがない。


十年後。


処刑台で最後に聞いた声。


私を殺した男の声だった。


「あなた……」


私は窓へ駆け寄った。


けれど。


そこには誰もいなかった。


「待って!」


窓を開ける。


冷たい夜風が部屋に入り込んでくる。


庭には誰もいない。


月明かりに照らされた木々が、静かに揺れているだけだった。


「……夢?」


私は呟いた。


でも。


夢ではない。


確かに聞こえた。


あの声が。


「お嬢様?」


突然、扉が開いた。


「どうなさいました?」


マリーだった。


「……庭に誰かいなかった?」


「庭ですか?」


「ええ。今、誰かが……」


マリーは窓の外を見た。


「誰もいませんよ」


「……そう」


私は窓を閉めた。


けれど。


胸の鼓動は収まらない。


机の上には、さっきの手紙。


『あなたを殺した男も、十年前に戻っています』


私はもう一度、手紙を読む。


「……誰が書いたの?」


差出人はない。


紙にも魔法の痕跡はない。


少なくとも、私には分からない。


そのとき。


手紙の裏側に、小さな文字があることに気づいた。


『三日後』


「……?」


その下には。


『地下聖堂へ来てください』


と書かれていた。


「地下聖堂……?」


そんな場所。


前の人生では一度も聞いたことがない。


私は眉をひそめた。


なぜなら。


この屋敷に地下聖堂なんて存在しないはずだから。


翌朝。


私は朝食の席で、何気なく父に尋ねた。


「お父様」


「何だ?」


「この屋敷に、地下聖堂はありますか?」


父の手が止まった。


ほんの一瞬。


本当に一瞬だけ。


けれど。


私は見逃さなかった。


「……なぜそんなことを聞く?」


「昨日、古い書物で見つけたんです」


咄嗟に嘘をつく。


父は私をじっと見た。


「地下聖堂などない」


「そうですか」


「絶対に近づくな」


「……分かりました」


父はそれ以上何も言わなかった。


けれど。


私は確信した。


何かを隠している。


前の人生でも。


父は地下聖堂について一度も話さなかった。


もしかすると。


ここに何かある。


その日の午後。


私は王宮へ向かった。


婚約者である王太子に会うためだ。


「アリア!」


庭園に着くと、彼が駆け寄ってきた。


「昨日から変だぞ」


「そうですか?」


「何か悩んでいるだろう」


私は少し迷った。


そして。


「殿下」


「何だ?」


「十年後のあなたは、私を殺しますか?」


「…………」


空気が止まった。


当然。


彼は意味が分からない。


「十年後?」


「……いえ」


私は慌てて笑った。


「忘れてください」


「アリア」


彼が私の手首を掴む。


「今の質問は何だ?」


「……」


私は答えられなかった。


すると。


彼は真剣な顔で言った。


「私は、君を殺したりしない」


その言葉に。


胸が苦しくなった。


前の人生でも。


彼は優しかった。


だからこそ。


私は信じた。


「……ありがとうございます」


私は笑った。


でも。


彼は手を離さなかった。


「君に何か起きているなら、話してほしい」


「大丈夫です」


「嘘だ」


「……!」


「昨日から、ずっと怯えている」


私は目を逸らした。


すると。


王太子が小さく息を吐いた。


「分かった」


「え?」


「今は聞かない」


そして。


彼は私の手を離した。


「でも、一人で抱え込むな」


私は何も言えなかった。


なぜだろう。


前の人生とは違う。


彼は同じ人なのに。


何かが違う。


その夜。


私は書斎に忍び込んだ。


父が隠しているものを調べるためだ。


古い書棚を一つずつ確認する。


「……ない」


地下聖堂に関する資料は見つからない。


諦めかけた、そのとき。


一冊の古い本が目に入った。


『王家とベルク家の記録』


「……?」


私は本を開いた。


最初のページ。


二百年前の記録。


さらにめくる。


百年前。


五十年前。


そして。


十年前。


私はページをめくる手を止めた。


「……え?」


そこに書かれていた名前。


『アリア・フォン・ベルク』


私の名前だった。


「どうして……?」


私は震える手で続きを読む。


『十五歳のアリアは、王太子レオンハルトと婚約する』


その通りだった。


けれど。


その次のページ。


『十年後――』


私は息を呑んだ。


そこには。


前の人生で起きた出来事が書かれていた。


王太子暗殺未遂。


毒。


私の逮捕。


処刑。


「……なんで」


震える。


「まだ起きていないのに……」


そのページには。


私の処刑まで、すべて記録されていた。


そして最後に。


一行だけ。


赤い文字で書かれていた。


『二度目の人生では、彼女は真実を知る』


「……!」


その瞬間。


背後から声がした。


「そこまで読んだか」


私は振り返った。


「……お父様?」


父が立っていた。


いつからいたのか分からない。


父は本を見つめている。


そして。


小さくため息をついた。


「もう隠せないか」


「どういうことですか?」


私は本を握りしめた。


「なぜ、この本に私の未来が書かれているんですか?」


父は答えなかった。


「お父様!」


「……アリア」


父は苦しそうに私を見た。


「お前が十年前に戻ってきたことは、私も知っている」


「……!」


私は凍りついた。


「お父様も……?」


父は首を横に振った。


「違う」


「では、なぜ?」


父は静かに言った。


「戻ってきたのは――」


そして。


信じられない名前を口にした。


「お前だけではない」


「……誰が?」


父の顔が青ざめる。


「王太子殿下だ」


「…………え?」


頭が真っ白になった。


父は続けた。


「そして――」


その言葉を聞いた瞬間。


私は手にしていた本を落とした。


「お前を殺したのは、殿下ではない」


「……え?」


「アリア」


父が私を見る。


「前の人生で、お前を処刑した本当の犯人は――」


その瞬間。


屋敷中の灯りが、一斉に消えた。


真っ暗になった書斎。


そして。


耳元で。


あの声が囁いた。


「……まだ、そこまでしか分かっていないんだね」


私は振り返った。


誰もいない。


けれど。


机の上には。


いつの間にか一輪の黒い花が置かれていた。


その花の下に。


一枚の紙。


そこには。


たった一言だけ書かれていた。


『三日後、地下聖堂で待っています』


私はその文字を見つめた。


そして。


なぜか分からない。


けれど。


その筆跡を――


私は知っていた。

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