7、クエストNo.254辺境伯奥方歓迎会
星羅・リアステア少将を代表執行者とする南部への派兵が一時凍結された。
少将の先遣隊が出発して2日目。
それより先に南部に向かった、ギルドから選抜された冒険者パーティーの遺体を発見した。
ギルドでもNo.1の実力者。
それが全滅。
しかも見つかった遺体は、18年前の国王軍全滅を連想するほどの状態で見つかり、回収さえ出来なかった。
当代最強のリアステア少将の先遣隊を18年前のように失うわけにはいかない。
南部ではそれほどのことが起こっている。
そんな中、弥生は国王軍の騎士団本部にいた。
なんと帳簿の閲覧が許されたのだ。
眼帯まで革の鎧に身を包む騎士団の事務官(多分)が、奥から書類を持ってきてくれた。
蒼真たちは蒼真の行方不明の祖母を探すために冒険者になった。
しかし、戦死者名簿にその名前があり、はっきり言って生存の可能性は低い。
轟も、そして弥生もその名簿を見た。
18年前の国王軍全滅。
その中に彼女の名前があった。
それでも、弥生は蒼真に言った。
生存を信じようと。
それならば、と弥生は決めたのだ。
どんなに小さくてもいいから生きている痕跡を探し出す。
だから、帳簿。
生きているならどうしたって金が動く。
弥生はそれを追うプロだ。
蒼真にはもちろん、轟にも出来ない。
18年前の国王軍全滅と近隣の村の消滅。
禄に調査も出来ていないので、帳簿も完全なものにはほど遠い。
だからこそ見逃されている数字があるはずだ。
弥生はその訓練を(蒼真たちのせいで)積んできた。
国王軍の名簿や彼らに支給された給与、提出された納税関連書類、出身地の住民台帳など、思いつく限りの書類を熟読した。
「…まさか…そんなことって…」
弥生は辿り着いた。
それは思った以上に痛ましい…そんな『証拠』だった。
どんなに辛い現実があっても、日常を過ごさなくてはいけない。
次のクエストのリスト(例によってお貴族様からの発注がいくつか)を手に、蒼真たちに会いにいく。
弥生の沈んだ気持ちとは裏腹に、蒼真は今日も輝くばかりにご機嫌だ。
「クエストの前に相談があるんだけど。」
…嫌な予感しかしない。
「資金集めイベント?」
蒼真が言うには、南部での変事やリアステア少将出陣延期のせいで、物流が滞っていて生活物資が足りず困っている村があるのだとか。
また、商人ギルドも仕入れたものを売りに行けず在庫を抱え困っていて、安く譲ってくれそうとも。
「…よく気付きましたね。」
立派になって…と、弥生は親族気分で多少の感動を覚えた。
商人ギルドには冒険者ギルドとして何度も煮え湯をぶっかけられている。
貸しを作れるのもイイ感じだ。
「でも、俺たちそんなにお金ないだろ。」
「…!よく気付きましたね!」
今度こそ本当に感動した。
「え…俺ってそんな?」
そんなですよ。
とは言え、悪くないアイデアだ。
「それでどんなイベントを考えているんですか?」
「クエストを発注してくれる人たちを招待するんだ。」
確かに金持ち揃いだ。
「それで南部で起こってることとかを説明する。他のパーティーの冒険者にも声かけて説明してもらった方がいいかも。特に南の方のクエスト受注してたとこもあったし。」
「成る程。ですがそれで資金が集まりますかね?」
弥生としてはごく当然の質問に、とんでもなく澄んだ瞳で首を傾げた。
「?困ってる人がいるって分かればみんな助けたいって思うだろ?」
「………」
……そうだ、こういう子だった。
と、言うわけで。
「次のクエストは侯爵様より頂きました、辺境伯様のご家族の護衛並びに歓迎晩餐会です。」
毎度のことながら侯爵様のご依頼は報酬も破格で、その上…
「辺境伯様の領地は南方、その為奥様とお子様方が避難して来られ、侯爵様のお屋敷に一時身を寄せられるとのことなので、南部の状況に詳しいですよね。」
「確かに。」
「侯爵様の晩餐会なら裕福な方々が勢揃いしますよね。」
「ええ、そうでしょうね。」
「みなさん、腕の見せどころですよ!バシバシ寄付して頂きましょう!!」
半ばヤケクソである。
前回のクエストではちゃんと純利益が出た。
しかし、蒼真にさえ分かるくらいお金は足りない。
なので報酬を受け取り、他人主宰の晩餐会に乗り込み寄付集めをする。
これぞまさに一石二鳥。
「だったら早速テーラーに行かないと!」
琴音が想定外の方向で浮かれている。
「前作った(算盤の刺繍を入れたせいで返品できなくなった)フロックコートがありますよ。」
「何を言っているの。招待状に夜開始と書いてあるもの。テールコートかせめてタキシードでなくては」
そんなもの持ってない。
面倒くさいエライ人たちのドレスコード。
「善は急げよ!蒼真も新調しましょう。前のものはデザインが少し古いもの」
「じ…じゃあそちらを僕が着ますので…」
「無理よ!蒼真のサイズだから弥生くんとは脚の長さが違い過ぎるわ!」
そこまで言わなくても…
こう言う時の琴音に勝てるわけがない。
やっとの思いで作った純利益は多分消える。
せめて純損失にはならないように…それが弥生のクエストだった。
例によって本物の王子も逃げ出すレベルの王子様姿の蒼真とほぼお揃いのテールコート姿で、辺境伯のご家族をお迎えに上がる。
今回は算盤の刺繍を阻止したので、今晩を無傷で乗り切れば返品できる。
サイズだって既製服サイズ。
蒼真が規格外なのであって、弥生の脚が特別短いわけではないのだ断じてそうなのだ、そうに違いないのだ。
さて、辺境伯についてだ。
辺境伯は国境辺りを治め、代々王家からも信頼も厚く、そのご先祖は騎士団出身と言う武闘派名家の筆頭で、私軍を持つことさえ許された忠義の一族だ。
リアステア少将の直属の上司に当たる特務隊元帥兼近衛隊参謀で、特務隊と近衛隊はこの辺境伯のもと訓練を受けるのが決まり。
つまりは兵士の出世コース。
そんな御仁なので、辺境伯ご自身は所領に残り国境を守っている。
家風は質実剛健そのもの。
「だからね、ドワーフ好きなのよ。」
そんな理由で轟はあざといまでにドワーフらしい服装だ。
「それに、今日お迎えする奥方は現国王陛下の姉君なのよ。」
そんな理由でいつもに増して高価そうなドレス。ローブ・デコルテ。
ただ、自慢の髪はキッチリと結い上げ、ある程度は動きやすそう。
名目が護衛なので一応はカタチだけ。
「王女時代からオリハルコンの剣を愛用していた女傑でいらっしゃるの。」
つまり
「そなたが轟か!会うのを楽しみにしていたぞ!」
奥方もドワーフ好きなのだった。
オリハルコンの武器と言えばドワーフだ。
と言うかこのお方に護衛いる?
遠目でも分かるほど高品質なミスリルシルクのジャンプスーツは軍服をアレンジしたデザインで、ブラウンの髪はショートヘア。
男装の麗人といった佇まい。
さらに…
「晩餐会にも剣をお持ちとは…」
弥生は若干引いているが、蒼真は目を輝かす。
「あれはすごく良い剣だよ。見せてもらえないかな。」
「ちょっ…!蒼真さんダメですよ。」
「良かろう、許す。」
なんの躊躇いもなく剣を鞘から抜いて蒼真に束を向け差し出した。
「やった!ありがとうございま…」
「蒼真さん!いけません!!しっ失礼をお許しくださいっ!」
こういう子なんだ、どこまでも。
しっかりしろ弥生!
「ほほう、確かに素晴らしい。一見細身だが堅牢だ。オリハルコンの純度は…95…珍しい素材だ。」
轟さんーー!
今度は声も出ない弥生。
「分かるか!流石だ。純度100はロマンだが硬すぎて実用に欠けるからな。柔軟性のある魔力を帯びたミスリルとの合金らしい。星鉄とも言うな。」
「星鉄?まさか!星鉄で剣を鍛えようとするならとんでもない量の星の欠片が必要なはずだ。現実的ではない。」
轟は訝しげだ。
星鉄は隕石由来。
扱いが難し過ぎて加工技術も失われている。
「だからこそこの剣は美しい。それ故輿入れのとき嫁入り道具として持ち出した!」
国宝なのでは?
「銘は『アリステリア』。通称『星の乙女』。」
国宝だ!
「すごいスゴイすごい!!!見たい!見せてください!!!!」
「蒼真さんー!!!!」
「良かろう、美しいだろう?」
「はい!!!オリハルコンの中でミスリルがキラキラしてる!星みたい!だけど『星の乙女』ていうよりもっと強そうな名前の方が似合いませんか?」
「蒼真さん『バシ太郎』のくせに銘の論評なんて身の程知らずな…」
弥生は素で突っ込んだ。
しかし女傑は気にしない。
「確かに最強の剣だからな。国一番の剣は国一番の者が持つべきだろう?例えば…妾の旦那さまとか。」
ここでノロケ。
女傑が乙女になる。
「それを持ち出すなんて、南方はそれほど大変な状況と言うことですか?」
蒼真の言葉に空気が一気に引き締まる。
「そうでなければ貴女なら辺境伯閣下の側で戦うことを選ぶはず。」
「そ…蒼真さん!」
「…鋭いな。ふむ…」
奥方の瞳が鋭く閃く。
「そなた、特務隊に入れ!なかなかの炯眼だし腕も良さそうだ。その容姿なら近衛隊も悪くないな。妾が推薦状を書いてやろう。旦那さまもお喜びになるはず…」
「母上、どうぞそれくらいに。侯爵殿をお待たせするわけには参りますまい。」
辺境伯のご嫡男がやっと止めに入ってくれた。
まだ若い。
蒼真より歳下だろうがずっと大人びている。
「それもそうだ。参ろうか。」
さっさと国宝の剣を鞘に仕舞うと自分の愛馬を連れてこさせた。
馬車に乗るような軟弱者ではないのだ。
だからドレスではないんだな、と妙に納得していたらご嫡男が弥生に耳打ちした。
「お互い苦労するな。」
そうは言ってもこの方もアチラ側だろうな、と弥生は確信している。
止めるならもっと前に止めたはずなので。
「…話を逸らしたわね。」
今まで異様に静かだった琴音。
「南部には何かあるわ。弥生くん、お願いね。あなただけが頼りだわ。」
『アリステリア』に大はしゃぎの蒼真と轟を見て弥生は気を引き締める。
…と言うかこういうシチュエーションで自分以外を頼ったことはない…とは口にしない。
「蒼真さん、これからの晩餐会が本番ですよ。剣のことは一旦忘れてください。」
「うん、でもさ、多分『アリステリア』は俺のこと好きだと思うんだよ。」
またですか…
「キラキラって光って俺に話しかけてたんじゃないかな。」
「ミスリルです。」
剣は話しません。
それが常識。
でも、『アリステリア』だからなあ…とほんの少しだけ思ったが、それは言葉にはしなかった。
結果として辺境伯歓迎晩餐会は成功だった。
轟ご自慢の酒を持ち込み大好評。
いつ出来るか不明の次とさらに次の醸造分まで完売だ(自分の呑む分がないという轟の意向は聞こえない)
琴音の営業力は言うまでもない。
なんであなたは冒険者やってるんですかなどと言いたくなる。
弥生だって負けていない。
辺境伯に商人ギルドの在庫を兵站として売り込むことに成功。
さらにその輸送に辺境伯の私兵を出してもらえることになった。
「弥生くんすごいじゃない。とても賢い提案だわ。」
「男の価値は脚の長さじゃないんですよ。」
「あら、根に持つわねえ。」
返品するつもりだったテールコートも気に入ってきた。
会計士にもテールコートだ。
そして問題の蒼真。
「な…なんですか、この金額…!」
小切手を数枚。
どれも太っ腹な内容だ。
「こっちの小切手はね、好きな金額書いていいって。いくらにする?」
蒼真はキラキラ笑っているが、本気なのか貴族の皆様。
「ど…どうやってこれを…?」
「言っただろ?困ってる人がいたらみんな助けたいんだ!」
…この子にとって世界はかくも美しい。
男の価値は矢張り脚の長さなのかも知れない。
読んでいただきありがとうございます!
次回は【16日朝7:30】に更新予定です。
第八話ではとうとう問題の南部へ出発です。お楽しみに!
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