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勇者の決算書〜冒険者ギルド会計士のヤケクソ仕訳  作者: 十一


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3/22

3、クエストNo.251 バジリスク掃討

「いいですか?仕訳とはお金の動きを記録することです」

ここは馬車の中。

冒険者蒼真パーティーwith会計士弥生という妙な取り合わせの面々は、クエストに向かうところだった。

「左借方で増やし、右貸方で減らします。つまりは…」


旅費8000/現金8000


「…となります。」

ノートの片隅に書き込みながら弥生が視線を向けると、蒼真が素直にコクンと頷いた。

「ですが、今回はギルド優待券を利用し、1000Gゴールド安く利用できました。それも合わせて記録するので…」


旅費8000/優待券1000

現金 7000


「…となります。」

「…弥生…それ…」

「はい。」

「…魔法陣…か?」

「違います。」


蒼真パーティーは勇者候補でクォーターエルフの蒼真、魔法使いでエルフの琴音、戦士でドワーフの轟の3人パーティー。

ギルド内では次世代エースとして期待の存在で、腕は良いがお金の管理がてんでなってない。

クエストごとに提出が求められる決算書は、とてもじゃないが書くことは出来そうにない。

そんなワケでギルドから会計士の弥生が派遣された。

「弥生くん、私たちはお金の貸し借りなんかしてないわ」

琴音がその美しい眉を顰める。

「借りを増やして貸しを減らすと言われたら冒険者稼業なんざやってられねえぞ。」

轟も憮然とした表情。

「……」

弥生も思わず無言になった。

言葉の意味はさておいて、複式簿記とはそういうものなのだ。

弥生は説明を諦めた。

まずは単式簿記。

せめて単式簿記だ。


2.クエストNo.251 バジリスク掃討


すごい…!

ギルドでも期待の次世代エースとは聞いていた。

それでも、これほどとは。


前衛の轟はまさに鉄壁。ビクともしない。腕の一部のように自在に操る重厚な斧。

さらに信じられないことに片手で扱う盾はオリハルコン合金。1人で扱うものじゃない。


琴音の魔法はなんと呪文の詠唱無し。ノーアクションで無尽蔵。

色とりどりの光が、行くべきところに向かい弾けて輝く。火も水も風もなんでも自由自在。


そして蒼真。

武器は鉄剣、しかし魔力を帯びて青く光った。

青く細い光がスッと奔って燐光となり、ほんの一瞬、瞬いて消えた。

驚くほど美しい剣筋だ。


「弥生くん、下がって!」

琴音の声で我にかえった。

バジリスクは毒トカゲ。

追い詰められて毒を飛ばした。跳ねた毒が地面を焼く。

ぼんやり見惚れている場合ではなかった。

「失礼しました」

ならば弥生も奥義を見せなくては。

「あと3匹だ、それまで安全なところへ!」

蒼真の声に算盤を翳した。

「お構いなく。」

バジリスクの毒液が弥生を避けた。

勝手に。


「計算中は無敵です。」


バジリスクの群れと会敵。

3メートル超の大きいものを含め11体

革は有用。

牙、爪も有用。

毒腺はさらに有用。


トトトトト、シャ!パチパチパチパチ…パチン!

「ちょ…ちょっと…!」

※革…鎧用傷ナシ、5枚

     傷アリ、3枚

   小物用傷ナシ、15枚

    ベルト、手袋、靴、バッグ用

     傷アリ23枚

※牙、爪…工具用、武器用、装身具用、約50本

※毒腺…薬材料無傷のものは多くて3

    *一番高価


トトトトト、シャ!パチパチパチパチ…パチン!

「弥生!それ黙ってやってくれないか?」

「蒼真さん!集中!!毒腺に傷つけないで!無傷なら30,000Gで売れますよ!」

トトトトト、シャ!パチパチパチパチ…パチン!

「琴音さん!よそ見しないで!炎系魔法はいけません!革が台無しです!」

トトトトト、シャ!パチパチパチパチ…パチン!

「轟さん!そこの死んでるバジリスクを死守!丸ごと売ったら100,000Gにはなります!」

トトトトト、シャ!パチパチパチパチ…パチン!

「…あ、はい…」

蒼真たちは思っていた。

弥生はバジリスクの群れより面倒くさいと。


戦闘終了。


倒したバジリスクはギルドを通して売り払った。

そして弥生はその仕訳を終えた。

「よし!」

なんという充実感。

今夜は野営だが気持ちよく眠れそうだ。

「みなさんお疲れ様でした。今日のバジリスク退治の収益は」

トトトトト、シャ!パチパチパチパチ…パチン!


「567,600Gです!」


「やった!そんなに?」

「実際の支払いはクエスト後です。言っときますが。まだ使えないお金ですからね。」

しっかり釘を刺す。

「いいから夕食にしましょう。お腹すいたでしょう?」

琴音がパンとスープを用意してくれた。

「それから、近くの村で分けてくれたのよ。バジリスク退治のお礼ですって。」

真っ赤なりんごがデザート。

「いいですね」

「俺、りんご好き!子供のころ住んでた村のりんご、すっごい美味いんだよ。アップルパイが名物だったんだ。」

「それなら少し残しておいてパイにするのもいいわね。」

「いいな、それ!」

「私の大親友のレシピよ。」

「あ、あれ大好き!おばあちゃんのアップルパイも美味しかった!」

「?」

「ああ、琴音って、俺のおばあちゃんの友達なんだ。」

「おばあちゃ…ん?」

「エルフだもん。こう見えて琴音は俺と弥生の5倍くらい年上…うぐっ

琴音の肘が蒼真の脇腹に突き刺さる。

「そ…そうなんですか!そ…その、おばあさんはどんな方なんですか?」

「そうね、名前はセレナ・インテグレート・ラメンタービレ・リタルダンド・アルクトゥルス・スフェーン・ティアラ・アレキサンドライト・ド・ペンドラゴン」

なっが!

エルフの名前ってのはどいつもこいつも。

「魔法学校の同期なの。スゴ腕よ。彼女が首席、私が次席だったのよ。」

「俺と同じ金髪。よく子守唄を歌ってくれたんだよ」

蒼真が歌う。


お空の星が降る夜は

星のかけらを数えましょう

ひとつ

ふたつ

もうひとつ

星を拾ったごほうびに

甘い木の実をあげるから

今日はおやすみ

また明日


お空の星が降る夜は

星のかけらを数えましょう

ひとつ

ふたつ

もりだくさん

星はみんなのお友だち

あなたもわたしも星の子よ

今日はおやすみ

また明日


意外と巧い。

「可愛いらしい歌ですね。」

「だろ。おばあちゃんは歌も巧かったよ。それに琴音よりきれぃぐッ…

再び琴音の肘。

…琴音…の次、にきれいで、すっごい優しい人だよ。」

「って言うかエルフのみなさんって名前長過ぎませんか?蒼真さんもあるんですか、長い名前。クォーターエルフですよね」

「ううん、今はペンドラゴンだけ。父さんの名前だよ。」

言いながら蒼真がりんごを切り分け、一切れ弥生に差し出すので手元を見た。

「ありがとうございます…って蒼真さん!なんですか、それ!」

小さなトカゲにもりんご一切れ。

「ああ、バジリスクの赤ちゃん。」

「拾ってきちゃったんですか……」

「さっき卵が孵化したんだ。弥生、名前つけたい?」

「ど……!

「しかしっ!この辺りにバジリスクの群れが出るってのはおかしくないか?」

「そうそう、元々は暖かい地域のモンスターよねっ!南部で何かあったのかしら?」

轟と琴音が咄嗟に割り込んだ。

「とりあえずそれはどうでもいいです!バジリスクですよ、小さくても!半年もしたら僕よりデカくなるんですよ!ど、う、す、る、ん、ですか!」

「クエストで南部行ったら連れてこうぜ!」

「そ……!

「そ…それがいいわね!いくつか良いクエストもあったわよね、ねえ、轟?」

「あ…ああ、た、確か…多分…そんな話も聞いた…ような?」

「轟さんも琴音さんも!蒼真さんに甘すぎます!」

「ちょっと待って弥生、でもさ、この子、殺せるか?」

蒼真が怒り狂う弥生の鼻先に赤ちゃんバジリスクを突き出す。

手のひらサイズ。真っ黒つやつやの丸い瞳が弥生を見つめる。

「殺せないからどうするんですかって聞いてるんですよっっっ!!!」


朝が来て、バジリスク掃討も無事終わり、蒼真パーティーは帰途に着く。

バジリスクの赤ちゃんは…

「良かったわね、薬屋さんも喜んでいたし。」

琴音がキラキラと笑う。その隣で蒼真がしょんぼりトボトボ歩き、そんな蒼真を轟が慰める。

「蒼真も元気出せ。あのバジリスクの子供にとっても良いことだろう?」

「だから名前を付けるのはやめた方が良いと言ったじゃないの。」

「…うん、可愛かったな、バシ太郎。」

どんなネーミングセンスだ。

弥生は声に出さずにツッコミ入れつつ脳内の算盤を弾き、蒼真たちの後ろについて歩く。


バジリスクの子供は薬屋が引き取った。

バジリスクの毒は猛毒だが、うまく使えばある種の心臓の病気の特効薬になる。

まだ小さなうちから人間に慣らせば、必要な時に薬の材料を採取出来る。

「それにしても弥生って色んな人と知り合いなんだな。」

蒼真が立ち止まり、弥生が追いつくのを待つ。

「ギルドの出入りの薬屋です。」

実に驚くことだが、今もなお信じられないが、このアイデアは蒼真のものだ。

正確には引き取ってもらうと言うよりリース取引。

貸し出したバシ太郎から採取した毒の分を、薬で受け取れる契約にし、薬の価格もデリバティブ…市場価格に関わらず薬価は固定…が条件。

もっとも、薬屋に話を持ち込み交渉をまとめたのは弥生だが。

薬屋に、ちょうど薬の材料を買いに来ていた眼帯の男が、バジリスクの毒をほしがった、という幸運もあったのだが、それを活かすのも腕の見せ所だ。


「弥生のお陰だ。今回のクエスト楽しかった。次も来る?」

吸い込まれそうな真っ青な瞳に、多分きっと吸い込まれた。

そうでなければ言うはずがない。

そんな言葉がスルっと出た。


「ええ、もちろん。」


読んでいただきありがとうございます!

次回は【14日7:30】に更新予定です。

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