2、クエスト事前準備
ギルドから先払いの報酬を受け取り、クエストに必要なものを買い揃える。
弥生にはクエストの経験がないので、買い出しは蒼真たちに任せた。
必ず領収書を持ち帰るように、耳のタコが喋り始めるようになるのでは、と思うほど噛んで噛んで噛み砕いて言い聞かせた。
一方、弥生は先払い報酬の一部を使って、貯まりに貯まった未払いのアレコレを少しでも解消しようと動き始めた。
とりわけ未払利息。放っておくと無限に増える。
家賃もヤバい。
ギルドのエースがホームレスにでもなったら……考えただけで寒気がした。
借入金と買掛金については先方の『出世払い』という不確かな猶予をアテにして後回し。
「すみません、蒼真・ペンドラゴンさんの代理の者ですが。」
とりあえず蒼真の自宅の大家を訪ねた。
ドワーフの肝っ玉母さん風。
「遅れてた家賃の支払いを……」
「払ってもらってるよ?向こう一年分。」
「へ?」
「余分に払いたいってなら受け取ってもいいけどねえ。」
と言って大家はガハハと笑った。
払ってる………だと?
各種未払金もそんな感じ。
これは、意外と借金も少ないのでは?
弥生の目の前に光が差した。
しかし、いつ、どうやって払った?本当に未払金だったのか?
一瞬で闇が渦巻き飲み込まれた。
「……全部………訂正仕訳……か……?」
光は、消えた。
クエスト出発拠点の宿屋で悪夢の訂正仕訳中、蒼真たちも両手に大荷物で帰ってきた。
「領収書、ちゃんと貰ってきた!」
弥生の気も知らないで元気いっぱいの蒼真である。
「お疲れ様でした。あ、轟さんと琴音さんの分もお預かりします」
「なんだ弥生、顔が疲れてるぞ。」
やっぱり弥生の気も知らない轟。
誰のせいだ、と言う言葉はグッと飲み込んで。
「基本内勤ですから。」
「明日からクエスト本番だぞ。ホラ、これ飲んどけ。」
「なんですか、お酒?」
トロリとした琥珀色。
ウイスキーだろうか。
一口含むと…
「…!」
…まさしく甘露。
「美味い…!」
「だろ?轟の酒は最高なんだ。轟、俺も欲しい。」
なんでか蒼真が自慢げだ。
「なんですか、これ?飲み込むのがもったいない!まろやかな、だけどキリリとした甘味が、舌の上で転がってスッとのどを通り抜けると、かすかな花の香りが!」
「そうだろう、そうだろう。」
「蒼真、あなたはあまりお酒に強くないのだから、飲み過ぎてはダメよ。」
それは意外。
それにしても何を買って来たんだろう?
蒼真たちの購入品に目をやった。
こっちも仕訳が必要なのに、酒を口にしてしまった。
ちびちびと酒を嘗めながら領収書の確認をする。
食料…必要
薬…必要
武器手入れ用工具…まあ必要
地図…必要
トトトトト、シャ!パチパチパチパチ…パチン!
合計額………586,754G
え?
一気に酔いが覚めた。
なんだこの値段。
そういうものなのか?
震える手で購入品の山に手を伸ばす。
「なんですか?これ!」
「刀だよ!いいだろ!」
自慢げな蒼真。
「あなたの武器は剣でしょう?扱えるんですか?」
「それは使うものじゃない。アンティークだぞ?」
「じゃあ何の為に……」
「美しい。それだけでプライスレ
「280,000Gです!!」
「まあまあ、弥生くん落ち着いて。」
「琴音さんもなんとか言ってください。クエスト報酬前払いはクエストに必要なものを買う為で…」
ふと琴音に目をやると、月光を映して流れる水のような美しい髪が、いつもに増してキラキラと輝く。
月光を紡いで糸にしたらきっとこんな姿だろう…などと弥生を再び詩人にした。
「……髪…何かしました?」
「あら、分かる?『アルテミス』に行って来たのよ。そこの美容師はエルフで、魔法以上の効果なの。素晴らしく腕がいいのよ。」
30,000G。
「おい、弥生。琴音は髪が自慢でな、髪の調子が悪いと機嫌が悪い。ヒツヨウケイヒ?ってやつにしとけって。」
と、耳打ちするのは轟。
蒼真はまだフリーズ中。
「そういう轟さん、なんです、この『ミスティック酵母』とか言うのは?ものすごい量ですが。高いし。お酒でも作るんですか」
「そうだぞ。」
「え?」
「今飲んでるやつ。」
ミスティック酵母 1キロ 120,000G
「美味しいはずだよ!!」
弥生の絶叫で我に返った蒼真が取りなす。
「ま、まあまあ弥生、轟の酒は大人気で飛ぶように売れるんだ。ここの宿代もこの酒で払ってるくらいで…」
「どれくらい?」
「樽一個。」
宿泊費→1人7000G×4人=28,000G
「大赤字だっ!!」
ーこのように出費のほとんどが無駄遣いである。
そして、絶対に必要な塩とパンは買い忘れていた。
弥生は諦めとともに言い渡した。
「これからは買い出しには僕が行きます…」
お読み頂きありがとうございます。
第三話ではついにクエストに出発するよ!
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次回更新は13日の20:30です。




