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勇者の決算書〜冒険者ギルド会計士のヤケクソ仕訳  作者: 十一


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21/22

21、魔王の決算書

「村を…直す?」

弥生は勿論、佐藤博も戸惑っている。

「佐藤博ってすごい仕事出来るんだろ?」

「え…はい、会計士としては間違いなく。」

蒼真が満足そうに頷く。

「昨日の夜の戦いでも、アンデッドが梯子とか作ってた。アンタがそう言う風に操ってたんだよな?」

弥生にも、蒼真の意図が分かって来た。

「キャラバンの時も思ったんだ。キャラバンの辺境伯の軍隊も、陣地建てるのも片付けるのもすごいテキパキしてたよな。」

「工兵の訓練も一通り受けているんでしょうね。」

「だったら、旧国王軍だって訓練を受けてる。それなら俺の村も直せるだろう?」

「え…ええ。それに佐藤博は18年前、蒼真さんの村の監査をしています。石の味まで調べるほど緻密に。」

「石を味わっていたわけじゃないんだ!」

佐藤博の抗議は聞き流す。

「じゃあうってつけだ!」

話は決まり。

「出来るよな?」

圧をかける。

蒼真、弥生、卯月、そしてアリステリアで。

「…でき…る…」

言わせた。

「決まり!」

佐藤博はモゴモゴと呟いた。

どうしてこんなことに……。



何が始まりかは分からない。


ビジブルアンビジブルとは正式な種族名ではない。

人間の形をしているが人間ではない。

ただ、とにかく存在感がない。

そこにいるのにいないみたい。

よって、そんな種族の存在さえも知られていない。

だから種族名もない。

だから博が自分で付けた。

博だけが名乗っている。


そして、誰にも認識されない者ほど世界に忘れられ、忘れられるほど寿命が延びる…らしかった。

同族の中ですら影が薄く、母親さえも博を見失うほどだ。

事実、博は甥や姪の孫の葬式に参列している。

親族や知り合いはほとんど鬼籍に入った。それでもまだまだ寿命は来そうにない。


眼帯を付けてみた。

ファッションで。

しかし眼帯をつけたら行方不明にならずに済んだ。

他人の記憶にも残るようになった。

『眼帯の男』として。


仕事は出来た。

魔法も使えた。

剣もすぐに免許皆伝。

なんでも出来た。

目立ちたかった。

少しでいいから。


服を作り始めた。

好きな色は黒。

持てる技術の総てをつぎ込んで自分で作った。

自分の好みは誰にも理解出来ない。

それならば自作するしかない。


いつからか会計士になった。

腕の良さで評判になり、依頼はひっきりなし。

そんな仕事のひとつが国の固定資産台帳の作成だ。

その仕事で出会ったのが『アリステリア』…こと『星の乙女』だった。

オリハルコンに似ているが、見たこともない素材で出来た、目を疑うほど美しい剣。

やがてそれが星の降る村で集めた星の欠片で出来ているらしいと知り、博は端的に言って恋に落ちた。

自作の服も理想に近付いている。

『アリステリア』を手にすればまさに理想通りだ。


「ちょっと待って、アンタ正気?」

佐藤博の長い身の上話に思わずツッコミを入れた。

蒼真が。

「まあ待て。続きがある。」


しかし『アリステリア』は国宝だ。

博がそう評価した。

仕事には嘘をつけない。

ちょうどその時その星の降る村の監査依頼があり受けた。

運命だと思った。


『アリステリア』が自分のものにならないならば自分で作ればいい。


隅々まで調べ尽くした。

その傍らで星の欠片らしきものを集め始めた。

その頃、この村に伝わる子守唄を聴いた。


お空の星が降る夜は

星のかけらを数えましょう

ひとつ

ふたつ

もうひとつ

星を拾ったごほうびに

甘い木の実をあげるから

今日はおやすみ

また明日


お空の星が降る夜は

星のかけらを数えましょう

ひとつ

ふたつ

もりだくさん

星はみんなのお友だち

あなたもわたしも星の子よ

今日はおやすみ

また明日


間違いない。

『アリステリア』はこの村の星の欠片で出来ている。


普段着で調査していたら石を食べる幽霊が出るという騒動が起き、どうもその幽霊が自分のことらしいと分かってからは、自作の服を着るようになった。

その頃には剣一振り分の星の欠片を集めるには、自分1人では無理だと悟った。

子守唄にもある。

“もりだくさん”

と。


また同じ頃、自分の服装だとなんらかの魔物に見えるらしいことも理解し始めた。

冒険者が自分のことを退治しようとしたので返り討ちにしてやった。

そんなことが続いたある日、その冒険者をアンデッドにして星の欠片採集を手伝わせれば良いのでは?と思い付く。

そんなことをしていたから、南部に魔王がいるらしいと誤解されたのだと知ったのはかなり後のことだ。


「ちょっと待ってください、アンデッド作る前に誰か雇えたのでは?村の人とか。」

弥生も思わず口を挟む。

「予算を計算した結果、労務費を捻出出来なかったのだ。」

「だったら他に削るとこあるでしょう?」

「何故?アンデッドなら労務費0なのに。」

根本的に考え方がおかしい。

「まあ待て、ここからが核心だ。」


人手が増えたので、星の欠片採集の進捗速度も上がった。

しかしその人手がアンデッドなので作業は夜しか行えない。

それがいけなかった。


村の中でアンデッドとともに作業をしていた。穴掘りならまだ言い訳のしようがあったが、よりによってアンデッドの調達を見られた。

騒ぎになった。

魔王の討伐隊が組織されていて、すぐ近くにいるから呼びに行くなどと言うではないか。

なんとしても止めなくては。

騒ぎはどんどん大きくなりもう手に負えない。

全員の口を塞ぐしかないと覚悟を決めた。

だが、1人だけ討ち漏らした。

吸い込まれそうな青い目をした子供だ。

目が合った。

絶対。


しかし村人たちの手で川に投げ込まれ、そのまま流されていくのを見た。

追えなかった。

既に村が燃えていた。

それを見たら国王軍が来てしまう。

だから急いで村から離れた。

離れたが、アンデッドの足が遅く気付けば既に国王軍に包囲されていた。

戦うしかない。

そして、博は強かった。

手持ちのアンデッドはなくしたが、新しいアンデッドを手に入れた。

国王軍と星の降る村の村人たちだ。


その後、邪魔も入らなくなったのでさらに星の欠片採集を進めた。

国宝軍と村人。

人手も充分だ。


そうやってかなりの量を溜めたと思ったが、製錬したらようやく小指の先ほどしか使えない。

面倒になった。

だから『アリステリア』を自作するのは諦めた。

そうなると不要なったアンデッドたちは眠らせて貯蔵品とし、国王軍との戦いで傷んだ服の新調に励むことにした。


「…諦めたんだ…そこまでやっといて。」

蒼真の目が死んでいる。二度と見られないぞ、これは。

「そこまでやってこれっぽっちだ。ペン先にした。」

「それしまって。なんかムカつくから。」

佐藤博の話は続く。


その間の18年くらいは平和だった。

会計士として忙しい日々を送っていた。

冒険者ギルドで打ち漏らしたあの子供を見るまでは。

あの吸い込まれそうな青い目!

間違いない。

大人となり、誰から見ても目を引く存在になっている。

嫌みなほどに博と真逆だ。

博は会計士としてほとんどすべての書類に触れることが出来たので、すぐに蒼真のことを調べ上げた。


その過程で、18年前のことを調べ直す計画があり、蒼真が派遣される可能性が高いことを知った。

ならば南部で問題を起こせば蒼真が派遣される。

おびき出して、そのドサクサで目撃者を消す。まずはそう計画した。


情報収集として度々開かれる会議にも素知らぬ顔で潜り込んだ。

計画が現実的になっていくに従って、貯蔵品としたアンデッドを再起動。

南部辺りで国王軍を行進させてちょっとした騒ぎを起こした。


そしたらまた博の想定以上の大事になってしまった。

18年前と同じように魔王討伐隊が組織され、辺境伯まで巻き込んでキャラバンを仕立てることになるとは。


それならば、とキャラバンに紛れ込んで行動をともにして、蒼真たちの近くで隙を伺うことにしたが意外と隙がない。

そうこうしているうちにキャラバンはあの星の降る村に近付いていく。

あそこには国王軍を置いている。

ちょうどいいからデモストレーションをすることにした。

あの村に近付くな、という意味だったり、この辺りに長居するなという意味だったり、単純に蒼真たちに自分の力を見せ付けたい気持ちもあった。


我ながら見事な軍事パレードだったと思う。

その甲斐あって効果はあったと思う。

しかし疲れた。

流石に疲れた。

疲れたので避難民に混ざって休んでいたら、蒼真の仲間の美しいエルフがスープをくれた。


「本当、図々しいですよね…まったくどの面下げて受取りますかね、あなたのせいで困ってる人たちの分なのに。」

卯月も目を釣り上げて怒る。スープの材料は商人ギルドの在庫だ。

「私からくれと言ったわけではない。」

「遠慮したらどうです。」

「なかなかの美味だった。」

「もう黙ってください。」

しかし佐藤博は黙らなかった。


再び町に戻ると、辺境伯の奥方が侯爵家に持ち込んだ『アリステリア』が行方不明と騒ぎになっていた。

博は辺境伯のキャラバンに潜り込んでいたので、知らぬ顔で奥方の護衛の騎士の中に紛れ込むことに成功していた。

『アリステリア』の現在の持主が奥方なので都合も良かった。

しかも、あの目撃者蒼真を『アリステリア』が選んだのなんだので、一時、蒼真が持主になるらしい。


チャンスだ。


蒼真を消して『アリステリア』を手に入れる。一挙両得ではないか。

佐藤博は攻勢に転じた。


ーーそして、今に至る。


「…以上が、私の物語だ。」

「……」

「……」

「……暇なの?」

蒼真の目はまだ死んでいる。

それも無理もないしょうもなさ。

しょうもないのに被害は甚大この上ない。


「本当に優秀なんだよね?」

「……そのはずです。」

しかし弥生も自信がなくなってきた。

「でもまあ、長生きみたいだしちょうどいいか。」

「そうですね。」

「アンタ、出来るって言ったよな。村を直せるって。」

「…ま…まあ、やろうと思えば。」

「やろうと思えよ。」

「…はい。」


今日、この場で『魔王』は廃業である。

言ってみれば黒字倒産して民事再生手続開始。

債権者は蒼真と蒼真の村。

魔王は勇者の支配下に入る。

勇者が『親』

魔王が『子』


即ち、連結決算だ。

読んでいただきありがとうございます!

次回は【明日20:30】に更新予定です。

お楽しみに!

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