最終章.勇者と魔王の連結決算
「よくやった、ペンドラゴン!」
辺境伯奥方が乾杯の音頭をとった。
今日は奥方主催の祝勝会を兼ねた晩餐会だ。
南部の状況が落ち着き、奥方も愛する旦那様辺境伯の所領に帰るので、その送別会も兼ねている。
貴族というものは、何かしらの理由をつけて晩餐会を開くものらしい。
「いいですか、皆さん、ここからが大切なところですからね。」
「分かってるって。」
この機に乗じてまたしてもお貴族様方からの出資を募る。
今回の『魔王討伐』で蒼真たちは一気に有名になった。
晩餐会には大貴族のお歴々が並び、開催会場の侯爵家の門前には、町の人々が蒼真たちの姿を一目でも見ようと押しかけた。
「村の再建にはお金がかかるんですから。」
チャンスだ。
蒼真たちには貯金はないが、佐藤博が作成した非の打ち所のない再建計画書と予算案がある。
そのプレゼンのために佐藤博本人も連れて来た。
勿論、『魔王』など処刑してしまえと言う意見が大勢だ。
それをこの再建計画書と蒼真が保証人となることで一旦は処刑を免れた。
但し、5年の猶予付き。
つまり、佐藤博はこの5年で一定の結果を出さなくてはならない。
その、弥生と卯月、そして佐藤博で綿密に練り上げた再建の骨子はこうだ。
1、蒼真たち『勇者』が資金を集めその資金を管理する=『親』
2、佐藤博『魔王』がその資金で村の再建の実務を行う=『子』
3、再建後は共同で村運営を担う
4、それにより利益が出た場合は出資者に配当を行う
最終章.勇者と魔王の連結決算
村の再建が始まった。
まずは蒼真たちの住む家が建ち、南部の異変で住む場所を失った人たち、再建の仕事をする人たちが移住して来たので、その人たちの家が建った。
小さいが、冒険者ギルドの支部も設置。
弥生がギルドマスター兼会計士だ。
再建の最前線は現場監督佐藤博が率いるアンデッド…元国王軍だ。
「やっぱり手際がいいですねえ。」
「前線には大工はいないから。自分たちで陣地の設営くらい出来るよう訓練は受けている。」
時折、当代最強の特務隊第三大隊を率いる『リアステア少将』こと蒼真の祖母のセレナが、有志とともにそのドラゴン部隊で資材の搬入を手伝ってくれる。
弥生は弾んだ気持ちで帳簿をつける。
「蒼真さんたちもりんごの収穫をお願いします。明日にはブリエさんたち商人ギルドから買付けが来る予定ですよ。」
「卯月に会うの久し振り!楽しみ!」
「私も手伝おう。」
「少しは残しておいてよ。アップルパイにするから。」
琴音の声にセレナが微笑む。
「私が作るの。楽しみにしてて。」
「やった!おばあちゃんのアップルパイ久し振り!」
明日の買付けに間に合うように夜までかかってりんごを獲った。
そろそろアンデッドたちの仕事時間だ。
「おい、博、ヘルメット取るな!どこにいるか分からなくなるだろうが!」
「これ、重いのだよ。」
「角なんかつけるからだろうが。」
元大工で棟梁的立ち位置の轟が現場監督の佐藤博の監督だ。アレコレ文句が多いものの、案外楽しそうに働いている。
国王軍の仕事も丁寧だ。
りんごの木の手入れも彼らの仕事のひとつだ。
「…それでも良かったのかな?国王軍。本当なら眠らせてあげるべきだよね。」
蒼真が心配そうにセレナに問いかける。
「そうかもね。でも、元々この軍はこの星の降る村を守る為に組織されたの。やっと任務を果たすことが出来るわ。」
傍らの兵士を見る。
目が合った。
するとひとつりんごの実を摘み取り、蒼真の手にそっと載せた。
「…ありがとう。」
兵士は無言でまた元の仕事に戻ったが、もしかしたら、そこには彼の想いが込められていたかも知れない。
例えもう生きていないとしても。
「ね、鎮魂はその後でも良いでしょう?」
再建は進む。
彼らはりんごの実る果樹園の手入れも担う。
「…彼らもりんご好きかな?」
「きっとそうね。」
失われた国王軍の手によって。
「ちょっと、ブリエさん、なんですかこの値段!いくら諸掛全部商人ギルド負担と言っても買い叩き以外の何ものでもないでしょう!」
「何を言うんです!人聞きの悪い!今年はりんごの当たり年。大豊作なんですよ。これでも『星の降る村』産ってことで高めにつけてます!」
卯月の買付け価格は弥生にとっては承服できない。
ここでは絶対引けない。
そっちがそう言うのならこっちも“飛び道具”を投入だ。
「蒼真さん!どう思いますか?」
「…!」
卯月は蒼真の“そ”の字を聞いた瞬間目を閉じた。
卯月が蒼真の顔面を見るのは久し振り。
免疫も薄れたことだろう。
「そりゃあ高く買ってくれるに越したことはないと思うけど…どう思う、博?」
「え?」
え?そっち?
現場監督博が急に話を振られて呆気にとられている。
それでも商談のテーブルの端に陣取ると、弥生と卯月の見積りを精査する。
会計士としては優秀過ぎるほどに優秀だ。弥生は勿論、卯月も緊張してしまう。
会計士としては2人の師匠のような存在だ。
「…まあ、確かに商人ギルドの見積り価格は市場価格からして適正だ。」
「ほら!」
卯月が勝ち誇る。
「しかし、だ。付加価値を軽く見積り過ぎだな。」
「ほら!」
今度は弥生が勝ち誇る。
「だからここで提案だ。りんご本体と付加価値は別に計上する。」
「どういうことですか?」
「星の降る村のりんごは星の成分を含んでいる。普通のりんごじゃないんだ。在庫はしっかり区別しろ。」
パチパチと算盤を弾いて続ける。
「で、それを『勇者の証明書』を付けて売れ。」
「……」
「…やるじゃん!博、本当、やれば出来るじゃん!」
「…何、これくらい。」
「いえ、確かに良いですね。思い付きませんでしたよ。」
「博がいて良かったよ!」
真正面から蒼真に言われ、流石の佐藤博も少しだけ笑った。
それは多分、佐藤博が欲しかった言葉だ。恐らくきっとずっと前から。
こうして色々なことがあった当期も終わる。
弥生の手元には2冊の決算書が揃った。
一冊は『勇者の決算書』
一冊は『魔王の決算書』
今からこれを連結し、一冊の決算書に仕上げる。
出資者たちに報告義務があるからだ。
来年も、その次も、その次も、この決算書は作られ続ける。
残り続ける。
そして、数字が残る。
数字には善悪はない。
ただの数字だ。
しかし、どう読むかで意味も変わり、武器にも盾にも何にでもなれる。
その読み方を決めるのは、その善悪を決めるのは会計士ではない。
会計士は記録する。
正確に。
ーーただ、事実を。
「弥生、終わった?」
「ええ。今期の帳簿は無事に閉じることが出来ました。蒼真さんは?」
蒼真は佐藤博とともに『勇者の証明書』について話し合いを続けていた。
「南部のりんごは俺たちの村のも全部まとめて売るよ。分けて保管するのもお金かかるから。」
「まあそうでしょうけど、星の降る村のりんごという付加価値が活かせないのでは。」
「でもさ、お金が必要なのは南部全体であって、俺たちの村だけじゃないだろ。」
蒼真は本当にこう言うところがとにかく鋭い。
「だからね、りんごひとつに10Gずつ上乗せする。それを南部復興の再建に使うってことで支援してもらうんだ。少しずつでもお金を出し合ったら、この場所がみんなの村みたいになるだろう?」
「広く寄付を集めるんですね。」
「そう!そのちょっと高くりんごを買ってくれた店には、俺が“ありがとう”の手紙を書くよ。」
それが『勇者の証明書』の代わり。
「…それは、とても良いアイデアですね。」
本物の『勇者』の証明書。
そのことも弥生は帳簿に書き込むだろう。
数字だ。
ただの数字。
だけど今、この数字は生きている。
誰かがこの帳簿を開く時、数字の温度を感じる誰かがいることを弥生は祈った。
お金の動きは人の営みの足跡だから。
「今日はもう寝ます。そろそろ冒険者ギルドでクエスト受注も始めますから忙しくなるので。」
「寝るの?じゃあ子守唄を歌ってあげよう。」
「子守唄?」
「そうだよ、寝て寝て。」
お空の星が降る夜は
星のかけらを数えましょう
ひとつ
ふたつ
もうひとつ
星を拾ったごほうびに
甘い木の実をあげるから
今日はおやすみ
また明日
お空の星が降る夜は
星のかけらを数えましょう
ひとつ
ふたつ
もりだくさん
星はみんなのお友だち
あなたもわたしも星の子よ
今日はおやすみ
また明日
「…でね、弥生、この歌に続きがあるんだよ。」
蒼真は続きを歌う。
弥生は目を閉じる。
お空の星が降る夜は
星のかけらを数えましょう
ひとつ
ふたつ
ほらここに
おかえり星の子 待ってたよ
ここはみんなの家だから
今日はおやすみ
また明日
お読みくださってありがとうございました。
もし、1話からずっとお付き合いくださった方がいらっしゃいましたら、楽しく読んでいただけていたらとても嬉しいです。
自作も絶賛構想中です。
楽しい話を考えていますので、ぜひ楽しみにしていただけたらと思っています。
お付き合いありがとうございました。




