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勇者の決算書〜冒険者ギルド会計士のヤケクソ仕訳  作者: 十一


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19/22

19、勇者

夜明けまであとだいたい90分(5400秒)

闇が深い。

ならばもうすぐ夜が明ける。

夜明け前が一番暗い。

「あー!カタパルト作ってませんか、あれ!」

「卯月ちゃん!危ないから身体を低くしてなさいってば!」

どうしても旧国王軍の動きが気になって仕方なくて、身を乗り出すのをやめない卯月を叱りつけながら、琴音が旧国王軍が組み立て始めたカタパルトを炎魔法で焼いた。

「おい、あの荷馬車、材木積んでるぞ!」

逆方向を指差すのは轟。

「了解したわ。」

魔王…佐藤博は会計士。

しかも超が3つ4つつくほどスゴ腕の。

即ち準備万端だ。

即座に琴音が荷馬車ごと焼き払う。


アンデッドになっていても、流石は18年前最強の旧国王軍。

現最強の特務第三大隊にも引けを取らない。

逆に言えば、約3倍の兵力の旧国王軍と互角以上に戦える特務隊が、どれだけ強いのかと言う証明でもある。


しかし

「…つっきぃ疲れてきてる…」

限界はある。

そしてアンデッドになってしまった旧国王軍にはそれがない。

アンデッドは仲間を求める。

アンデッドに殺されると、一定の確率でアンデッドになってしまう。

聖水なしでの接近戦は避けるべきだ。

それならば、アンデッドを操る魔王を討つ。

それが手っ取り早いのだが…


セレナ…『リアステア少将』が剣を振るう。

その度に火花が、稲妻が、氷が、旋風が舞う。

どれだけ激しくても城壁は傷つけない。

但し、城壁の外は焼け野原だ。

少将の攻撃と、少将が弾いた魔王の攻撃のせいで。

そこまでやっても少将の限界は見えない。

これが、当代最強。

むしろ魔王に限界が見える。


「18年前村を焼いたのはお前か?」

手にした剣に魔力を矯めながら、少将が冷たい瞳で魔王を見る。

「国王軍を倒したのはお前か?」

あの、深淵に引き摺り込まれそうな青い瞳だ。

しかし、少将は魔王の返答を待たない。

「運か良かったな…」

剣が帯電し始めた。少将の周囲が青白く光る。地面に転がっていた鉄剣などが浮かぶ。磁場だ。

「……あの時あの場には私がいなかった。」

剣を振り被る。

その時ーー

「…!」

「おばあちゃん!!」


魔王を守るように旧国王軍が壁を作った。

旧国王軍は彼女にとっては戦友だ。


火球。


一瞬の躊躇い。

『リアステア少将』が一瞬だけセレナになった。

躊躇うことなく魔王もろとも国王軍を撃てるなら、その髪が黒く染まったりはしない。

彼女は顔を見てしまった。

目が合ったと思ってしまった。

18年前、殺されてしまった戦友たちと。



一瞬だ。

たったの一瞬。

それでもそれが命取りだった。

「セレナ!」

火球が裂けて破裂した。

熱い。

そう感じたのも一瞬。

煙で何も見えない。

こんなに近くにいるのに。


「…流石はアリステリア。」

魔王が撃った火球はアリステリアが斬り裂いた。

いや、魔力を“喰った”。

刀身が赤く燃え、パチパチと音を立てている。

「…蒼真?」

「うん。おばあちゃん、大丈夫?」

セレナは無事だ。

「…平気。私が甘かった。」

しかし、彼女のドラゴンがその翼に傷を負った。翔べなくはないが翔ぶのに少し支障がある。

「分かっていたつもりだった…彼らはもう、彼らではないと。」

「…無理もないわ、セレナ。私にはあなたの気持ちがよく分かる。」

琴音が寄り添い、セレナのドラゴンの翼に回復魔法を施す。

「そうとも。素晴らしい保存状態だろう、我がアンデッドは。まるで生きているかのようだろう。」

魔王が勝ち誇ったように嗤う。

「……黙りなさい。」

周囲の温度が急激に下がった。


琴音の逆鱗。

アンデッド化した星が降る村の人々の鎮魂。

蒼真とセレナ、そして琴音の縁の人たち。

あんなに取り乱した琴音を、弥生は他に知らない。

「下がっていて、セレナ。私がやるわ。あなたにあんな想いをさせはしない。」

琴音が呪文を唱え始める。

氷だ。

アンデッドが凍り始める。


「…あんな想い…って?」

星が降る村の鎮魂が行われていた時、蒼真は深く眠っていた。

知る必要はなんかないと思っていた。

知らずに済むならその方がいい。

「…ああ、そうか…」

そう思っている。

今も。


それでも、蒼真はこんな時ばかり、敏い。

「……琴音や轟が村の人たちを送ってくれたんだね…それを弥生も知ってたんだね。」

魔王にアンデッドにされた、優しい人々。

「…はい。」

「口止めされた?」

「…はい…いえ……ええと…」

しどろもどろの弥生を見て、蒼真は笑う。

「まったくもう、琴音も轟もいつまでも俺のこと子供扱いするんだから。オマケに弥生まで。」

「そ…それは……!」

「ちゃんと分かってるよ。みんなが俺を守ってくれてたんだよね。」

アリステリアが温度を上げた。

赤を通り越して白くなる。

「だから今度は俺がみんなを守るよ。」


蒼真がアリステリアを魔王に向ける。

刃が鳴る。

「うん、そうだね。俺もそう思うよ。」

蒼真がアリステリアの声を聴く。

「本当、“激ダサ〜!超テンサゲ、マジありえん!”だよね。」

そう来るか。

ああ、アリステリアは相変わらずだ。

「な…なんだ、その訳の分からぬ物言いは!?」

魔王には聞き慣れない言い回し。

混乱している。

「“はあ?コッチこそワケ分からんなんだけど?”」

「その口調を止めろ!」

「“ジコチューかよ、マジ萎えなんだけどー”」

蒼真のアテレコでアリステリアと魔王の会話が続く。

今、この場で?

「『星の乙女』がそんな口のきき方するわけないだろうが!」

魔王が再び火球を放つ。

アリステリアがそれを“喰う”。

刀身の温度がさらに上がる。

「押し付けだよ、そんなの。本当、分かってないよな、アンタ…“だからモテないんだ〜マジ受ける〜”」

「そ…蒼真さん、それくらいで…煽り過ぎですよ、魔王、怒ってますよ…!」

蒼真といっしょにつっきぃに乗っているので見えてしまう。

魔王はアリステリア語で言うところの“激オコ”だ。

「俺だって怒ってるもん。」

「え…?」

珍しい。

蒼真が怒っているところなんて見たことがなかった。

「俺だって怒る時は怒るんだよ。」

いや、怒ってないな、これ。

怒る自分を面白がっている。

「もういい!『星の乙女』を寄越せ!!」

魔王が怒りに任せて火球を放つ。

「え?アンタ、アリステリアが欲しかったのか?でも、アンタにはアリステリアの声が聞こえないみたいだから教えてあげるよ。“マジありえんし〜人のハナシちゃんと聞けし”だってさ。」

蒼真がアリステリアでその火球を打ち返す。

「ーー!」

「聞こえないんだろ?アリステリアの声。」

アリステリアが炎で綺麗な円を描く。

「アリステリアは俺を選んだんだよ、ザマーミロ。」

「き…貴様…!」

もし蒼真が怒っているとしても、これはどう見ても子供の怒り方だ。

それだけに、魔王も余計に腹が立つのだろう。

ほんの少し、本当にほんの少しだが、魔王の気持ちが多少だが分かる。

腹が立つよな。

だって勝てないから。

勝てるわけがない。

魔王ごときが。


城門が軋んだ。

見ればアンデッドが密集して門を押している。

琴音の魔法で凍り付いたまま折り重なって門を押す。

「琴音、ダメだ!テメエの魔法じゃ門ごと吹っ飛ぶ!少将、アンタもだ!」

轟が琴音のドラゴンから飛び降りた。

「特務隊!工兵か手え空いてるやつ!なんでもいいからバリケード作るぞ!」

流石は最強部隊である特務隊。

轟の指示に従い、即座に手当たり次第にバリケードの材料を抱えて門の内側に集結した。

「轟!危ないから戻りなさい!」

「そっちのが危ねえや!それに卯月と琴音だけのが軽くてドラゴンも楽でいいだろうが!」

「本当にもう!あなたって人は!」

「卯月!琴音のブレーキ任せたぞ!」

「はい!」

「“はい!”じゃないわよ、本当にもう、あなたたちってば!」

「琴音さん!あっちお願いします!攻城槌ですよ、あれ!早く燃やして!」

「何がブレーキよ、もう!」

言った側から炎魔法を展開したのはセレナの方。

「遠距離は任せた、エリシオン…今は琴音か。私が近接攻撃の方をやる。剣を使えばコントロールしやすい。」

「だけどセレナ…!」

「大丈夫。私がやるべきだ。戦友の私が。あなただってそうするでしょう?」

『リアステア少将』ではなく、セレナ・ペンドラゴンとして。

「覚えているでしょう?私、あなたよりも強いのよ。」

「…それもそうだったわね。」

少将が前線に戻る。

ならば負けるわけがない。


蒼真と魔王の攻防は続く。

蒼真はセレナほど魔法が使えるわけではないが、剣の腕なら負けてはいない。

この期に及んでも剣筋は目が覚めるほどに美しい。

魔力を帯びたアリステリアがその魔力で彩って、それはさながら剣舞のようだ。

「…貴様は本当に覚えていないのか?18年前に起こったことを!」

魔王が蒼真の攻撃を受ける。

魔王の剣はオリハルコンだろうか。

アリステリアの刃にも耐えている。

「覚えているよ。大切な記憶だ。」

「ならば私の顔は…」

「見たかも知れないけど覚えてないよ。どうでもいいもん、そんなこと。」

「あれほどのことがあったのに!」

「だからそれは覚えてるよ。アンタの顔は見たところで覚える必要ないし、覚えられない。」

「…だったら私の18年は…」

「俺が目撃者だから俺を探したのか?無駄だったな。」


魔王は自らの種族を『ビジブルアンビジブル』と言った。

可視化された不可視。

今まで魔王を見た者は、死ぬかアンデッドになると言われていた。


しかし実際は、ただ、誰も覚えていないだけだったのだ。

誰も覚えていないならーー死んだも同じだ。


「…貴様…!!」

剣を合わせる。

火花が散る。

魔王の剣が折れた。

火花とともに切先が飛ぶ。


「皆さん!あと100秒で夜明けですよー!」

「卯月ちゃん!頭を低くしててって何度言ったら…」

「いいえ琴音さん。これがわたしの戦い方です。」

深く息を吸って声を張り上げ卯月がカウントダウンを始める。

「…100!」

確かにカウントダウンは残り100秒からと言ったのは弥生だが、まさか本当にやるなんて。

「99!」

しかし弥生も卯月に声を合わせた。

「98!」

琴音もセレナも笑う。

蒼真も。

魔王以外が笑っている。


カウントダウンを聞きながら蒼真は魔王に向き直る。

「アンタの顔を覚えてないって?そんなのお互い様だよ。」

「75!」

「……何を…?」

東の空が赤く染まる。

「51!」

「ずっと見てたのに気付かなかったのか?」

夜明けが来る。

魔王が再び火球を蒼真に投げつける。

それをまたアリステリアが“喰う”。

「28!」

アンデッドには眠る時間だ。

顔を出した朝日が蒼真を明るく縁取った。

「16!」


「…俺は、勇者だよ。」


読んでいただきありがとうございます!

次回は【明日20:30】に更新予定です。

お楽しみに!

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