12、星の乙女
「いいですか?余計な言い訳はせず、ありのままを話して謝罪しましょう。」
それでも正直命の保証はない。
今、蒼真の手には国宝の剣『アリステリア』がある。
「だけど本当に俺ん家に置いてあったんだってば!」
「それでもです。」
この国宝は、現国王の姉君が辺境伯に嫁ぐ際、嫁入り道具として持ち出し、愛する旦那様たる辺境伯に贈られた剣である。
この度の南部の異変で奥方と一緒に疎開してきた。
「今日は商人ギルドのブリエさんにも来てもらいました。本当に南部から戻ったばかりで、『アリステリア』を持ち出す時間はなかったと証明してもらいます。」
卯月は何がなんだか分かっていないが、それならそれで好都合。
この場合、琴音や轟に頼ると、恐らくカオス状態が悪化する。
卯月しかいない。
なんとか奥方に納得してもらわなくては命に関わる。
果たして、辺境伯ご一家が身を寄せる侯爵家では大騒ぎになっていた。
国宝の『アリステリア』が行方不明なのだ。
無理もない。
「あのー…もしかして、こちらをお探しでしょうか?」
弥生が生まれてこの方、一番の勇気を出して混乱の渦中に飛び込む。
「!なんと!!どこでこれを…?!」
さらなる混乱。
「あ、それは俺の…痛っ!」
黙ってろ蒼真、と渾身の力で蒼真の足を踏みつける。
命懸けだが無駄死にするつもりはない。
「事情を説明致します。奥方はどちらに?」
どう整理し説明しても荒唐無稽な内容に、当然ながら奥方も眉をしかめた。
「作り話としてはあまりにも出来が悪い。此度は不問としよう」
どう見ても奥方も信じてくれたわけではないが、肝心な『アリステリア』が無事に戻ったので、今回はなんとか命拾いした。
「…わたしは何に巻き込まれてるんですか…?」
不在証明のために引っ張り出された卯月には、未だ何がなんだか分かっていない。
「本当にごめんね、俺も何がなんだか。」
当事者!
しかしこの状況を理解している者などいない。
弥生だってまったく分かってなどいない。当然、卯月が納得出来る説明など出来そうにないので話を逸らすことにする。
「…報告書の作成ですが、協力しませんか。後でまとめるなら最初からまとめた方が効率的ですし。」
「あ、それは良いですね。」
「ならさ、俺ん家おいでよ!ここからなら近いよ。」
「ええ!?」
「驚き過ぎです、卯月さん。蒼真さんの家の方が冒険者ギルドよりマシじゃないですか?」
弥生だって商人ギルドには長居したくない。
この期に及んでも冒険者ギルドと商人ギルドは犬猿の仲だ。
「…そ、それもそうですね…」
「決まりだね!」
「奥の部屋使ってね。一応お客さん用なんだ。」
「お邪魔します。」
蒼真の自宅は想像より片付いていた。
無駄遣いばっかりしてるので物が多いかと思っていたが、多いのは剣だけで、それ以外は物が少ない。
南部から帰ったばかりなので荷解きはまだだが、それ以外は案外片付いている。
冒険者なのだから自宅にはあまり帰らない。
そう言うことなのだろう。
「じゃあごゆっくり。」
“お客さん用の部屋”から蒼真が出て行くと、あからさまに卯月が緊張を解いた。
「早速ですがアバカスさん、払出在庫の評価額が間違っていますよ。」
「…!何を!買入時の原価から算出しました。正確な数字です!」
「いいえ!わたしは評価額、を言っているんです。評価損を計算に入れてませんよね?」
「なんと…!販売目的ではない在庫に評価損?棚卸減耗損ならまだしも!」
弥生の言葉に卯月が固まる。
「……その…棚卸減耗損なんですが………どうします?…あの…聖水……とか…」
轟がワインにしてしまったあれ。
「………どう…しましょうか…」
美味しかった。
美味しかったけど!
二人は無言で頭を抱えた。
その時。
「弥生弥生弥生弥生弥生!!!」
ドタバタと蒼真がノックもせずに飛び込んできた。
「ちょっと蒼真さん、本当、今それどころじゃ……」
ま
さ
か
?
「何してくれやがるんですか!!」
「だから!俺じゃないってば!!」
またしても国宝の剣『アリステリア』が蒼真の手の中にある。
「さっきお返ししたとこじゃないですか!」
「だから!!なんかノックの音したからドア開けたらあったんだって!」
「剣はノックしないんですよ!」
「したんだって!それで『置きざりなんてひどくね?超テンサゲ〜』って!」
「剣はしゃべりませんよ!一億歩譲ってしゃべったとして、なんですか、その口調!」
あまりの大惨事に弥生の後ろで椅子ごとひっくり返る卯月。
ようこそ、冒険者ギルドへ。
「今度は僕1人で返しに行って来ます。ブリエさんはしっかりと、1秒たりとも目を離さず蒼真さんを見張っててくださいね。」
「う…うええ…」
「後ろからで良いですから。」
卯月は未だ蒼真の顔面に慣れない。
確かに外見は良い。
しかし中身はコレである。
いい加減慣れても良い頃ではないか。
それにしても2度も勝手に着いてきた…ことになっている『アリステリア』。
多分、蒼真に。
なのであえて蒼真を置いてきた。
ちょっとした実験である。
また、弥生には切り札があった。首の皮1枚をつなぐかもしれない無形固定資産。
果たして、辺境伯奥方の滞在先は再び混乱の渦中にあった。
瞬く間に引っ捕まって、奥方の御前に引き出された。
「……!またお前か…!」
流石にお怒りだ。
弥生は気合を入れ直す。
「恐らく…剣にも意思があるんでしょう。なんと言っても国宝ですから」
「では何か?『アリステリア』があの……愉快な若者を選んだとでも?」
奥方なりに言葉を選んだ。
流石は王家の血筋。
育ちが良い。
『アリステリア』の方はすぐに取り上げられ、厳重に騎士たちに守られながら奥方が身を寄せる侯爵家の鍵付宝物庫に収められた。
「あの若者は何者だ?」
「そうですね…別に高貴な生まれとか何かの曰くがあるわけではない、そこそこ腕利きの上級冒険者です。」
「…それだけとは思えぬ。」
弥生にはここが勝負どころ。
慎重にカードを切る。
「…強いて言えば…18年前、国王軍と同じ頃、魔王に消された村唯一の生き残りです。」
奥方の眉が動く。
「どう言うことか分かりますね?」
魔王に会った者たちの末路は死ぬかアンデッド。
ーーしかし…
「…見たのか?……魔王を。」
「恐らく」
唯一の生き残り…つまりそう言うことだ。
「魔王の顔を知る者ならば、魔王を斬ることが出来る…?だから『アリステリア』はあの若者を選んだと?」
蒼真が、というわけではなく、『アリステリア』なら魔王を斬ることが出来るかも知れない。
『アリステリア』は特別な剣だ。
「…そこまでは言いませんが…気付いてますか?魔王が動き始めたのは、彼が上級冒険者になって、公的文書に名前が載るようになった時期と重なることを。」
「……まさか…」
「魔王は探しているんですよ、18年前、殺し損ねた子供のことを。」
弥生にも見つけることが出来た。
例え名前を変えていても。
魔王にだってそれが出来ると考えるのは自然なことだ。
「…何を言っているのか分かっているのか?」
「ええ、勿論。奥方にもお分かりの筈。蒼真・ペンドラゴンはもうただの冒険者じゃありません。」
そして18年分の文書を見る事が出来るのならば…
「……魔王が…王都にいる…のか?」
「そう言えるかも…
「弥生弥生弥生弥生弥生弥生!!!」
「アバカスさんアバカスさんアバカスさんアバカスさん!!!」
辺境伯麾下の騎士を引き連れ飛び込んできたのは当然蒼真…と卯月…と
「ああ…やっぱり…」
…『アリステリア』だ。
「申し上げます!宝物庫から『アリステリア』が消えまし…あったぁああ!!」
と、血相を変えて駆け込んできた『アリステリア』護衛の騎士も絶叫した。
「…まさか…!本当に『アリステリア』は…」
「また戻ってきたんだってば!俺じゃないよ!」
「え…ええ!わたし、ずっと見張ってました!目を離さずに!!そしたらドアの外からトントンって!!」
「それで!『いい加減にしないとウチもオコだし』って!」
「そう…オ…?…それはよく分からないけど、本当にドア開けたら誰もいなくてこの剣だけあって!」
「…我が目を疑うとはこう言うことだな…」
流石の奥方も言葉を失う。
実験ではあったが、それでも本当に蒼真を追うとは。
改めて目の当たりににすると驚いてしまう。
そう言えば蒼真の長い本名『ソーマ・フィロソフィ・ルクレティア・リヒト・アリステリア・インテグレート・アンダンテ・ペンドラゴン』に『アリステリア』があった。
蒼真にはまだ何かあるのだろうか?
「で、『アリステリア』の言葉が分かるとは誠か?」
奥方の執務室のような部屋で、護衛の騎士5人、9つの眼(1人は眼帯姿だった)に睨まれながら、奥方直々の御下問である。
「はい。すごい気さくですね」
それでも蒼真はこの通りいつもの回答。
もう少し緊張して欲しい。
「…そうか。何と言っておる?」
「そうですね…ちょっと聞いてみますね。」
などと言って『アリステリア』に話しかける蒼真。
弥生は生きた心地がしないし、卯月に至っては最早死んだ心地だろう。
「なんか…名前が気に入らないみたい。」
「は?」
「アガらないんだって。」
「は?」
蒼真よ気付け。
この氷のような空気を…!
弥生は祈るがそんな祈りが届く蒼真ではない。
「俺に名前を付けて欲しいそうです。」
「「「は?」」」
この場の人間全員がフリーズした。
読んでいただきありがとうございます!
次回は【明日20:30】に更新予定です。
お楽しみに!
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