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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第98話:『裏切りの後衛と、リーダーの絶対命令』

 王都の地下深くに広がる大迷宮。

 熟練の冒険者であっても、足を踏み入れることすら躊躇する深層の最奥。そこに、歴史上数えるほどしか到達した者のいない未踏の領域『真層』へと続く、巨大で重厚な扉がそびえ立っていた。


「……よし。ここから先は未知の領域だ。隊列を組むよ」


 ヘンドリックは真剣な面持ちで、パーティーメンバーに向かって指示を出し始めた。

「ブラムとサンネが前衛。俺は真ん中で、索敵と支援に徹する。ロッテとエリーゼは後衛で、魔法と回復のカバーをお願い。そして王女殿下は一番安全な俺の後ろに……」


 ギュッ。

 ヘンドリックが言い終わる前に、王女が当たり前のような顔をして、彼の右腕にぴったりと絡みついた。

 その豊満な胸の感触が、腕越しにダイレクトに伝わってくる。


「……王女殿下? 近すぎます。というか、歩けません」

「何を言うか。真層は恐ろしい場所じゃと聞く。わらわはそなたから、片時も離れぬぞ」

「いやいや、危ないですから。それに俺は、パーティーメンバーとは一定の距離を保つって決めてるんです。いくら王族でも、迷宮の中ではルールを守って……」


「ふふっ。何を言うかと思えば」

 王女は腕に絡みついたまま、勝ち誇ったような艶やかな笑みを浮かべた。


「わらわは『神創の覇星』の時から数えても、そなたのパーティーのメンバーになったことなど一度もないぞ? わらわはあくまで『依頼主』であり『護衛対象』じゃ。つまり、そなたのその変なポリシーは、わらわには一切適用されぬ!」


「……えっ?」

 完璧な屁理屈だった。

 ヘンドリックは自分の防御壁のバグを突かれ、思考が停止した。


「ほ、ほら、エリーゼ! サンネ! ミラ! 殿下を引き剥がしてくれないかな! これじゃ前衛に出られないし、危ないから!」


 慌てていつものようにヒロインたちに助けを求めるヘンドリック。

 いつもなら「王女殿下! 抜け駆けはずるいですわ!」と激しい火花が散るはずの場面だ。

 しかし。


「……」

 エリーゼは、なぜか扇子で口元を隠し、明後日の方向を見つめていた。

(……ごめんなさい、ヘンドリック。でも、王女殿下から提示された世界樹の根の構造図……私にはどうしても必要なのですわ……!)

「……んんっ」

 サンネも、不自然な咳払いをして視線をそらす。

(……許してくれ旦那様。実家の再興と父上の領地拡大という条件、騎士としてどうしても蹴れなかったのだ……!)

「……ぴゅ~、ぴゅぴゅ~♪」

 ミラに至っては、耳をペタンと伏せて、下手くそな口笛を吹いてごまかしている。

(……同盟の件、親父がすっごく喜んでたんだゾ。ごめんなんだゾ、ボス……!)


 王女による事前の「完璧な根回し(買収)」が行われていたことなど、ヘンドリックが知る由もない。


「えっ……お前ら、どうしたの!? なんで今日に限ってそんなに大人しいの!? 具合でも悪いの!?」


 完全に状況が理解できず、ヘンドリックは最後の希望――愛弟子たちへと視線を向けた。


「ブ、ブラム! ロッテ! お前たちなら俺の気持ち、分かってくれるよな! お願い、ちょっと殿下に言ってやって……」


 しかし、野生の勘で「この女たちのドロドロした空間に関わったら死ぬ」と悟ったブラムは、そそくさと大剣を担ぎ直した。

「あー、俺、真層の入り口がどうなってるか、ちょっと前衛として偵察してくるわ! じゃあな、おっさん!」

「あっ、待ってくださいブラム君! わたしも、前衛のブラム君のサポートに行きますね! リーダー、お先に失礼します!」


 師匠の悲痛な叫びを華麗にスルーし、二人はさっさと真層の重い扉の方へと小走りで逃げていく。


「おい、ロッテ後衛じゃなかったのかよ! 真面目なお前まで裏切るのかあ!!!」


 ヘンドリックの悲痛な絶叫は、無情にも迷宮の暗がりへと吸い込まれ、かき消されていった。

 誰も助けてくれない。完全に孤立無援となったヘンドリックは、王女に腕をホールドされたまま、深く深くため息をついた。


「……みんな、いい加減にしてくれるかな」


 スッと。

 ヘンドリックの声から、いつもの飄々とした温度が消えた。

 それは、迷宮の底でしか見せない、職人としての冷たいトーンだった。


「ここは迷宮だ。政治も権力も関係ない。そして、このパーティーのリーダーは俺だ。王女殿下も、迷宮に入る以上は俺の指示に従ってもらう」


 ヘンドリックは、王女の目を見て腕を静かに外し、冷酷なまでに落ち着いた声で言い放った。


「……俺の言うことが聞けないなら、この探索は今ここでおしまい。俺は一人で帰らせてもらうよ」


 退路を断つ、リーダーとしての絶対の威厳。

 これだけ厳しく言えば、さすがの王女もヒロインたちも、身の危険を感じて少しは大人しくなるだろう。

 ヘンドリックはそう確信していた。


 だが。


「……っ! 迷宮内では、リーダーであるそなたの指示が【絶対】……!」

 王女の頬が、なぜかポッと赤く染まった。

「つまり、そなたが『わらわを抱きしめよ』と命じれば、それに従わねばならぬということじゃな……! なんと甘美な響きじゃ!」


「ああ、普段は優しい旦那様が、いざ現場に出ると見せるこの冷たくて厳しいお顔……。痺れますわ。ええ、リーダーの絶対命令、なんでも従いますわ」

 エリーゼが、扇子を握りしめてうっとりとしたため息を漏らす。


「主君の絶対命令……! 騎士として、これほど胸が高鳴ることはない!」

「群れのボスの命令は絶対なんだゾ! アタシ、何でも言うこと聞くんだゾ!」

 サンネとミラまでもが、妙に目を輝かせて色めき立っていた。


『違う!! なんでお前ら、怒られて頬を赤らめてるんだよ!』


 心の中のツッコミは、当然誰にも届かない。

 威厳を見せたせいで、逆に彼女たちの「変なスイッチ」を押してしまった最強の便利屋。


 妙な熱気に包まれた美女たちを引き連れ、ヘンドリックは深い深い絶望と共に、ついに真層の重い扉へと手をかけるのであった。

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