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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第83話:過去の十字架と、粉砕されたトラウマ

王都の学舎区画へと全力で駆け抜けながら、ヘンドリックの脳裏には、彼が三十五歳になるまで頑なに独身を貫いてきた「重いトラウマ」がよぎっていた。

 かつて、ヘンドリックがまだ若き冒険者としてこの王都を拠点にしていた頃。

彼はダンジョンの探索中、自分の不用意な判断と無力さが原因で、当時のパーティーメンバーの恋人だった人間の女性を罠から守りきれず、彼女に一生残るほどの大怪我を負わせてしまったのだ。

 彼女は笑って「大丈夫」と言ってくれたが、その傷は深かった。少なくとも、当時のヘンドリックの目にはそう見えた。

『俺は万年レベル1の便利屋だ。誰かの人生を背負う資格なんてない』

 その深い罪悪感と負い目から、彼は王都から逃げるように水の都へと去った。二度と同じ悲劇を繰り返さないため、彼は表舞台に立つことをやめ、エリーゼたちのようなトップランカーを安全に育成する裏方に徹し続けた。

 そして恋愛も、しなかった。

誰かを好きになるたびに、あの時の記憶が蘇って、自分から遠ざかってきた。長年、ずっとそうしてきた。

 ちなみに、彼が最後に所属していたあの「最悪のパーティー」も、ギルドマスターから「あのリーダーはどうしようもないが、新人たちを見殺しにもできない。頼むからお守りをしてやってくれないか」と泣きつかれ、過去の贖罪のつもりで引き受けたのが実情であった。

『過去の因縁が、すべてこの王都で繋がっていく……』

 隣を走るエリーゼたちの横顔が、一瞬だけ脳裏をよぎった。

彼女たちが自分に向ける眼差しの意味を、ヘンドリックはとっくに知っていた。ただ、受け取ることを、ずっと自分に許してこなかっただけだ。

 だが今は、そんなことを考えている場合ではなかった。

 ヘンドリックたちが学舎の正門に到着すると、そこはすでに狂乱の魔物たちと、防衛線を張る集団との激しい戦場と化していた。

石造りの正門が半壊し、校舎の窓という窓が割れ飛んでいる。逃げ遅れた生徒たちの悲鳴が断続的に響き渡り、防衛線を張る兵士たちの顔にも疲弊の色が濃い。

「前衛、一気に押し込むぞ! ロッテ、【索敵Lv5】で妹の位置を特定してくれ!」

「了解です! ……西棟の地下、生存者多数確認! 妹さんも無事です!」

「よし、西棟を死守する! ブラム、サンネ、頼む!」

「任せろ!」「承知!」

 二人が即座に前衛へと飛び込んでいく。

ヘンドリックはミラとエリーゼを左右に展開させ、自身は【索敵Lv1】で全体の魔物の分布を把握しながら後方から指示を飛ばした。

 その時だった。

防衛線の最前線で、無数の魔物を相手に立ち回っている一人の女性戦士の姿が、ヘンドリックの目に飛び込んできた。

「【土魔法Lv1】で足場を崩して、【水魔法Lv1】の目潰し! ……からの、【投擲Lv1】!」

 それは、かつてヘンドリックが徹底的に叩き込んだ「レベル1スキルの泥臭い連携術」そのものだった。

教えた記憶がある。あの頃、まだ自分が冒険者として王都にいた頃に。

「なっ……お前、まさか……!」

 ヘンドリックが驚愕の声を上げる。

振り返ったその女性の顔は、ヘンドリックが今でも夢に見るほど後悔し続けてきた、あの「大怪我を負わせてしまったパーティーメンバーの元恋人」であった。

だが、彼女の体には一生残るはずの傷跡などどこにもなく、それどころか当時より遥かに力強く、しなやかに剣を振るっているではないか。

「ヘンドリック……!? なぜあなたがここに!」

 彼女もまた、ヘンドリックの姿を見て目を見開いた。

そこへ、ヘンドリックたちに肩を貸されてここまで辿り着いたルークが、ふらつきながら進み出た。

「おお……無事だったか、アイシャ。よくぞ妹殿たちを守り抜いてくれた」

「ルーク! あなたこそ、そんな酷い怪我をして……!」

 彼女――アイシャは、剣を放り出してルークに駆け寄り、その血まみれの体を愛おしそうに抱きしめた。

そして彼女の手から、ルークの傷を瞬時に塞ぐための【闇魔法】と、魔族特有の微かな瘴気が漏れ出した。

『…………え?』

 ヘンドリックの足が、ピタリと止まった。

その波動は、紛れもなく「魔族」の波長だった。

ヘンドリックが「自分のせいで一生を台無しにしてしまった」と長年十字架を背負い続けていたか弱き人間の女性は、完全に人間に偽装していた超頑丈な純血の魔族だったのだ。

魔族の圧倒的な再生能力の前に、ダンジョンの罠の傷など数日で完治していたのである。

「ああ、ヘンドリック殿。紹介が遅れました。彼女は私の最愛の同志であり、未来の妻です。あなたが彼女に叩き込んでくれた生存技術のおかげで、今日まで妹殿を守り抜くことができました」

 ルークが血まみれの顔で爽やかに笑う。

ヘンドリックが誰かを愛することを恐れ、長年独身をこじらせていたあの重苦しいトラウマ。

それは、ただの「頑丈な魔族の治癒力を知らなかっただけの、完全な一人相撲」であった。

『俺の……俺の長年の、あの重苦しい罪悪感を……返せええええええっ!(体感的に三十五年分の重さだった)』

 心の中で血の涙を流しながら絶叫するおっさん。

横ではエリーゼが「旦那様、大丈夫ですか? 急に青ざめて……」と心配そうに覗き込んでくる。ミラが「ボス! 魔物がまだいっぱいいるんだゾ!」と尻尾を振りながら叫んでいる。

 だが、状況は一刻を争う。

ピンピンしていた元トラウマの女(魔族・別の男と婚約中)と、妹の平和な学舎を守るため、ヘンドリックはやり場のない虚無感と怒りをすべて【オリハルコンの剣】に込め、全力の複合魔法を展開した。

「【土魔法Lv1】【火魔法Lv1】【風魔法Lv1】……全部まとめて、ぶっ込む!!」

「クソ野郎どもがああああっ!」

 涙声での絶叫と共に、最強の便利屋が狂乱の魔物たちへとヤケクソ気味に突撃していく。

その姿を見ながら、エリーゼはふと目を細めた。

『……今日のあなたは、少し違うわね』

 いつもの飄々とした逃げ腰ではなく、何かが吹っ切れたような、それでいてどこか泣きそうな顔をしていた。

長年、ずっと自分を縛り続けてきた鎖が、今この瞬間、粉砕された音がした気がした。

 哀れ、ヘンドリック。

長年の罪悪感は一人相撲だった。

だが、その一人相撲のおかげで、今ここにいる仲間たちと出会えたのだから、人生とは何が起こるかわからないものである。

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