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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第82話:ズタボロの魔族と、侯爵への片道切符

「も、もう勘弁してくれ……俺は自分で肉を噛みちぎりたいんだ……」

 体が動けるようになって三日が経つというのに、ヒロインたちの過保護介護は一向に終わる気配がなかった。

 ヘンドリックが自分でスプーンを持とうとすると「ダメです」、自分で着替えようとすると「まだ早い」、自分でベッドから起き上がろうとすると「横になっていてください」と四方から制止が入る。

 最強の便利屋にして伯爵の、この情けない現状。

 ヒロインたちに囲まれ、涙目で訴えていたその時だった。

 ガシャァァァァッ!

 伯爵邸の客間の窓ガラスが派手に砕け散り、血まみれの何者かが部屋の中へと転がり込んできた。

 悲鳴を上げてメイドたちが逃げ惑う中、サンネとミラが即座に武器を構えて前に出た。サンネが盾を構えながら低く腰を落とし、ミラが【獣化Lv5】の鋭い感覚を研ぎ澄ませて侵入者を睨みつける。

「何者だ! 伯爵邸への襲撃か!」

 だが、血の海に沈みながら荒い息を吐いているその侵入者の顔を見て、ヘンドリックは驚愕に目を見開いた。

「待って、武器を下ろしてくれ。そいつは……」

 それは数日前、スマートな商人の姿でこの部屋に現れ、不敵な笑みを浮かべていた魔族のルークだった。

 しかし今の彼は、あの時の余裕など見る影もない。全身に無数の斬り傷を負い、自らの瘴気すら維持できないほどズタボロの状態だった。普段なら一瞬で再生されるはずの魔族の傷が、塞がる気配すらない。

「……ルーク。その傷、どうしたんだ」

 ヘンドリックがベッドから飛び降り、彼に駆け寄る。ヒロインたちの静止を振り切り、ルークの体を抱き起こすと、ルークは血を吐きながらヘンドリックの腕を強く掴んだ。

「へ、英雄殿……すまない。私としたことが、奴らの動きを読み違えた……」

「奴らって……手紙に書いてあった【闇商人】か?」

 ルークは苦しげに頷いた。

「奴らは、あなたをこの王都から引きずり出すために……一番の弱点である、妹殿のいる学舎の区画を狙っている。私はそれを察知して止めに入ったが……奴らの用意した狂乱の魔物たちの奇襲を受けた」

「……妹は? 学舎の生徒たちは?」

「安心、しろ……。私の同志たちが今、決死の覚悟で学舎の防衛線を張り、妹殿たちを守っている。だが、相手の数が多すぎる。もってあと数時間だ……!」

 ルークが力を振り絞って言い切った瞬間、彼の体から大量の血が溢れ出した。

「エリーゼ、ロッテ。ルークに回復魔法をかけてあげてくれるか」

「……魔族に回復魔法を使うのは初めてですが」

 エリーゼが眉を顰めながらも、即座に回復魔法を展開した。ロッテも一緒に【浄化魔法Lv4】で傷口の毒素を取り除いていく。

「……ありがたい。人間に手当てしてもらうとは、思いもよらなかった」

 ルークが弱々しく苦笑した。

 ドォォン! と大きな音を立てて客間の扉が開き、王室の近衛兵を引き連れた王女が血相を変えて飛び込んできた。

「ヘンドリック! 無事か!」

「で、殿下!? なぜこちらに……」

 王女はベッドの脇で倒れているルークを一瞥したが、驚く様子もなくヘンドリックの前に歩み寄った。

「王宮の魔導通信網が、学舎区画に異常な魔力の膨張を検知した。正体不明の武装集団と、狂暴化した魔物たちが学舎を包囲しているという報告が入っておるぞ!」

 王女は一歩踏み込み、ヘンドリックの目を真っ直ぐに見つめて宣言した。

「ヘンドリック伯爵! これは王家からの正式な【緊急最優先依頼】じゃ。学舎区画を守り、そなたの妹君を救い出してほしい! この功績が果たされた暁には……王家はそなたに『侯爵』の位を授けることを約束しよう!」

『……っ』

 ヘンドリックは一瞬、絶望に顔を歪めた。

 妹を助けに行きたいのは山々だが、それを「国家の正式依頼」にされた上に「侯爵」への手形まで出されてしまった。ここで活躍すれば、もう二度と平民には戻れない。

 スローライフが。

 俺の残りの人生が。

 便利屋として静かに生きていく夢が。

 完全に、終わる。

 だが、学舎の方角から聞こえてきた微かな爆発音が、ヘンドリックの迷いを断ち切った。

 今は妹だ。それだけだ。

「……わかったよ。行くよ」

 たったそれだけの言葉だった。

 しかしヘンドリックは空間拡張の鞄から【オリハルコンの剣】を静かに引き抜き、全身から7000の魔力を冷たく、重く滲み出させた。

「サンネ、ミラ、エリーゼ。ブラムとロッテにも連絡を回してくれるかな。フル装備で行くよ」

「承知!」「わかったんだゾ!」「ええ、もちろんですわ」

 一瞬で全員が動き出す。

「俺の休日は百歩譲っておいてあげるよ。侯爵にされそうなのも、まあ百歩譲って後で考える。……だけど、俺の妹の平和な学校生活をぶち壊そうとするのだけは、許せないね」

 怒っているのに、声は静かだった。

 いつもの飄々としたおっさんのトーンのままで、しかしその目だけが、冷たく燃えていた。

「……旦那様」

 エリーゼが静かに、しかし力強く頷いた。

「行きましょう」

 最強の便利屋にして、世界一の過保護な兄。

 妹の危機、そして王家からの正式依頼というダブルの重圧を背負い、ヘンドリックはかつてない本気の静かな怒りを瞳に宿して、戦場と化した学舎へと出陣するのであった。


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