第67話:王都の地下の謎と、魔法の掘削機
【鑑定Lv1】を起動し、地盤の状態を把握する。地下数メートルの範囲は把握できるが、それより深い部分は判別できない。魔道具で補正をかけても、岩盤の奥まではさすがに届かなかった。
『……スコップなんかでチンタラ掘ってたら日が暮れるな。一気に魔法でくり抜くぞ』
ヘンドリックは魔道具一式を展開し、地面に両手をつけた。
「【土魔法Lv1】で地盤を緩ませ、掘り出した土砂を【空間拡張Lv1】で開放した鞄へ直接収納。……【魔力操作】で軌道を完全に固定!」
ズゴゴゴゴォォォッ!
周囲に土埃ひとつ舞い上がることなく、ヘンドリックの足元の地面が凄まじいスピードで真下に向かって消失していく。掘り出された土砂は一切外に出ることなく、魔法の鞄の異空間へと直接吸い込まれていった。完全に稼働する工業用の魔法掘削機であった。
「す、すごい……あの大穴が、どんどん深くなっていく……」
上から見ていた冒険者の一人が呆然と呟く。
「しかも粉塵が一切出ていない。普通の採掘魔法とは全然違う……」
「当たり前じゃないですか。あの方はヘンドリック様ですよ」
隣の冒険者が当然のように答えた。
地下十メートル、二十メートル、三十メートル。ヘンドリックは止まらない。
地盤の硬さや質感が変化するたびに、【鑑定Lv1】で状態を確認しながら掘削の速度と方向を微調整していく。硬い岩盤に差し掛かれば【土魔法Lv1】の出力を上げ、脆い地層では慎重に土砂を剥がしていく。
地下数十メートルまでノンストップで掘り進んだ、その時だった。
カキンッ、と魔法の波紋が非常に硬い岩盤にぶつかった感触があった。
ヘンドリックは【鑑定Lv1】でその先を視る。
『……岩盤のすぐ下に、尋常じゃない圧力の液体が溜まってるな』
圧力は相当なものだ。下手に大きな穴を開ければ、制御不能な勢いで噴き出してくる可能性がある。
『よし、慎重にいくか。【土魔法Lv1】で岩盤に小さな亀裂を入れて、まず圧力だけを抜いてみよう』
ヘンドリックは岩盤に指先を当て、魔力で極めて小さな亀裂を慎重に入れた。
ピシッ、という微かな音がした。
次の瞬間だった。
ズドォォォォォッ!!
亀裂から噴き出した熱湯と白い湯気が、凄まじい勢いで地下から立ち昇り、ヘンドリックの体を真上へと軽々と吹き飛ばした。
「うわああああっ!?」
地下数十メートルから地上まで、熱湯の間欠泉に乗って一気に打ち上げられたヘンドリックは、ズブ濡れになって広場の石畳に転がった。
上から見ていた冒険者たちが「ヘンドリックさん!?」と駆け寄ろうとする中、ヘンドリックは火傷一つ負わず、ツヤツヤの顔で起き上がった。
【魔法抵抗Lv1】が熱を自動的に軽減し、とっさに展開した【土木建築Lv1】の薄い障壁が直撃の衝撃を和らげていた。
『な、なんだこのお湯。ちょうどいい湯加減……それにこの硫黄の匂い』
ヘンドリックは立ち上がりながら、鼻腔をくすぐる独特の香りに目を細めた。
『間違いない。これ、最高級の天然温泉だ』
広場の中央から、勢いよく湯気を上げながら噴き出し続ける熱湯の柱。王都の地下に眠っていた熱源の正体は、マグマでも魔物の巣でもなく、長年地脈に閉じ込められていた超良質な温泉の源泉だったのだ。
「へ、ヘンドリックさん! 無事ですか!」
「ああ、大丈夫だよ。……それより、これ、温泉だな」
「温泉……!?」
「うん。硫黄の匂いと湯温からして、かなり質がいいやつだよ。怪我の回復にも効くタイプだと思う」
ヘンドリックが飄々と答える横で、冒険者たちが顔を見合わせた。
地下の謎の熱源を調査しに行ったはずのおっさんが、全身ずぶ濡れで温泉の解説をしている。
「あの……ヘンドリックさん。これ、どうするんですか?」
「どうするって……まあ、噴き出しっぱなしにしておくわけにもいかないから、流量を調整して安全に使えるようにするか。【土木建築Lv1】で配管を引いて、温泉施設にでもすれば、王都の住民の癒やしになるんじゃないかな」
「……やっぱりこの人、規格外だ」
冒険者の一人が呆れたように呟いた。




