第66話:最強の便利屋、本来の仕事
巨大ゴーレムの襲撃から数日。
王都は破壊された建物や道路の復旧作業、いわゆる復興支援の真っ只中にあった。
謁見の間での「爵位格上げ宣言」以降、ヘンドリックの元には貴族からの挨拶回りの要請や、王城での作戦会議への出席依頼が山のように届いていた。
『……全部無視してやる』
ヘンドリックは届いた羊皮紙の束を空間拡張の鞄の奥底に押し込み、代わりに【土木建築Lv1】用の魔道具一式を引っ張り出した。
「復興支援という重要な任務がありますので、本日の挨拶回りは失礼させていただきます」
エリーゼに向かってそう言い残し、ヘンドリックは夜明け前に侯爵邸を抜け出した。
『ああ……やっぱり現場は最高だ』
王都の東区画。ゴーレムの巨腕が直撃した石造りの建物が、無残に崩れ落ちている。住人はすでに避難しており、周囲には復旧作業にあたるギルドの冒険者や街の大工たちが集まっていた。
「お、ヘンドリックさん! 来てくださったんですか!」
顔見知りのギルドの冒険者が、顔を輝かせて駆け寄ってくる。
「ああ。復旧の邪魔をしに来たわけじゃないよ。一緒にやらせてもらえるかな」
「邪魔なんてとんでもない! むしろ大助かりです! 実は石畳の基礎部分の損傷が予想より深くて、普通の修理じゃ追いつかなくて……」
「見せてもらえるか」
ヘンドリックはしゃがみ込み、崩れた石畳の断面を手で触れながら確認した。
【鑑定Lv1】で内部の損傷具合を把握する。地盤そのものにまでヒビが入っている。これは表面だけ直しても、数年で再び崩れる。
『……なるほど。根本から直さないとダメだな』
「わかった。基礎から全部やり直そう。少し時間をもらえるか」
ヘンドリックは魔道具を地面に設置し、両手を石畳に当てた。
「【土木建築Lv1】と【土魔法Lv1】の複合発動! 増幅器で出力を底上げだ!」
魔力が地面に浸透していく。崩れた石畳が意思を持ったように動き出し、内部の損傷した地盤から順番に再構成されていく。ヒビ割れた基礎が埋まり、歪んだ地盤が水平に整えられ、最後に石畳が元の美しい形へと組み上がっていく。
所要時間、およそ五分。
「……う、嘘だろ」
「なんだこれ。魔法で建物が直るのは知ってたが、基礎からここまで完璧に……」
周囲の大工たちが呆然と立ち尽くす。熟練の職人が一週間かけてやる作業が、おっさん一人で五分で終わった。
「基礎の強度は以前より上がってるよ。次に同じ衝撃が来ても、そう簡単には崩れないはずだ」
「ヘンドリックさん、次の区画もお願いできますか!」
「もちろん。どこから始めればいい?」
ヘンドリックの水を得た魚のような働きぶりに、復興作業にあたるギルドの冒険者や大工たちも舌を巻いていた。
『ああ、これだよ。これが俺の仕事だ。貴族の挨拶回りとか、作戦会議とか、そういうのじゃなくて。壊れたものを直す。困っている人を助ける。それだけでいいんだよ、俺は』
区画から区画へと移動しながら、ヘンドリックは黙々と作業を続けた。
崩れた防壁、割れた水路、傾いた建物の柱。【土木建築Lv1】と【土魔法Lv1】の複合魔法が、次々と王都の傷を癒やしていく。さらに【洗浄Lv1】で瓦礫の粉塵を除去し、【修復Lv1】で損傷した魔道具のパーツを繋ぎ直す。
それぞれ単体では地味なレベル1のスキルだが、組み合わせることで誰も追いつけない速度と精度の復旧作業が実現していた。
『このまま復興作業の責任者として、現場のプレハブ小屋に住み着いてしまえば、王女様との結婚も有耶無耶にできるかもしれないぞ』
甘い現実逃避をしながら、ヘンドリックは復興の最終地点、巨大ゴーレムが出現した中央広場へと足を踏み入れた。
広場の中央には、ゴーレムが這い出してきた巨大なクレーターが、ぽっかりと口を開けていた。
周囲の冒険者たちが「これはさすがに埋めるのに何週間かかるか……」と頭を抱えている。
ヘンドリックはクレーターの縁に立ち、腕を組んで首を傾げた。
『……それにしても、おかしな話だ。あのゴーレムは岩石と高熱のマグマで構成されていた。王都の地下に、なぜマグマ系の魔物が育つ環境があったんだ?』
もしあの魔族が逃げた地脈の奥底に、まだ危険な熱源が隠されているのだとしたら、放置しておくわけにはいかない。
「……少し調べてみるか」
ヘンドリックは皆を下がらせると、クレーターの中心へと降り立った。




