第64話:職人の複合魔法と、精鋭たちの電撃戦
「行くぞ」
ヘンドリックは静かに呟き、両腕に【魔力増幅の腕輪】を展開した。
巨大ゴーレムは今まさに、避難しきれていない民衆が残る区画へと巨腕を振り上げようとしていた。あれが落ちれば、建物ごと押しつぶされる。
『……時間がない。最短で、かつ周囲への被害を最小限に抑えながら仕留める。そのためには』
ヘンドリックは素早く地面に手を突いた。
「【土魔法Lv1】、【火魔法Lv1】、【風魔法Lv1】を同時発動。そこに【魔力操作Lv1】と【魔力消費軽減Lv1】を乗せて完全制御する。……増幅器で底上げし、相乗させる複合魔法だ!」
地面がドロドロに溶け出し、赤黒く光る溶岩の奔流がゴーレムの足元を飲み込んだ。熱波が広場全体に広がり、遠巻きに見ていた冒険者たちが思わず後退する。
しかし、マグマと岩石で構成された変異種には熱耐性があった。ゴーレムは足元が溶岩に沈みながらも、怯む様子もなく巨腕を振り上げて反撃に出る。
『……やはりか。熱で壊れないなら、壊れるように「加工」してやる』
ヘンドリックは即座に魔法を切り替えた。
「これならどうだ! 【水魔法Lv1】、最大出力! ロッテ、合わせろ!」
「了解しました、リーダー。……【水魔法Lv4】、全力で同期します!」
恩人であるヘンドリックの指示に、ロッテは一切の迷いなく応じた。レベル4の魔術師である彼女の正確な魔力供給がヘンドリックの陣に合流する。
赤熱したゴーレムの表面に、凄まじい水蒸気爆発が叩きつけられた。急激な温度差による熱衝撃が、岩石の装甲を内側から破壊し始める。
ピキピキ、と巨大な岩の体が悲鳴を上げ、全身の装甲に無数のヒビが走り始めた。
「今だ! こいつの外装はもうボロボロだ! 一気に粉砕しろ!」
ヘンドリックの鋭い号令が広場に響き渡る。
「了解。……私の氷で、内部から凍結粉砕します! 【水魔法Lv5(派生:氷属性)】!」
エリーゼの氷槍が亀裂に次々と突き刺さり、内部を急速に凍結させていく。さらに脆くなった右脚をミラの【格闘術Lv5】が蹴り砕き、体勢を大きく崩した巨体へ、ブラムの【火魔法Lv10】を纏った大剣が唸りを上げた。
「おっさん! 最高の隙をありがとな! ――これで終わりだああああっ!」
最後にサンネの【風魔法Lv5(派生:雷属性)】を纏った斬撃が核を貫き、大地の巨人は轟音と共に崩れ落ちた。
砂埃が晴れていく中、広場に静寂が戻ってくる。
「……やったか」
ブラムが肩で息をしながら呟く。ロッテが彼の隣に駆け寄り、「無事ですか」と声をかけた。
エリーゼ、サンネ、ミラも各自の持ち場から戻ってくる。誰も大きな怪我はない。
「お前ら、よくやった」
ヘンドリックが短く言うと、仲間たちの顔に安堵と達成感が広がった。
王都を滅ぼしかねなかった厄災は、ヘンドリックの計算し尽くされた魔法運用と、それぞれが完璧な役割を持った最高峰の仲間たちの連携によって、あっけなく瓦礫の山へと変わり果てた。
その時だった。
騒ぎを避けるように、一台の幌馬車が広場の外れをひっそりと通り過ぎていった。混乱に乗じて逃げる商人か、あるいは物見高い野次馬か。ゴーレム討伐の歓声に沸く民衆の間では、誰も気に留めない。
御者台に座る男は、深くフードを被り、顔を隠していた。
馬車が角を曲がる寸前、男はちらりと広場を振り返った。
崩れ落ちたゴーレムの残骸。歓声を上げる民衆。そしてその中心で、仲間たちと短く言葉を交わしているヘンドリックの背中。
男の口元が、薄く歪んだ。
「……ふふ。うまくいった。あとは、計画通りに進むだけだ」
誰にも聞こえない声で呟き、男は馬車を走らせて王都の雑踏へと消えていった。
その背中を、ヘンドリックは見ていない。
仲間たちも、誰も気づいていない。
ただ、王都を去っていくその馬車の車輪の跡だけが、石畳の上にひっそりと残されていた。




