第53話:強引な挙式宣言と、宰相の冷徹な正論
「お父様! わらわはこのヘンドリック世襲騎士爵と結婚します! さあ、今すぐに王城での挙式の準備を!」
謁見の間に響き渡る第一王女の爆弾発言。
その言葉を聞いた瞬間、ヘンドリックの思考は完全にフリーズした。
『ちょっと待て。なんで国宝の配管(魔力回路)の詰まりを掃除しただけで、王女様と結婚する流れになってるんだ!? 俺はただの田舎の便利屋のおっさんだぞ! 話の飛躍が過ぎるだろうが!』
ヘンドリックは顔を青ざめさせ、必死に口を開いた。
「ひ、姫様! お待ちください! 俺はつい先ほどまで平民だったただの冒険者です! 王族の末席に加わるなど、身分不相応にも程があります! どうかご冗談を……っ!」
「冗談などではない! 数百年誰も直せなかった結界を秒で直すほどの腕前と魔力! そしてこの公爵が認めるほどの人柄! わらわの伴侶としてこれ以上ない逸材ではないか!」
全く聞く耳を持たない王女。ヘンドリックが絶望の淵に立たされたその時、これまで国王の傍で沈黙を守っていた国の重鎮、宰相がスッと前に出た。
「姫様、どうか落ち着きください。それは物理的にも、そして国法に照らし合わせても不可能です」
宰相の眼鏡の奥の瞳は、どこまでも冷徹だった。
ヘンドリックは心の中でガッツポーズを決めた。
『宰相閣下! あんた神か! そうだ、言ってやれ! どこの馬の骨ともわからない世襲騎士爵と王女が結婚なんて、国の恥だってな!』
「不文律でございます。王族が降嫁する場合、相手の身分は最低でも『侯爵』以上でなければなりません。たかだか騎士爵……いえ、先ほど世襲騎士爵になったばかりの新参者では格が違いすぎ、周辺諸国への示しがつきません。断じて却下いたします」
ぐうの音も出ない正論。ヘンドリックは『その通り!』と首がもげるほど頷いた。
だが、お転婆で知られる王女は、全く悪びれることなく言い放った。
「なんだ、そういうことか。なれば話は単純だ。お父様、今すぐ彼を侯爵に昇格させればよいのです!」
「ファッ!?」
ヘンドリックの口から、変な声が漏れた。
「ちょ、ちょっと待ってください! なんでそうなるんですか! 諦めてくださいよ!」
「うーむ、私としてもこれほどの逸材、ぜひとも侯爵として王家に迎え入れたいのは山々だが……。流石に、それだけの高位の爵位を与えるには、誰もが納得する『国を揺るがすほどの歴史的偉業』が必要なのだ」
国王が困ったように頬を掻く。
ヘンドリックは深く安堵の息を吐いた。
『よかった……! 流石にこれ以上の偉業なんて出せるわけがない! 俺の平穏と独身生活(※すでにヒロイン三人に包囲されているが)は、首の皮一枚で繋がったぞ……!』




