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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第52話:お転婆王女の乱入と、職人の悲しき性

 世襲騎士爵という重すぎる十字架を背負わされ、謁見の間の絨毯の上で真っ白に燃え尽きていたヘンドリック。

 その後ろでは、エリーゼ、サンネ、ミラの三人が「王城での結婚式も素敵ね」などと、すでに未来の桃色計画を嬉々として語り合っていた。


『終わった……。俺のスローライフどころか、俺の人生そのものが完全に終わった。もう、どうにでもなれ……』


 ヘンドリックが現実逃避の境地に達しかけた、まさにその時だった。


「お父様! 大変です! 地下宝物庫にある王都の結界を支える古代魔道具が、急に火を噴いて停止してしまいました!」


 謁見の間の重厚な扉がバンッと乱暴に開かれ、豪奢なドレスの裾をたくし上げた美しい少女が飛び込んできた。

 艶やかな金髪を揺らすその少女は、この国の第一王女であった。

 彼女の背後では、顔面を蒼白にした宮廷魔術師たちが「姫様、お待ちください! あれは我々にも修復不可能な代物で……!」と泣きそうな顔で追走してきている。


 王女の腕の中には、バチバチと危険な紫色の火花を散らす、複雑な歯車と水晶で構成された巨大な魔道具が抱えられていた。


「このままでは王都の防衛結界が消えてしまいます! 誰か、これを直せる者は……っ!」


 広間にいた貴族や魔術師たちが、一斉に青ざめて後ずさる。古代魔道具など、現代の技術で触れれば大爆発を起こしかねないからだ。


 だが、その場にただ一人だけ、全く違う反応を示した者がいた。

 ヘンドリックである。


『……ん? あの魔道具、ただの魔力回路の目詰まりと、歯車の噛み合わせがコンマ数ミリずれているだけじゃないか? なぜ誰も直さないんだ?』


 最強の便利屋として、壊れたインフラや道具を放置できないという職人の悲しき性。

 ヘンドリックは無意識のうちにふらふらと立ち上がり、王女の目の前へと歩み出た。


「あの、失礼。ちょっと貸してもらえますか?」


「え? そなた、危険だぞ……!」


 王女が止める間もなく、ヘンドリックは【魔力操作 Lv1】を起動した。

 彼の脳内で、瞬時に並行処理が組み上げられる。

【鑑定 Lv1】でエラー箇所を完璧に特定し、【修復 Lv1】で劣化した回路を繋ぎ直し、【道具作成 Lv1】の応用で欠けた歯車を瞬時に錬成して噛み合わせる。


 カチッ。


 わずか数秒。

 紫色の危険な火花は嘘のように収まり、魔道具は本来の美しく澄んだ青い光を放ちながら、静かに、そして力強く稼働を再開した。

 新品以上の魔力効率を伴って。


「「「…………は?」」」


 宮廷魔術師たちが、目玉を飛び出させて絶句する。数百年誰も直せなかった国宝を、田舎から出てきたおっさんが素手で、しかも秒で直してしまったのだから。


「な……なんという神業。そなた、一体何者だ!?」


 王女が、魔道具からヘンドリックへと視線を移す。その瞳には、かつてないほどの強烈な好奇心と、熱烈な憧憬の光が灯っていた。


「あ、いや。俺はただの便利屋でして。……はっ!?」


 我に返ったヘンドリックが慌てて後ろに下がろうとするが、先ほどの公爵がすかさず前に出た。


「姫様。彼は先ほど、国王陛下の直命により『世襲騎士爵』となられたばかりのヘンドリック殿です。平民から貴族へと昇り詰めた、真の英雄にございます。……当然、法により複数の妻を娶る権利を有しておりますぞ」


 公爵の余計すぎる補足説明。

 その言葉を聞いた瞬間、お転婆王女の顔がパァッと華やかに綻んだ。


「素晴らしい! 英雄であり、これほどの技術を持つ男が世襲騎士爵とな! お父様、わらわは決めました! わらわもこのヘンドリック世襲騎士爵の妻の列に加わります!」


『な、なにィィィィィ!? 王族まで参戦してくるなんて聞いてないぞ!?』


 ヘンドリックが完全にキャパシティを超えて悲鳴を上げかけた時、彼の背後から、氷点下を思わせる凄まじい冷気が漂ってきた。


「……お待ちくださいませ、王女殿下」


 極上のドレスに身を包んだエリーゼ、サンネ、ミラの三人が、完璧な淑女の笑み、しかし目は全く笑っていない表情で、王女とヘンドリックの間に立ち塞がった。


「彼にはすでに、私たちという婚約者がおりますの。いくら王族の方とはいえ、順番というものがございますわ」

「ええ。私たちの旦那様に、これ以上厄介事を押し付けないでいただけますか?」

「ボスの隣は、私たちのもなんだゾ!」


 トップランカー三人の尋常ではない殺気。

 だが、王女も怯むどころか、不敵な笑みを浮かべて胸を張った。


「面白い! わらわも武術と魔術にはいささか自信がある! 第一夫人を懸けて、そなたらと決闘してやろうではないか!」


 謁見の間は、国宝の修復という奇跡の余韻も消し飛び、国で最も強くて美しい女たちによる、一人の世襲騎士爵を巡る血で血を洗う修羅場へと変貌した。


「やめてくれ……! 誰か、俺の……俺のスローライフを返してくれぇぇぇ!」


 誰も聞いてくれないヘンドリックの魂の叫びが、豪奢な王城の天井に虚しく吸い込まれていく。

 最強の便利屋の独身生活は、王女という最悪のタイミングでの最強の乱入者により、国家を巻き込んだ壮大なラブコメの渦へと完全に沈んでいったのである。


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