第50話:桃色の馬車と、街道の惨劇
王都へ向かう街道を進む、領主侯爵から提供された豪華な馬車。
その車内は、まさに桃色空間であった。
「ヘンドリック、王都に着いたら、まず二人で街を散歩しましょう?」
「ボス! 私の故郷の獣人料理のお店、王都にもあるから、絶対に行くんだゾ!」
「……作法も、あちらで引き続き私が教えてあげるわね」
両脇をエリーゼとミラに固められ、正面からはサンネの熱い視線と作法プレッシャーを受けるヘンドリック。彼は騎士爵位の重さとヒロインたちの愛の圧に、ただただ胃痛を堪えていた。別の馬車では、ブラムとロッテが二人だけの甘い時間を過ごしているというのに。
だが、街道を進むにつれ、周囲の空気が重く、濁っていくのをヘンドリックの「索敵Lv1」が捉えた。
「……みんな、ふざけている時間は終わったようだ。武器を取れ」
ヘンドリックの鋭い声に、車内の桃色空間は一瞬で戦場の緊張感へと切り替わった。
街道の前方で、大量の魔物の群れが襲いかかっている別の馬車があった。馬車は横転し、御者や護衛の騎士たちが倒れている。魔物の数は異常だ。王都のスタンピードは沈静化したと聞いていたが、ここでも発生していたのだ。
「エリーゼ、サンネ、ミラは右翼から! ブラム、左翼の魔物を大魔法で焼き払え! 俺は中心の馬車へ向かう!」
ヘンドリックは「魔力操作Lv1」で自身の身体能力を限界まで引き上げ、馬車から飛び出した。
35のスキルの複合。風魔法と土魔法を同時に発動させ、魔物の群れを切り裂きながら、横転した馬車へと到達する。
馬車の中で、護衛の騎士に守られた一人の老人が、魔物の恐怖に怯えていた。
「じいさん、俺の背後に隠れろ! ……『土木建築Lv1』!」
ヘンドリックは老人の周囲に、瞬時に強固な土の防壁を錬成した。さらに「耐久度向上Lv1」を重ね掛けし、魔物の攻撃を完全に拒絶する。
後ろではエリーゼたちの精密な掃討が始まり、ブラムの大魔法が魔物を塵へと変えていく。
わずか数分。街道を埋め尽くしていた魔物の群れは、完璧な連携によって壊滅した。
防壁の中から救出された老人は、ヘンドリックの手をギュッと握り締め、潤んだ瞳で彼を見つめた。
「ああ、素晴らしい……! このような見事な手腕、そして深い慈悲。私は、君のことをいたく気に入ったぞ!」
『……うん? なんだこのじいさん。俺の気配遮断をスルーして、すごい熱量で見つめてくるんだが』
ヘンドリックは嫌な予感を覚えながらも、老人の安全を確保し、王都へと向かう準備を進めるのであった。




