第49話:王都への招待状と、哀れな騎士爵の逃避行
領主の夜会から数日後。騎士爵という重すぎる地位と、三人の美女による合法ハーレム権を押し付けられたヘンドリックの元に、さらなる追い打ちが届いた。
「……王都への、ご招待?」
ギルドマスターから手渡されたのは、王家の紋章が入った仰々しい手紙だった。
「ええ。新たな騎士爵の誕生と、スタンピード鎮圧の功績を称え、国王陛下が直接お会いしたいそうです。当然、婚約者となられる御三方、そして名誉騎士のブラム殿たちも同伴で」
ヘンドリックは頭を抱えた。
「む、無理だ! 俺はただの平民のおっさんだぞ!? 貴族の行儀作法なんて一つも知らない! 王の前で不敬罪で首が飛ぶに決まってる! だからこの話は……」
必死の悪あがきで辞退の口実を作ろうとするヘンドリック。だが、その退路はあっけなく塞がれた。
「作法のことなら心配いらないわ、ヘンドリック」
背後から、サンネが豊満な胸をヘンドリックの背中に押し付けながら、甘く囁いた。
「サンネ……?」
「私、元々は騎士の家系の出なの。貴族としての基本的な礼儀作法は叩き込まれているわ。あなたへの作法指導は、私と私の親族が一手に引き受けてあげる。ふふっ、これで安心ね?」
そうだった。サンネは没落しかけてはいるものの、由緒正しい騎士の家の令嬢なのだ。
完全に逃げ道を塞がれ、がっくりと肩を落とすヘンドリック。サンネは「私の旦那様」と言わんばかりに彼にべったりと張り付き、離れようとしない。
だが、ヘンドリックの生存本能(独身の意地)はまだ死んでいなかった。
「そ、そうだ! まだスタンピードが完全に治まったわけじゃない! 迷宮の浅層に残党が隠れているかもしれない! 俺はリーダーとして、街の安全を確保するために迷宮へパトロールに行ってくる!」
「あっ! 待てヘンドリック!」
サンネの制止を振り切り、ヘンドリックは全速力で工房を飛び出した。
目指すはフェルウェ大迷宮。魔物の巣窟こそが、今の彼にとって唯一の安息の地(逃げ場)だった。
「はぁ、はぁ……! ここまで来れば、いくらあいつらでも……」
迷宮の入り口付近の暗がりで息を潜めるヘンドリック。だが、彼の逃亡劇はわずか数十分で幕を閉じた。
「見ーつけたんだゾ! ボスの匂い、どこに逃げても丸わかりなんだゾ!」
「ふふっ。私の魔力探知から逃れられるとでも思ったかしら、愛しの旦那様?」
暗闇から飛び出してきたミラがヘンドリックに飛びつき、背後からはエリーゼが逃走経路を塞ぐように立っていた。獣人の絶対的な嗅覚とエルフの精密な魔力探知の前に、気配遮断など無意味だったのだ。
「捕獲完了ね。さあ、拠点に帰ってサンネの特別レッスンを受ける時間よ?」
エリーゼとミラに両脇をがっちりとホールドされ、文字通り引きずられていくヘンドリック。
工房へ強制送還された彼を待っていたのは、満面の笑みを浮かべたサンネ(手には作法用の教鞭)だった。
「さあヘンドリック。王都で恥をかかないように、みっちり、優しく、朝まで教えてあげるわ」
「いやだぁぁぁ! 俺のスローライフを返してくれぇぇぇ!」
最強の便利屋の悲痛な叫びが、ヘラフテンの空に響き渡る。
一方その頃、リビングの隅では。
「ロッテ、王都に行ったら一緒に美味しいスイーツを食べようぜ」
「はいっ、ブラム君! すっごく楽しみです!」
師匠の涙ぐましい悪あがきと地獄の作法レッスンなど完全に視界に入っていないブラムは、ロッテと甘いイチャイチャ空間を満喫していた。
哀れ、ヘンドリック。彼の平穏は、もはや迷宮の奥底にすら存在しないのであった。




