第47話:極上のドレス姿と、理性の防衛戦
翌日の夜。
領主の館へ向かう馬車の前で待っていたヘンドリックとブラム(彼らもヘンドリックの仕立てた完璧な礼服を着ている)の前に、着替えを終えた四人が姿を現した。
「……どうかしら、ヘンドリック」
先頭を歩くエリーゼに、ヘンドリックは息を呑んだ。
彼女のドレスは、深い夜空のようなミッドナイトブルー。ヘンドリックのどストライクである華奢な鎖骨とスレンダーな背中のラインがこれでもかと美しく強調され、エルフ特有の神秘的な魅力が爆発している。月明かりを受けた銀糸の刺繍が、彼女の動きに合わせてきらきらと揺れ、まるで星空をまとったようだった。
「あ、あの……ヘンドリック。変じゃ、ないかしら?」
サンネは、純白の騎士らしい凛とした雰囲気を残しつつも、大きく開いた胸元と腰のくびれを強調するタイトなマーメイドドレス。大人の女性の極上の色気が漂っていた。いつもは鎧に隠れているしなやかな腕のラインが、今夜ばかりは惜しげもなく晒されており、普段の凛々しい騎士の姿とのギャップが破壊的だった。
「ボス! ちょっと胸がキツいんだゾ!」
ミラは、情熱的な真紅のドレス。あえて胸元の布面積を極限まで減らした(そうしないと入らなかった)デザインで、歩くたびに豊満な果実がこぼれ落ちそうに揺れ、獣人特有の健康的な太ももが深いスリットから覗いている。ふわりと揺れる銀色の尻尾と耳が、どこか無邪気な獣人らしさを残しており、その落差がまた危険だった。
そしてロッテは、淡いピンク色のふんわりとした可愛らしいお姫様のようなドレスで、頬を赤らめながら立っていた。いつもは結い上げている黒髪を今夜は下ろしており、年齢より幼く見えるその姿に、隣に立つブラムが「か、可愛い……」と小声で呟いて耳まで赤くなっていた。
『……限界だ』
ヘンドリックの頭の中で、理性の警報がけたたましく鳴り響いた。
普段の冒険者姿ですら心臓に悪いのに、自分が仕立てた、それぞれの魅力をミリ単位で引き出す極上のドレス姿。特にエリーゼの破壊力は、三十五歳の独身男には猛毒すぎた。
しかも四人全員が、自分が縫い上げた一着を纏っている。サイズを把握しているということは、この布がどこにどう触れているかも把握しているということだ。そう気づいた瞬間、ヘンドリックの脳内で何かがショートした。
「みんな、すごく綺麗だ。……領主様も、間違いなく君たちの美しさと功績を称えてくれるはずだよ」
必死に平常心を装い、プロの顔で褒めるヘンドリック。
だが、彼の手が微かに震え、今にも自衛のために【魔力操作Lv1】からの多重障壁を展開して気絶しそうになっているのを、彼女たちはすでに見抜いていた。
「ふふっ。そんなに真っ赤になって……可愛いんだから」
「ボス、夜会の最中に倒れちゃダメなんだゾ? ずっとエスコートしてほしいんだゾ」
エリーゼとミラが、左右からヘンドリックの腕に自分たちの腕を絡める。柔らかい感触と、高級な香水の香りがヘンドリックの鼻腔をくすぐった。
「……まったく。君たちは本当に、容赦がないな」
思わず苦笑が漏れる。サンネが呆れたように肩をすくめながら、反対側からそっと彼の背中に手を添えた。
「さあ、行きましょうか。私たちの自慢のリーダー」
かくして【黎明の止まり木】の面々は、街の誰もが振り返るほどの圧倒的な美しさとオーラを纏い、領主の待つ華やかな夜会へと足を踏み入れるのであった。




