第46話:サイズ把握の弊害と、おっさんの本気
「というわけで、明日の夜は領主の館でパーティーだ」
石造りの工房に帰還したヘンドリックが事の顛末を伝えると、リビングにいたメンバーから驚きの声が上がった。
「私たちが主賓……。誇らしいことだけれど、ドレスなんて持っていないわよ?」
エリーゼが困ったように溜息をつく。冒険者である彼女たちのワードローブには、実用的な防具や平服しかない。
「明日の夜までに、全員分の高級ドレスを仕立てるなんて絶対に間に合わないんだゾ!」
「レンタルするにしても、私たちの体型にぴったり合うものがあるかどうか……」
ミラとサンネも顔を見合わせる。特にミラは規格外の胸部装甲を持っているため、既製品では確実に胸元が破綻する。
「そのことなら心配いらないよ。俺がなんとかする」
ヘンドリックはそう言うと、市場で買ってきた安価な無地の布地と、【裁縫Lv1】の道具を取り出した。
さらに【魔力操作Lv1】を起動し、布地に【耐久度向上Lv1】でシルクのような艶と滑らかさを持たせ、【付与Lv1】で微弱な光魔法を織り込んで高級感を演出していく。針と糸が魔力に従って縫い目を走り、見る間に形が整っていく様は、まるで魔法の絨毯が空を舞うようだった。
「ちょっと待って、ヘンドリック。まさかあなたが作るの? でも、採寸はどうするのよ?」
「ああ、それなら必要ないよ。全員のサイズは完全に頭に入っているからね」
『『『…………え?』』』
女性陣の動きがピタリと止まる。
「そ、それって……スリーサイズも、全部……?」
「当然じゃないか。普段から君たちの防具の修繕をしているんだ。戦闘中に動きを阻害しないよう、ミリ単位で体型を把握していないとプロの仕事はできないよ」
真顔で即答するヘンドリック。悪気は一切ない。純粋な職人としての言葉だ。
だが、あの「詳細すぎる愛情報告書」を読んでしまった後である。乙女たちの顔は瞬く間に沸騰し、耳まで真っ赤に染まった。
『わ、私の絶壁も、ミリ単位で把握されている……っ!』
『ボス……私の胸の重さまで計算して防具を作ってくれてたんだゾ……っ!』
『この人は……本当に、どこまでも私たちのことを……っ』
三人が胸を押さえてもじもじしている間にも、ヘンドリックの手は止まらない。
「さあ、できた。これを着てみてくれ。絶対に似合うはずだ」
照れてもじもじする彼女たちに、ヘンドリックは手品のような速度で完成させた四着のドレスを手渡した。
エリーゼのドレスは、深い夜空のようなミッドナイトブルー。華奢な鎖骨とスレンダーな背中のラインが美しく強調され、エルフ特有の神秘的な魅力が爆発している。サンネのドレスは凛とした深紅で、鍛え上げられたしなやかな体躯を完璧に包み込んでいた。そしてミラのドレスは、彼女の活発さと愛らしさを引き立てる温かな琥珀色だ。胸元は……言うまでもなく、完璧なフィット感だった。
「う、嘘でしょ……市場の安い布地で、これほどのものが……」
エリーゼが絶句する。どこをどう見ても、王都の高級仕立て屋が手がけた一流品にしか見えない。
「プロの仕事だからね。さあ、着替えてみてくれ。パーティーまで時間がないからね」




