第41話:百雷の終止符と、完璧なる「逃走」
地鳴りのような爆鳴が、百回響き渡った。
ヘンドリックはブラムの背中に触れ続け、凄まじい勢いで減っていく魔力を【魔力供給Lv1】で注ぎ込み、同時に大魔法の反動で悲鳴を上げるブラムの筋肉と神経を【回復Lv1】で癒やし続けた。
ブラムが装備していた【魔力抑制の魔道具】が、ヘンドリックから流れ込む規格外の魔力を強引に制御し、高純度の弾丸へと変換していく。
「これで……最後だあああッ!!」
記念すべき百発目の【レベル10・爆炎魔法】が放たれた。
防壁の前を埋め尽くしていた魔物の群れは、その一撃で完全に消滅した。立ち込める土煙と焦熱の臭い。あれほど絶望的だったスタンピードは、たった一人の若き魔法騎士(と、その背後の電池役)によって、文字通り塵へと帰したのである。
「はぁ、はぁ……やった……のか……?」
ブラムが膝をつき、そのまま意識を失うように倒れ込む。ヘンドリックは素早くその身体を支え、同時に自身の気配を極限まで薄める【隠密Lv1】を発動させた。
直後、防壁の上から呆然としていたトップランカーやギルドマスター、そしてエリーゼたちが一斉に駆け下りてくる。
「ブラム! ヘンドリック! 無事なの!?」
エリーゼたちが駆け寄った先で、ヘンドリックはわざとらしく腰を抜かし、ガクガクと震えながらブラムの背中に顔を埋めていた。
「ああ、みんな……! 怖かった……本当に怖かったんだよ! 俺みたいなレベル1がこんな最前線に連れてこられて、生きた心地がしなかった……っ!」
「……え?」
「見てくれ、ブラムくんが全部やってくれたんだ! 彼はまさに伝説の勇者だよ! 俺はもう、怖くて怖くて彼の背中にしがみついて隠れているのが精一杯だったんだ……!」
ヘンドリックは顔を真っ赤にして(実際は魔力を使い果たした疲労だが、周囲には恐怖の赤面に見えた)、情けない声を上げながら必死に「自分は何もしていない」とアピールした。
ギルドマスターや他の冒険者たちは、目の前の光景に混乱した。
確かに、魔法を放っていたのはブラムだ。だが、常識的に考えてレベル10魔法の百連発などあり得ない。しかし、当のヘンドリックは涙目で震えており、その姿はどう見ても『死地で腰を抜かした無力なおっさん』そのものだった。
『……また始まったわね、彼の「無能のフリ」が』
エリーゼは半ば呆れ、半ば愛おしそうにその光景を見つめていた。
彼女たちは知っている。ブラムを支え続け、魔力を供給し、癒やし続け、この奇跡を成立させた真の主役が誰なのかを。
『お兄ちゃん、あんなに下手な演技して……。でも、あれが「便利屋」としての彼の美学なのね』
妹も苦笑いしながらそれを見守る。
ヘンドリックの目論見通り、街の住民や一般の冒険者たちは、ブラムを「スタンピードを一人で壊滅させた奇跡の英雄」として崇め始め、その背後で震えていたおっさんのことなど、誰も気に留めようとはしなかった。
「ふう……。これでよし。あとはブラムに手柄を押し付けて、俺は静かに工房で寝るだけだ……」
魔力をほぼ使い果たし、立っているのもやっとの状態ながら、ヘンドリックは計画通りの「トンズラ」を成功させたことに、内心で小さくガッツポーズを作っていた。
最強の便利屋は、英雄の座を愛弟子に譲り渡し、再び「地味で無害なおっさん」という安息の殻へと隠れることに成功した……はずであった。




