第40話:身代わりの英雄と、無限の魔力
防壁の上では、街が誇るトップランカーたちが必死の防戦を繰り広げていた。だが、数万を超える魔物の波は容赦なく彼らの体力を削り取り、防衛線はわずか数分で崩壊の危機に瀕していた。
『……駄目だな。まともに正面からぶつかっていては、街が沈むのが先だ』
戦況を冷静に分析したヘンドリックは、即座に指示を飛ばした。
「エリーゼ、サンネ、ミラ、そしてロッテ。君たちは疲弊したトップランカーたちの救出と、突破されそうな箇所の防御に専念してくれ。攻撃は二の次でいい、とにかく時間を稼ぐんだ」
「でも、ヘンドリックはどうするの!?」
「俺はブラムを連れて、少し『荒療治』をしてくる」
ヘンドリックはパーティー唯一の【レベル10魔法】の使い手であるブラムを伴い、魔物が最も密集する最前線へと向かった。
そこは、いつ防壁が突き破られてもおかしくない死地である。
「……ブラム。覚悟はいいかな」
ヘンドリックは静かに問いかけた。彼の本心は、『このスタンピードを解決した功績をすべてお前に押し付け、俺は英雄の座から逃げてトンズラする(身代わりにする)』という、プロの便利屋らしい隠遁計画の確認であった。
だが、師匠の深い意図を知る由もないブラムは、それを「街と命を共にする覚悟」だと受け取り、神妙な顔つきで力強く頷いた。
「はい! 最後まで全力を尽くします、師匠!」
『……うん? なんだか少し話が噛み合っていない気がするけれど、まあいいか』
ヘンドリックはブラムの背中にそっと手を触れ、秘匿スキル【魔力供給Lv1】を発動させた。
「ブラム、遠慮はいらない。後ろのことは俺がやる。お前はただ、目の前の敵を消し飛ばすことだけを考えろ。……いいか、気を失うまで魔法を全力で放ち続けるんだ」
「分かりました! はああああああッ!!」
ブラムが大剣を掲げ、自身の最大火力である【レベル10・爆炎魔法】を放つ。本来なら、一度放てば魔力の半分以上を消費し、二度目には枯渇して倒れるはずの大魔法だ。
轟音と共に巨大な火柱が上がり、数百の魔物を一瞬で消し炭にする。
「……はぁ、はぁ! まだだ、まだ行ける! 二発目ぇッ!!」
ブラムは気合と共に連射する。三発、四発、五発。
本来ならあり得ない光景だった。レベル10の魔法をこれほど短時間に連射すれば、常人なら即座に廃人になるか絶命する。
だが、ブラムは驚愕に目を見開いた。
「な……なんだこれ!? 全然、魔力がなくなる気配がない……!? どころか、撃てば撃つほど身体の底から力が溢れてくるぞ!」
ブラムは知らない。ヘンドリックの総魔力量は、日々の限界訓練によって7000を超えている。消費魔力100の【レベル10魔法】を、彼はブラムという「砲身」を通して70回以上も無反動で連射させることが可能なのだ。
「いいぞブラム、その調子だ。もっと、もっとだ」
ヘンドリックは無表情に魔力を流し込み続ける。
防壁の上から見ていた冒険者たちは、眼下で繰り広げられる「一人の若者による無限の大魔法連射」という神話のような光景に、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
最強の「電池」を得た若き魔法騎士と、その後ろで淡々と魔力を供給し続けるおっさん。
街を埋め尽くす絶望の波は、たった二人の変則的な【レベル1】の連携によって、猛烈な勢いで押し返されようとしていた。




