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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第331話:いつから、誰が

 常識の異常性に気づいた翌日から、屋敷の面々による世界規模の調査が始まった。


「新生・魔術師ギルドの権限で、各支部の古い記録を可能な限り取り寄せます。予算は……ええ、この際、惜しみません」


 シリルがかつてない決意を見せて動き出す。あの彼が予算を惜しまないと言い切ったことに、その場の全員が少しだけ驚いた。


「私は王家の文書庫を当たるね。殿下の名代の権限、こういう時に使わないと」


 ベルも腕まくりをする。


「わらわは各国の王室や、古い貴族の外交記録を当たろう。この手の話は、案外、社交界の噂話の中に埋もれておるものじゃ」


「アタシは魔族領の長老たちに手紙を書いてみるぞ。……昔のことなら、あいつらが一番詳しいはずだからな」


 ルミナリアとマジカも、それぞれの立場を利用して情報を集めることになった。


「裏の流通なら、お任せください。正史から外された古書や禁書……私がゲットしてみせます」


「イリスさん、その言い回しだとオレの出番がなくなるんすけど……」


 闇の商人が力なく肩を落とし、それから気を取り直したように顔を上げた。


「まあ、情報屋の意地にかけて、探し出すっすよ」


 イリスと闇の商人も、裏社会のネットワークを駆使して調査に加わる。


 調べるのは、「誰がLv10至上主義を広めたのか」ではない。


 この不自然な常識が、「いつから、当然のものとして定着したのか」という一点だった。


 ◇ ◇ ◇


 数日後。


 持ち寄られた資料は、リビングの巨大なテーブルを埋め尽くしていた。


「……気持ち悪いですね」


 集まった文献を比較していたシリルが、忌々しげに呟いた。


「五百年前の冒険者指南書、八百年前の騎士団教本、千年前の魔術書。表現こそ違いますが、どれも『一つの力を極限まで高めること』を最善としています」


 人間の国だけではない。


 マジカが取り寄せた魔族の記録にも、ミラの実家である獣人族の古い伝承にも、まったく同じ考え方が根付いていた。


「特定の王や宗教、ギルドが広めた形跡は、どこにもありません」


「つまり、誰か一人が作った常識ではない、ということか」


 ヘンドリックの言葉に、シリルが重々しく頷く。


 もし誰かの陰謀であれば、そこには必ず利益を得た者や、歪みを強制した痕跡が残るはずだ。


 だが、そんなものはどこにもない。


 まるで、最初から世界がそういうルールであったかのように、あまりにも自然に受け入れられている。


「……その事実が、かえって不気味さを増しておるのじゃがな」


 ルミナリアが、扇子で資料の山を指しながら言った。


 ◇ ◇ ◇


「ねえ、これを見て」


 大量の古文書と格闘していたベルが、声を上げた。


 彼女の手には、王家最古の文書庫から見つけ出したという、ボロボロの羊皮紙の破片が握られている。


「すべての種族の記録が……千二百年前あたりで、急激に少なくなってるの。これより古い記録は、ほとんど残ってない」


「千二百年前……?」


 エリーゼが眉をひそめた。


「一国の戦火や災害なら、他の地域には記録が残るはずですわ。ですが、地域も種族も違うのに、同じ時期に歴史が途切れているなんて……」


「うん。おかしいよね。それでね、これ」


 ベルが指差した先には、色褪せたインクで、辛うじて読める文字が記されていた。


『大いなる災いに際し、我らは一なる力を極めた。災いの後も、その道を子らへ継がせる』


 リビングが、静まり返った。


 現在のLv10至上主義に繋がる、最初の痕跡。


 やはり、常識には始まりがあったのだ。


「……大いなる、災い」


 サンネが、その言葉を噛みしめるように呟いた。


「しかし、その『大いなる災い』が何であったかを示す部分は、見事に失われておるな」


 ルミナリアが目を細める。


 千二百年前に起きた、世界規模の何か。


 それに立ち向かうために「一なる力」が必要とされ、その成功体験だけが、時代遅れの常識として現在まで残った。


「……つまり、こういうことか」


 ヘンドリックが、静かに口を開いた。


「当時は、それが正解だったんだ。誰かが騙したわけじゃない。……ただ、正解が古くなったことに、誰も気づかなかった」


 その言葉に、全員が息を呑んだ。


 陰謀ではない。


 何かを生き延びた結果、この世界はこうなってしまったのだ。


 ◇ ◇ ◇


「……文字の記録が失われているなら、文字より古い記憶を頼るしかありませんわね」


 静寂を破ったのは、エリーゼだった。


「エルフには、文字を持たない時代から続く口伝があります。……千二百年前のことなら、長老エルディス様が何かをご存知かもしれません」


 彼女の提案に、異論を挟む者はいなかった。


「決まりだな」


 ヘンドリックは、古びた羊皮紙の破片を、そっと手に取った。


 千二百年前。この一枚が書かれた時、そこにいた誰かは、必死だったはずだ。


 子らへ継がせる、と書いた者は、善意でそう記したに違いない。生き延びる術を、次の世代へ遺そうとして。


『……誰かが作ったんじゃない。何かを生き延びた結果、こうなったのか』


 だとすれば、この鎖を誰かのせいにすることはできない。


 できるのは、鎖の正体を確かめることだけだ。


 こうして一行は、エルフの里へと向かうことを決めた。


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