表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
329/340

第326話:三十五個の理由

 首魁は解析装置を稼働させ、目の前に立つヘンドリックのスキル構成を、執拗に観察していた。


 空中に浮かび上がる、三十五個のレベル1。


 回復魔法、火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、鑑定、解体、採掘、調合、身体強化、魔力操作、気配察知――


 どれも一つとして、Lv2以上がない。


「なぜ君は、レベル1を三十五個も選んだのか。……不思議で仕方がない」


 首魁は心底からの疑問を口にした。


「誰一人として、そのような非効率な構成は選ばないはずだ。せめて三つか四つを極めれば、君はもっと早く強くなれた」


「……そうかもな」


 ヘンドリックは、淡々と過去を口にした。


 ◇ ◇ ◇


 スラムの冷たい路地裏に生まれた少年に、選択の自由などなかった。


 病を得た母を養い、腹違いの妹を守り、今日の飢えをしのぐ。それだけで、毎日が精一杯だった。


 剣を極める? 何年もかけて一つの技を磨く?


 そんな時間はどこにもなかった。


 母が熱を出せば、回復魔法Lv1を取った。かすり傷しか治せない程度の魔法でも、ないよりはましだった。


 薪が買えなければ、火魔法Lv1を取った。焚き火をつけるのがせいぜいでも、冬を越せた。


 井戸が遠ければ、水魔法Lv1を。


 商人に騙されないよう、鑑定Lv1を。


 魔物の死骸から金に換わる部位を取るために、解体Lv1を。


 どれもレベルは1。どれ一つとして一流ではない。


 だが、そのすべてが――「あの日の誰かを、生き延びさせるため」に必要な道具だった。


「……俺のレベル1は、生きるために取ったものだ」


 ヘンドリックは静かに言った。


「極めるためじゃない。誰かを守るために取った。それだけだ」


 ◇ ◇ ◇


 首魁は目を見張った。


 そして、興奮したように感嘆の声を上げる。


「……そうか! 君のスキルは、君の人生そのものなのか!」


 彼は解析装置に飛びつき、猛烈な勢いで記録を取り始めた。


「素晴らしい! 理を外れる条件は、才能ではなく、選択の積み重ねだったというのか! ますます解析したくなった!」


 その狂喜する背中に、ヘンドリックの声が鋭く突き刺さった。


「あんたの理想は、分かった」


 首魁の手が止まる。


「生まれで人生が決まる。それが理不尽だってのは、俺も同意する。……俺は、その理不尽の側で育った人間だからな」


「では――!」


「だが、そのために人を壊すのは違う」


 ヘンドリックは、通路に並んでいたシリンダーを指し示した。


「あそこに番号だけで記録されてた連中も、誰かの息子で、誰かの親だった。その理不尽は、あんたが憎んだものと何が違う」


「……君も、理不尽な世界に苦しんだ側だろう? ならば分かるはずだ」


「ああ。だから分かる」


 ヘンドリックの声が、低く響いた。


「理不尽を壊すのに、新しい理不尽を作ってどうする」


 ◇ ◇ ◇


 沈黙が落ちた。


 やがて、首魁は静かに首を振った。


「……残念だ。君なら、分かってくれると思ったのだが」


「あんたも残念だろうが、俺も残念だ」


 ヘンドリックは、ゆっくりと構えを取った。


「あんたがもし、実験なんてものに手を出さずに、ただ研究だけを続けていたなら。……俺は、あんたに協力していたかもしれん」


 首魁の目が、わずかに揺れた。


「スラムのガキが、剣の才がないってだけで一生日雇いをやる。そんな世界は、変わったほうがいい。それは本気で思ってる」


「……ならば」


「だが、そのために誰かを壊すなら、俺はあんたを止める。それだけだ」


 理想は正しくとも、手段は断じて許されない。


 対話による解決の道は、閉ざされた。


 首魁が指を鳴らす。施設中の術式が、一斉に起動した。


「では、力ずくで協力してもらおう。……君の体さえあれば、意識は必要ない」


『……やはり、こうなるか』


 互いの信念を賭けた戦火が、切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ