表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
325/328

第322話:三十六歳の誕生日、あるいは何でもない日

 屋敷を覆う重い緊張を嫌って、妻たちとベルが中心となり、「二回目の誕生日会」が強行開催された。


「三十六歳、おめでとう、お兄ちゃん」


「……三十五だ」


「まだ言うの!?」


 呆れるベルをよそに、エリーゼが涼しい顔で紅茶を差し出す。


「認めていただくまで、毎年二回お祝いしますわ」


「やめろ。祝われる回数が増えるだけだろう」


「あら。旦那様が三十六とお認めになれば、一回で済みますのよ」


 完全に外堀を埋められている。


 マジカが耳まで真っ赤にしながら、腕によりをかけたご馳走をテーブルに並べた。


「ほら、冷めないうちに食え」


「……悪いな」


「べ、別に。作りたかっただけだ」


 そっぽを向くマジカの尖った耳が、赤いまま揺れている。


 ドライアドが世界樹の葉を編んだ冠を掲げて駆け寄ってきた。


「パパ、これあげる! かぶって!」


「……なんだこれは」


「王様の冠なの! パパ、王様みたい!」


「重い意味を持たせるな」


 苦笑しながら冠を被らされるヘンドリックに、リビングが笑いに包まれる。


 サンネが真面目な顔で「閣下、よくお似合いです」と言い、ミラが「ボス、王様なんだゾー!」とはしゃぎ、ルミナリアが「本物の王族の前で王様ごっことは、良い度胸じゃのう」と扇子で口元を隠して笑った。


 ◇ ◇ ◇


 温かな笑い声と、確かな平穏。


 だが、その輪にいる全員が、心の中で警戒の刃を研いでいた。


 敵の目的がヘンドリックであると判明した以上、この家は戦場の最前線と化す。それを、誰もが理解していた。


「閣下」


 サンネが、剣の柄に手を当てて静かに誓った。


「何があろうと、私が盾になります」


「わらわも王家の力を総動員するのじゃ」


 ルミナリアが胸を張る。


「近衛を回してもよい。ヴァレリウス公にも話は通してある」


「アタシもいるぞ。魔族領との連携も取れる」


「ミラも戦うんだゾ! ボスを守るんだゾ!」


 口々に、守ると言ってくれる。


 その言葉の一つ一つが、確かに嬉しかった。


 だが。


『……こいつらが狙われるのは、俺がここにいるからだ』


 ヘンドリックの瞳に、わずかな陰りが落ちた。


 誰も、それに気づかなかった。


 いや――エリーゼだけが、静かに彼を見ていた。


 ◇ ◇ ◇


 その夜。


 寝静まった庭で、ヘンドリックは一人、世界樹を見上げていた。


 葉擦れの音だけが響く。回復した世界樹は、夜でも淡く輝いている。


『……この屋敷は、俺がいる限り狙われ続ける』


 実験体にされた者たちのことを思う。人為的にレベルを弄られ、壊れた人形のようになった、あの哀れな者たち。


 あれが、この屋敷の誰かの姿になったら。


 エリーゼが。サンネが。ミラが。ルミナリアが。マジカが。ベルが。


 考えるだけで、腹の底が冷たくなった。


 かつて、アイシャを守れなかった。力が足りず、彼女に重傷を負わせたと思い込み、逃げ出した。


 あれから三十年近く経った。力はついた。公爵にもなった。


 だが、根本のところで、自分は何も変わっていないのかもしれない。


『今度は……逃げるんじゃない。片をつけに行くだけだ』


 自分にそう言い聞かせる。


 これは逃避ではない。守るための選択だ。皆を巻き込まないための、最も合理的な判断だ。


 ――本当にそうか、と胸の奥で誰かが囁いた気がしたが、ヘンドリックはそれを黙殺した。


 背後で、小さな足音がした。


「パパ、まだ起きてるの?」


 振り返ると、世界樹の枝からドライアドが顔を出していた。


「……お前こそ、寝ろ」


「パパが起きてるから」


 ドライアドはするりと降りてきて、ヘンドリックの隣に立った。


「ねえ、パパ」


「なんだ」


「どこにも行かない?」


 ヘンドリックは、一瞬、言葉に詰まった。


「……なぜ、そんなことを聞く」


「わかんない。でも、そんな気がしたの」


 精霊は、時に人の心の揺れを、風のように感じ取る。


 ヘンドリックはドライアドの頭に手を置き、静かに嘘をついた。


「……行かないさ」


 男の胸中で、重大な決断が固まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ