表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
320/323

第317話:イリスと闇の商人と、名前のない祝日

 裏稼業が長かった闇の商人は、自分の誕生日というものを、誰にも言えずに生きてきた。


 情報屋という仕事柄、自分の素性は隠しておくに越したことはない。名前も、出身も、年齢も、すべて曖昧にしておく。それが、この稼業で長く生き延びるための知恵だった。


 そもそも、祝われた記憶すら、ほとんどない。


 彼にとって誕生日とは、ただ「今年も生き延びた」という事実を、一人で静かに確認するだけの日だった。


 だが。


 イリスの観察眼は、誤魔化せなかった。


 無表情で、口数も少ないこの女は、誰よりも周囲をよく見ている。


 ◇ ◇ ◇


 ある日の夕方。


 仕事を終えた闇の商人が自室に戻ると、そこには、淡々と、しかし完璧な段取りで用意された、ささやかな祝いの席があった。


 小さなケーキ。彼の好きな銘柄の酒。そして、控えめな飾り付け。


 部屋の中央に、イリスが無表情のまま立っていた。


「な、なんで俺の誕生日を知ってるんすか!?」


「調べました。私は、そういう仕事もできますので」


「怖いっす! 嬉しいけど怖いっす!」


 驚愕して後ずさる闇の商人に、イリスは淡々と紅茶を勧めた。


「座ってください。冷めます」


「あ、はい……」


 妙な迫力に押されて、彼は素直に席についた。


 ◇ ◇ ◇


 ケーキを口に運びながら、闇の商人は、こみ上げてくるものを必死に堪えていた。


 誰かに祝われる誕生日というのは、こんな味がするのか。


「……ありがとうございます。その、なんつーか……嬉しいっす」


「そうですか」


 イリスは表情ひとつ変えない。しかし、彼女が用意した席の細部には、彼の好みが完璧に反映されていた。


 少し落ち着きを取り戻した闇の商人は、ずっと気になっていたことを、思い切って切り出した。


「……あの。この間の『ゲット』って、どういう……」


 少し前、彼女が言い放ったあの一言である。


 「私が、ゲットしてますから」と。


 あれ以来、彼はずっとその意味を測りかねていた。


「言葉の通りです」


「だから、どういう意味っすか!?」


「そのままの意味です」


「解説を! 解説をくださいっす!」


 食い下がる闇の商人に、イリスはふいと目を逸らした。


 無表情なままだ。表情筋は一ミリも動いていない。


 だが、よく見ると――彼女の耳が、ほんの少しだけ、赤く染まっている。


「…………」


 それに気づいた闇の商人は、顔を真っ赤にして、完全に固まってしまった。


「あ、あの、イリスさん、それって……」


「紅茶のおかわりはいかがですか」


「話を逸らしたっすね!?」


 ◇ ◇ ◇


『……あいつら、そういうことか』


 少し離れた廊下から、その様子をたまたま目撃してしまったヘンドリックは、やれやれと肩をすくめた。


 情報収集にかけては大陸随一の情報屋と、あらゆる裏方仕事をこなす有能な実務家。


 周囲はとうに気づいているというのに、この有能なはずの二人だけが、肝心なところで、いつまでも噛み合っていないのだった。


『……まあ、あいつらのペースがあるんだろうな』


 ヘンドリックは、見なかったことにして、静かにその場を立ち去った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ