第313話:三人の旅立ち・前編「もう十分だ」
穏やかな朝の日差しが差し込む、公爵邸のエントランス。
そこに、元パーティーの女三人が並んで立っていた。
普段の寛いだ姿とは違う、しっかりと旅装を整えたその出で立ち。そして、珍しく緊張した面持ち。通りかかったヘンドリックは、その様子に小さく眉を寄せた。
「……お話が、あります」
代表して口を開いた彼女の言葉は、この屋敷を出て、旅に出たいという申し出だった。
ヘンドリックは、意外そうな顔をした。
「贖罪なら、もう十分だろう。俺は気にしていない」
それは紛れもない本心だった。
かつて、彼女たちはクズパーティーの一員として、ヘンドリックを見下し、雑用を押し付けた側の人間だった。だが、それはリーダーたちに逆らえなかったがゆえの追従であり、彼女たち自身が心から望んだことではない。
ヘンドリックはとうに彼女たちを許している。というより、最初から恨んでなどいなかった。ただ「そういう連中だった」というだけの話だ。
だからこそ、安全なこの屋敷に留まるよう、彼は引き留めた。
「外は、そう甘くないぞ。ここにいれば飯も寝床もある」
だが、三人は静かに、けれど確かな意志を持って首を振った。
「これは、贖罪だけの話ではないんです」
彼女たちは、ぽつり、ぽつりと語り始めた。
かつて、自分たちのリーダーたちが各地で犯した罪。金のために潰した依頼。踏みにじってきた、名もなき人々。
あの時、自分たちは何もできなかった。ただ怯えて、見て見ぬふりをして、後ろで従っているだけだった。
「あの人たちは、もういません。だから、誰も謝る人がいないんです」
「私たちが行かなければ、あの人たちに踏みにじられた人たちは、一生、誰からも詫びられないままです」
その人々に、自分たちの足で直接会いに行き、頭を下げて回りたい。それが彼女たちの願いだった。
そして、彼女たちはもう一つの理由を口にした。
「ずっと、誰かに守られてきました。パーティーでも、この屋敷でも」
「あなたは、私たちを許してくれた。居場所もくれた。ご飯も、仕事も、優しさも……全部、いただいてばかりでした」
「でも、もう、与えられた場所にいるだけじゃ、駄目なんです」
一人が、震える声で、しかし真っ直ぐに言った。
「あなたにもらった優しさを、今度は、私たちが誰かに返しに行きたいんです」
そして、償いが終わったその先で――今度こそ、自分たちの足で生きていきたいのだと。
その真っ直ぐな言葉に、ヘンドリックは黙り込んだ。
思えば、初めて出会った頃の彼女たちは、常に誰かの顔色を窺い、怯えた目をしていた。自分の意志など、どこにもない人形のようだった。
だが今、目の前に立つ三人の瞳に、かつての怯えは微塵も残っていない。
ヘンドリックは、静かに息を吐いた。
「……そうか」
もう、彼女たちを引き留める言葉を、彼は持っていなかった。
いや――引き留めては、いけないのだと分かってしまった。




