表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
314/323

第311話:留守を守った人と、言葉にしない寂しさ

魔族領での和平交渉を終え、ヘンドリックたちが公爵邸へ帰還してから、数日が経っていた。屋敷はすっかり、いつもの穏やかな日常を取り戻している。


 だが、戻ってきた主を迎える喧騒が落ち着くと、屋敷にはまた、いつもの静けさが戻る。そして、その静けさの中でこそ、普段は表に出ないものが、ふと顔を覗かせることがある。


 その日の夜。ヘンドリックが日課である世界樹の様子を見に庭へ出ると、そこには先客がいた。


「……エリーゼか」


 月明かりの下、一人静かに世界樹を見上げていたのは、完璧なメイド長であるエリーゼだった。夜露に濡れた銀色の髪が、月光を受けて淡く輝いている。


「旦那様。夜風が冷えますわよ」


 エリーゼはいつも通り完璧な微笑みを浮かべ、留守中の出来事を淡々と報告し始めた。


「留守中に小悪党の賊が来ましたが、問題なく処理いたしました。世界樹も健やかに育っておりますわ。屋敷には何も心配は……」


 そこまで言いかけて、彼女は言葉を切った。


 ヘンドリックはふと気づいた。エリーゼが、世界樹の幹に、いつもより長く、どこか縋るように手を触れていることに。


「……何かあったか」


「いいえ。何も」


「エリーゼ」


 ヘンドリックが低く、しかし優しく名を呼ぶ。


 少しの沈黙の後、完璧な淑女の仮面が、わずかに崩れた。


「……本当は、心配で仕方がなかったのですわ」


 それは、途方もなく長い年月を、たった一人で生きてきた彼女が、ようやく手にした大切なものを失うことを恐れる、一人の女性としての、剥き出しの本音だった。


「あなたが魔族領へ発ってから、この世界樹の前に立つたびに、考えてしまうのです。もし、あなたが戻らなかったら、と。……わたくしは、また一人になってしまうのかと」


 かつて、彼女は本当に一人だった。枯れゆく世界樹を救うため、誰も信じられぬまま、途方もない年月を彷徨い続けた。裏切られ、傷つき、心を閉ざして。


 その孤独を、ヘンドリックが終わらせてくれた。だからこそ、それを再び失うことが、何よりも怖い。強くなったぶんだけ、失うことへの恐れも、深くなっていた。


 完璧に留守を守りきった。賊も退けた。世界樹も守った。誰にも弱音を見せなかった。


 だが、その裏で、彼女はずっと、この不安と一人で戦っていたのだ。


 ヘンドリックは何も言わず、ただそっと彼女の隣に並び立った。そして、静かに告げた。


「……もう、戻ってきた。ここにいる」


 飾り気のない、しかし確かな事実を告げる一言。


 その声を聞いて、エリーゼはふっと肩の力を抜き、ヘンドリックの肩に、そっと寄りかかった。


「……ええ。おかえりなさいませ、旦那様」


 その一言に、どれほどの安堵が込められていたか。


 言葉は少ない。だが、二人の間には、深く満ちた、穏やかな時間が流れていた。もう何年も連れ添った夫婦のような、あるいはそれ以上の、確かな信頼の時間が。


 見上げれば、世界樹の枝葉が、寄り添う二人を優しく包み込むように、静かに揺れている。


『……こいつには、敵わないな』


 いつも飄々として、誰の前でも動じないこの女性が、自分の帰りをこれほど案じていた。その事実が、じんわりと胸に染みる。


 ヘンドリックは小さく息を吐きながら、肩に伝わる確かな温もりを、静かに受け止めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ