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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第309話:和平の第一歩

 激しい戦いが終わり、魔族領の荒野に、静かな夜明けが訪れた。


 長い夜を越えた朝日が、疲弊した、しかしどこか晴れやかな表情の魔族たちを、優しく照らし出している。


 その光の中で、マジカは再び、穏健派と過激派、その両方の魔族たちを前にして、静かに口を開いた。


「聞いてくれ。……アタシたちの憎しみは、誰かに仕組まれたものだった。それは、もう分かったな」


 マジカの言葉に、魔族たちが静かに頷く。


「でもな。ここで一つ、勘違いしないでほしいことがある」


 彼女は、一人一人の顔を見渡すように、ゆっくりと続けた。


「憎しみが嘘だったからって、これまでの痛みが、失った命が、嘘になるわけじゃねぇ。お前たちが本当に苦しんできたことは、事実だ。それは、消えねぇ」


 誰かが、静かに涙を拭った。


「だからこそ、だ。これから、どうするか。人間と手を取るのか、距離を置くのか、それを決めるのは……アタシたち自身だ。誰かに植え付けられた感情でも、命令でもねぇ。アタシたち自身の頭で、考えて決める。それが、本当の自由ってやつだろ」


 完全な和平が、この一夜で訪れたわけではない。長い年月をかけて刻まれた溝は、そう簡単には埋まらないだろう。


 だが、魔族たちは確かに、その第一歩を――「対話を始める」という選択を、自らの意志で選び取ったのだ。


 その様子を見届けて、ルミナリアが進み出た。人間側の代表として、凛とした声で宣言する。


「魔族の同胞たちよ。わらわは、リーゼンブルグ王国の王女、ルミナリアじゃ。人間を代表し、約束しよう。……この和平の橋を、必ずや、両者の手で架けてみせようぞ」


 その気高く力強い言葉に、多くの魔族が、深く安堵の息を吐いた。


「もっとも」


 ルミナリアは、そこで悪戯っぽく微笑んだ。


「わらわ一人の言葉では、心もとないかもしれぬな。じゃが、案ずるな。この和平には、あの規格外の便利屋も、なりたての魔王も、そして頑固な獣人の族長も、皆が関わっておる。……これ以上に、頼もしい後ろ盾があろうか?」


 その言葉に、張り詰めていた魔族たちの間から、初めて、小さな笑い声が漏れた。凍りついていた空気が、少しずつ、和らいでいく。


 ◇ ◇ ◇


 喧騒が少し落ち着いた頃。


 獣人族長が、マジカの背中を、豪快にバシンと叩いた。


「がはは! よくやった、小娘! いや……もう、立派な魔王よ!」


「痛ぇな、爺さん! ……でも、まあ、ありがとよ」


 マジカが、照れくさそうに鼻をこすった。


 そこへ、一人の若い魔族が、おずおずと歩み出てきた。かつて、誰よりも人間を憎み、マジカに牙を剥いていた、あの青年だった。


「……魔王様」


 彼は、マジカの前で深々と頭を下げた。


「俺は、あんたを裏切り者と罵った。殺そうとした。それなのに、あんたは俺たちを見捨てなかった。……本当に、ありがとう」


「顔を上げろよ」


 マジカは、少しだけ困ったように笑った。


「アタシは、大したことはしてねぇ。ただ、お前らに死んでほしくなかった。それだけだ」


 その飾らない言葉に、青年の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。


 マジカは照れくさそうに顔を背けたが、その尖った耳は真っ赤に染まり、そして――どこか誇らしげに、揺れていた。


 少し離れた場所から、ヘンドリックは、その一部始終を静かに見守っていた。


 もう、自分の出る幕はない。ここから先は、この地に生きる者たちが、自らの手で紡いでいくべき物語だ。


『……これでいい。あとは、こいつらの問題だ』


 ヘンドリックは、小さく息を吐いた。


 和平への、確かな第一歩。


 だが、物語はここで終わらない。これは、人間と魔族の、長い長い新しい関係の、ほんの始まりに過ぎないのだから。

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