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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第303話:なりたて魔王の覚悟

魔族領の冷たい夜風が、砦の屋上を吹き抜けていく。


 マジカは一人、手すりに寄りかかって暗い荒野を見つめていた。


 黒幕によって仕組まれた偽りの憎しみ。それに踊らされ、同胞同士で血を流そうとしている過激派と穏健派の魔族たち。


『アタシに、あいつらを止める資格なんてあるのか?』


 魔王を名乗ってはいるが、自分は人間社会の温かいご飯の味を知ってしまっただけの、ただの元幹部に過ぎない。そんな迷いが、彼女の心を重く沈ませていた。


 あの若い魔族の、絶望に打ちひしがれた顔が、頭から離れない。憎しみを植え付けられ、同胞に牙を剥くよう仕向けられた者たち。彼らを救いたい。だが、そのための言葉を、自分は持っているのか。


 思えば、魔王の座を継いだのも成り行きだった。前の魔王が倒れ、たまたま近くにいた自分に、その重すぎる冠が転がり込んできただけ。魔王としての心得も、統治の作法も、何一つ教わってはいない。


「……こんなところで何をしている」


 背後から、静かな声がかけられた。ヘンドリックだった。


「ヘンドリック……」


 マジカは振り返らずに、ぽつりとこぼした。


「なあ、アタシは……偽物の魔王なんだ。あいつらの憎しみの深さを知っても、どう言葉をかければいいのか分からない。アタシなんかが上に立って、誰も納得しないんじゃないかって……」


 珍しく弱音を吐くマジカの背中に、ヘンドリックは淡々と問いかけた。


「魔王の資格って、何だ」


「……分からない。だから困ってるんだろ」


「なら、俺が教えてやる」


 ヘンドリックはマジカの隣に並び、同じように荒野を見つめた。


「お前は、同胞を殺したくないと言った。人間とも魔族とも、一緒に美味い飯を食えると言った。……それで十分だろう」


「……え?」


「圧倒的な恐怖と力で頂点に立つのが魔王の条件だというなら、確かにお前は向いていない。だが、迷いながらでも皆の先頭に立ち、手を取り合って守り抜くのが魔王の役割だというなら」


 ヘンドリックは、マジカの目を真っ直ぐに見据えた。


「お前はもう、立派な魔王だ」


 その不器用で、けれど絶対的な信頼を込めた言葉に、マジカの胸の奥が熱く締め付けられた。


 夜風に吹かれた彼女の尖った耳が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。


「……お前、たまにズルいこと言うよな」


 マジカは照れ隠しのように顔を背け、乱暴に涙を拭った。


 しかし、その顔に先ほどまでの迷いはなかった。


「アタシは逃げない。過激派も穏健派も、全員を集めて話をする。アタシ自身の言葉で、真実をぶちまけてやる」


 なりたて魔王の目に、確かな覚悟の火が灯っていた。

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