第300話【番外編】記念SS・ついに判明! 妹ちゃんの恥ずかしすぎる本名
「創造紳の皆様ー! 今日ついに300話達成したんだゾー!!」
公爵邸のリビングに、ミラの元気な声が響き渡った。
「本当にありがとうございます。皆様の応援あってのことですわ」
エリーゼが画面の向こうへ優雅に一礼する。
「というわけで、恒例の記念SSの時間じゃ」
ルミナリアがパチンと扇子を鳴らした。
「前回のSSでは、マジカちゃんの可愛らしい本名が判明したのう」
「ちゃん付けするな!! アタシは魔王だぞ! 乙女扱いするな!!」
マジカが顔を真っ赤にして怒り狂うが、全員が綺麗にスルーした。
「マジカちゃんの本名、マジカ・ルキャン・ディ……繋げてマジカルキャンディ。実に甘くて可愛らしい響きでしたわね」
「スルーした上で掘り返すな!!」
「そして今回は……なんと!」
ミラが尻尾をビタンビタンと振りながら、高らかに宣言した。
「今まで主要人物で唯一名前がなかった、妹ちゃんの本名がわかっちゃうんだゾー!!」
「……え?」
リビングの隅でお茶を飲んでいた妹が、ぴたりと固まった。
「マジで嫌です」
満面の営業スマイルのまま、妹はきっぱりと言い放った。
「私の本名を晒すくらいなら、私、皆さんに呪詛を吐き続けますから。末代まで祟りますから」
「妹ちゃん、目が笑ってないんだゾ……」
「当たり前です。あれは……あの名前だけは、駄目なんです」
ガタガタと震え始めた妹の肩を、ルミナリアがそっと抱いた。
「よいではないか。そなたの名は、そなたが思うほど悪いものではない。わらわが保証しよう」
「殿下……」
「それに、名を晒すのは創造紳の皆様への感謝の証じゃ。皆、そなたのことをもっと知りたがっておる」
妹はしばらく俯いていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……まあ、殿下がそこまで言うなら……今回は、許しますけれど」
「なぜ上から」
ヘンドリックの静かなツッコミは、誰にも拾われなかった。
◇ ◇ ◇
「では、発表するのじゃ!」
ルミナリアが羊皮紙を広げた。
「妹ちゃんの名前は――ベル。普段名乗っておる母方の姓と合わせて、ベル・リーネじゃ!」
「わあ、可愛い名前なんだゾ!」
「ええ、とてもお似合いですわ」
エリーゼたちが口々に褒める。ベルと呼ばれた妹は、少しだけ照れくさそうに頬を掻いた。
「……ありがとうございます。ここまでなら、いいんです。ここまでなら」
「ほう? ということは、問題はこの先か」
マジカがニヤリと笑った。前回のSSで散々いじられた意趣返しの好機である。
「おい、確かお前、父親の姓もあるんだよな? 兄貴と同じやつ。そっちで名乗るとどうなるんだ?」
「マジカさん」
ベルの営業スマイルの温度が、氷点下まで下がった。
「それを言ったら、末代まで祟ると言いましたよね」
「がはは! 言え言え! アタシだけ恥をかくのは不公平だぞ!」
「うぐ……」
全員の視線がベルに集まる。ルミナリアまで「わらわも聞きたいのじゃ」と目を輝かせている。
ベルは観念したように天を仰ぎ、蚊の鳴くような声で言った。
「……父方の姓は、ゼビュートです」
「ふむ。ベル・ゼビュート……ベル、ゼビュート……」
ルミナリアが繋げて読み上げた瞬間、リビングが凍りついた。
「「「「ベルゼビュート!?」」」」
それは、この世界の歴史上最恐と語り継がれる、伝説の大魔王の名前であった。子供でも知っている。御伽噺で泣く子を黙らせるために使われる、あの名前である。
「大魔王じゃねぇか!!」
マジカが叫んだ。
「アタシより格上の名前じゃねぇか!! 現役魔王のアタシがマジカルキャンディで、なんでただの妹が伝説の大魔王なんだよ!! 不公平だろ!!」
「だから嫌だったんです!!」
ベルが涙目で叫び返した。
「学校で名簿を父方で書かれた日には、教室が静まり返るんですよ! 先生が出席を取る声が震えるんですよ! 『ベル・ゼビュートさん……』って! 私はただの侍女見習いなのに!!」
「ぷっ……くく……」
「お兄ちゃん今笑ったでしょ!!」
「笑ってない」
ヘンドリックが顔を背けたまま肩を震わせていた。
「大体お兄ちゃんはずるいんです! 『ヘンドリック・ゼビュート』って、繋げても別に何も起きないじゃないですか! なんで私だけ大魔王なんですか!」
「……名前の巡り合わせというやつだ。諦めろ」
「他人事だと思って!!」
こうして、ヘンドリックが頑なに父の姓を名乗らない理由の裏に、「妹が名乗ると大魔王になってしまう」というもう一つの家庭の事情があったことが、白日の下に晒されたのであった。
◇ ◇ ◇
その騒ぎを、リビングの隅から眺めている二つの影があった。
闇の商人と、イリスである。
「……なあ、イリスさん」
闇の商人が、ぼそりと呟いた。
「魔王様の次は妹さんの本名公開、ってことはですよ。俺、名前どころか話題にすら上がらないってことは……俺、主要人物じゃなかったんすかねえ?」
しょんぼりと肩を落とす闇の商人に、イリスは無表情のまま、きっぱりと答えた。
「そんなことはありません」
「え?」
「私が、ゲットしてますから」
「…………エ?」
闇の商人の思考が停止した。
「ゲット? 俺、ゲットされてるんすか?」
「ええ、そうです」
イリスは表情ひとつ変えず、しかしどこか得意げに続けた。
「こう見えて、見る目はありますから」
「え、あの、それって、どういう……イリスさん? イリスさーん!?」
問い詰めようとする闇の商人を残し、イリスはスタスタとその場を立ち去った。
残された闇の商人は、赤くなったり青くなったりしながら、その背中を見送ることしかできなかった。
【創造紳の皆様へ】
皆様、いつも温かい応援を本当にありがとうございます!
ついに300話達成いたしました!
記念として、妹の本名「ベル・リーネ」(父方で名乗ると大変なことになる)を公開させていただきました。
次の目標は……そうですね、欲張らずに、これからも一話一話を大切に積み重ねてまいります。節目にはまた特別なSSをご用意しますので、どうかお楽しみに!
ミラ「ありがとうなんだゾー!!」
エリーゼ「今後とも、旦那様と愉快な家族をよろしくお願いいたしますわ」
ベル「ベル・リーネです! 絶対に、父方では呼ばないでくださいね! 絶対ですよ!」
マジカ「アタシのことも二度とちゃん付けで呼ぶなよ! 絶対だぞ!」
ヘンドリック「……フリにしか聞こえないのは、俺だけか」




