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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第291話:アレンとセリアと、記録の意味

 激闘から数日後。


 公爵邸の静かな一室には、柔らかな朝の陽射しが差し込んでいた。


 清潔なシーツが敷かれたベッドの上で、アレンは静かに目を覚ました。全身を分厚い包帯で巻かれ、少し身じろぎするだけでも鈍い痛みが走る。しかし、それ以上に彼の意識をはっきりと引き戻したのは、ベッドの傍らから聞こえる微かな寝息だった。


 視線を向けると、シーツの端に突っ伏すようにして眠っているセリアの姿があった。


 彼女の銀糸のような髪が、アレンの手の甲に柔らかく触れている。目の下には薄くクマが浮かんでおり、彼女がこの数日間、片時も離れずに付きっきりで看病をしてくれていたことが、痛いほどに伝わってきた。


「……セリア」


 アレンが掠れた声で呼ぶと、エルフの長い耳がぴくりと動き、セリアが弾かれたように顔を上げた。


「アレン……! 気がついたのですね」


 彼女の大きな瞳に、みるみるうちに涙が溢れていく。普段は感情をあまり表に出さず、エルディスの孫娘として常にクールに振る舞っていた彼女が、今はただの年相応の少女のように、アレンの無事を確認して泣きじゃくっていた。


「無茶です。あんな……自分の命を削るような結界を張るなんて。あなたが死んでしまったら、私は……」


「申し訳ありません。ですが、あなたを守るためには、あれしか方法がなかったのです」


 アレンが痛む腕をゆっくりと持ち上げ、セリアの涙を不器用な手つきで拭うと、セリアは頬を真っ赤に染めて俯いた。


 その初々しくも甘い光景を、部屋の扉の隙間から、無数の瞳がジッと観察していた。


「ふふっ。普段はツンとしているセリアさんが、あんなに可愛らしい顔をするなんて。同族のよしみで応援しますわ」


 エリーゼが扇子で口元を隠し、楽しそうに目を細める。


「命を懸けて背中を守り抜く……うむ、見事な覚悟だ。あの細腕のどこに、あれほどの気概が隠れていたのか」


 サンネがなぜか腕を組み、うんうんと武人らしく感心している。


「セリア、顔が真っ赤なんだゾ! アレンも照れてるんだゾ!」


 ミラが銀色の耳をパタパタと揺らしながら、無邪気に実況中継をしようとするのを、ルミナリアが慌てて羽交い締めにして口を塞いだ。


「しっ、ミラ。声が大きいぞ。せっかくの甘い雰囲気が台無しになってしまうではないか」


「アタシはこういうの、見てるとむず痒くなるんだが……まあ、悪くない結末だな」


 魔王マジカも、少しだけ尖った耳を赤くしながら、そっぽを向いて呟いた。


 そんな妻たちの様子を少し離れた廊下から眺めていたヘンドリックは、深く、深いため息をついた。


「……俺の屋敷、所帯が増えるな」


 世界樹の精霊に、土の精霊たち、数百万の従業員、そしてエルフのカップル。公爵邸は日に日に賑やかさを増していく。


『……スローライフからは、ますます遠ざかっている気がする』


 ヘンドリックは遠い目をしながら、小さく丸まった背中をさらに丸めて、静かにその場を立ち去った。


 ◇ ◇ ◇


 一方、病室の中。


 アレンはベッドの脇のサイドテーブルに視線を向けた。そこには、彼がいつも持ち歩いている記録用の羊皮紙と羽ペンが綺麗に揃えられて置かれている。


 彼はこれまで、世界樹の成長も、公爵邸での出来事も、すべてを客観的な事実として羊皮紙に『記録』し続けてきた。


 しかし、ダークエルフの凶刃からセリアを守り抜いたあの瞬間、彼の中に芽生えた感情は、決して羊皮紙に書き記せるような薄っぺらいものではなかった。


 記録として残すのではなく、今、目の前にいる彼女の心に直接届けなければならない言葉がある。


 アレンはゆっくりと身を起こし、セリアの小さな両手を、自分の両手でしっかりと包み込んだ。


「ア、アレン……? まだ無理をしては……」


「セリア。私はこれまで、エルディス様の命を受け、あなたを護衛し、記録する者として側にいました」


 アレンは、痛みを堪えながらも真っ直ぐに彼女の瞳を見つめた。


「しかし、今は違います。私は、記録係としてではなく……ただのアレンという一人の男として、あなたの側にいたい。これからもずっと、あなたをこの手で守り続けたいのです」


 それは、どんな美しい羊皮紙の記録よりも不器用で、しかし何よりも嘘偽りのない、彼自身の言葉だった。


 セリアは一瞬だけ目を丸くし、それから、弾けるように満面の笑みを浮かべた。


「……はい。記録係さんには、これからもずっと、私の側で一番大切な記録を刻み続けてもらわなければ困りますから」


 柔らかな朝の光に包まれた部屋の中で、二人の間に、もう言葉は必要なかった。


 公爵邸に、また一つ、新たな温かい絆が結ばれた瞬間だった。

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