第282話:後日談・王都の朝と、新しいギルド長
王都に、確かな平和な朝が訪れていた。
魔術師ギルドの最高幹部であり、国王の顧問でもあった黒幕は、国王の命により厳重に拘束され、裁判を待つ身となった。
「詰めが甘かったな」
ヴァレリウス公爵は、執務室で冷たくそう言い捨てながら、黒幕を追い詰めるための法的手続きの書類を淡々と処理していた。羽ペンを走らせる手が止まらない。
「……それにしても、ずいぶんと長い間、わしの目を盗んでいたものだ。情けない話だ」
「……公爵閣下も被害者ですよ」
「それはそうだが、悔しいものは悔しい。老いぼれを舐めてもらっては困る」
ヴァレリウスがぼやきながらも、書類の山を着実に片付けていく。ヘンドリックはその様子を眺めながら、内心でこの老人の底力に改めて感心していた。
◇ ◇ ◇
それに伴い、魔術師ギルドは一時的に解体され、再編されることになった。
そして、白羽の矢が立ったのは、公爵邸の庭で頭を抱えている男だった。
「私が……ギルド長……?」
シリルが、ヘンドリックとアルフォンスとイリスの視線を受けながら、呆然と繰り返した。
「お前しかいないだろ」
「で、でも……解体されたギルドを一から立て直すとなると、まず人材の確保から始めて、施設の整備、諸外国との協定の再締結、研究倫理規定の策定……」
「ああ」
「そして何より……予算が……!!」
「それを管理するのがお前の仕事だ」
「予算がああああ!!」
シリルの悲痛な叫びが、青空に高らかに吸い込まれていった。
廊下の陰から妹がこっそり覗いて、口元を押さえながら笑っていた。
その隣で、闇の精霊が「……旦那様が珍しく人に仕事を押しつけていますね」と静かに言った。
「押しつけていない。適材適所だ」
「……そうですか」
◇ ◇ ◇
その後、ヘンドリックは王城へ赴き、国王からの公式な謝罪を受けた。
広間に並んだ近衛たちの前で、国王は深々と頭を下げた。
「ヘンドリック公爵。この度のこと、余は心より詫びる」
「陛下、頭を上げてください。陛下は被害者です。俺が怒るべき相手は別にいました。……それより、一つだけお願いがあります」
「なんなりと」
「Gの件は、内密に頼みます」
国王が一瞬固まり、青ざめた顔で深く頷いた。
「……余の墓場まで持っていくと誓おう」
「ありがとうございます」
帰り際、廊下でヴァレリウスとすれ違った。
「ヘンドリック君、君はこれからどうするつもりかね」
「スローライフです」
「ハハハ」
「笑わないでください」
ヴァレリウスはニヤリと笑い、ヘンドリックの肩を叩いた。
「第48稿を楽しみにしているよ」
ヘンドリックは遠い目をして、ただ黙っていた。
『……なんか、やること増えてないか』
曲がった背中を丸めながら、ヘンドリックは屋敷への帰路についた。




