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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第281話:誕生日と、計画書第47稿と、恥ずかしいプレゼント

  その日は、朝から屋敷中が騒がしかった。

 

 ヘンドリックの誕生日当日。

 

 妹が中心となって取り仕切り、リビングには大きなケーキと華やかな飾り付けが用意されていた。ベルナデッタが「飾り付けが曲がっています」と無表情で直し、闇の精霊が「旦那様がお好きそうな配色に変更いたしました」と静かに花を追加し、土の精霊2体が「我輩も飾るんじゃぞい!!」と暴れて塀を一枚壊した。

 

「……予算が」とシリルが呟いた。

 

 全員から次々とプレゼントを手渡され、主役であるはずのヘンドリックは完全に困惑していた。

 

『……俺、誕生日あったっけ』

 

 祝われることに慣れていない三十五歳は、終始居心地が悪そうに背中を丸めていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そして夜。

 

「ちょっと出てくる」

 

 ヘンドリックはそう言い残し、ふらりと姿を消した。

 

 翌日になっても、彼は戻ってこなかった。

 

 妻たちが次第に心配し始める。

 

「……追いかけますか」

 

 影から現れた闇の精霊が静かに尋ねる。

 

「少し待ちましょう」

 

 エリーゼが落ち着かせようとするが、妹が不安そうに口を挟んだ。

 

「……でも、明日になっても戻らなかったら」

 

「大丈夫だ」

 

 魔王が腕を組んで言った。

 

「あいつは逃げてるんじゃない。何かを作ってる。……アタシには分かる」

 

「なぜ分かるんですか」と妹が聞く。

 

「……似たもの同士だからな」

 

 魔王が視線を逸らした。耳が少し赤い。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 屋敷中を捜索した結果、ヘンドリックは敷地の隅にある小さな作業部屋で発見された。

 

 発見者は妹だった。一番警戒されていないため、容易に入り込めた。

 

 部屋の中で一人、ヘンドリックは真剣な顔で何かを書いたり作ったりしていた。

 

 妹が部屋に入って最初に目にしたのは、テーブルの上に広げられた羊皮紙だった。

 

「スローライフ完全移行計画書・第47稿」

 

「全員を幸せにした後、静かに水の都へ移住する計画」

 

「公爵位返上のための法的手続きチェックリスト」

 

「ヴァレリウス公爵への根回し手順(過去46回失敗)」

 

 その見出しを読んだ妹は、完全に固まった。

 

「……お兄ちゃん」

 

「……見るな」

 

「第47稿……」

 

「まだ完成していない」

 

「……46回も」

 

「完成しなかっただけだ」

 

「……お兄ちゃん」

 

「何だ」

 

「縁切るよ?」

 

 ヘンドリックが固まった。

 

 妹からの緊急連絡が、屋敷中の全員に飛んだ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 凄まじい勢いで、妻たちをはじめとする全員が作業部屋に突入してくる。

 

 ヘンドリックは慌てて計画書を隠そうとした。

 

「ちがう、これは」

 

「見ましたわ」とエリーゼが冷ややかに言う。

 

「第47稿となっておるのじゃ」とルミナリアが目を細める。

 

「過去46回……」とサンネが遠い目をした。

 

「ボス、逃げようとしてたんだゾ!」とミラが指を差す。

 

「アタシたちを幸せにしてから逃げようとしてたのか……本当にお前らしいな」

 

 魔王が呆れたように苦笑いした。

 

 ヴァレリウスが紅茶を飲みながら扉の外から言った。

 

「……46回とも、わしが気づいていたのだよ。一度も成功しなかった理由が、これで分かったかね」

 

「……知っていたんですか」

 

「知っていたとも。毎回楽しみにしていたよ。第48稿も期待しているよ、ヘンドリック君」

 

 ヘンドリックが遠い目をした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 隠そうとした計画書の奥から、不意に大量の包みが出てきた。

 

 それは、全員分用意された、丁寧に作られた贈り物だった。

 

 ドライアドには世界樹の枝で作った小さなアクセサリー。「パパが作ったの?」「ああ」「……大事にする」ドライアドが胸に抱えた。

 

 妹には王城での仕事に役立つ魔道具。「お兄ちゃん……」「侍女の仕事、大変だろ」妹が目を赤くした。

 

 ブラムには最高品質の剣の手入れ道具セット。「師匠……っ」「泣くな」「泣いてません」目が赤かった。

 

 ロッテには魔法補助の護符。「ありがとうございます、師匠」「ブラムと一緒に使え」ロッテが嬉しそうに微笑んだ。

 

 シリルには世界樹の魔力を安定して研究できる魔道具。「閣下……これは……!」「お前の研究が正しく使われるようにだ」シリルが「予算どころじゃありません……!」と感激した。

 

 アルフォンスには魔力強化済みの予備の眼鏡。「……閣下」「壊れた時のためだ」「……ありがとうございます」アルフォンスが珍しく声を詰まらせた。

 

 ベルナデッタには掃除効率が飛躍的に上がる魔道具。無表情のまま受け取り、一言だけ言った。「……ありがとうございます」それだけで十分だった。

 

 土の精霊2体にはそれぞれに合った小さな魔石。「我輩への贈り物なんじゃぞい!!」と大喜びしたぞいの子を、女の土の精霊が「うるさいんじゃ」とケリ倒した。

 

 イリス、闇の商人、元パーティーの女三人にも、各自の仕事に合わせた実用品が届いた。闇の商人が「生まれて二度目に褒められました……っ!」と泣いた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そして、妻五人にはさらに別の包みが用意されていた。

 

「……これは、何ですか」

 

 包みを開けると、中には美しい服が入っていた。そして、その下には……非常に布地の少ない、セクシーなランジェリーが丁寧に畳まれていた。

 

 その場にいた全員が、再び固まった。

 

「……誕生日のお返しだ。遅くなったが」

 

 ヘンドリックは目を逸らしながらぼそりと言った。

 

 エリーゼの顔が赤く染まる。しかし、その目には策士としての光が宿っていた。

 

「……旦那様、これは」

 

 ルミナリアは開いた扇子で顔の下半分を隠していたが、尖った耳が真っ赤になっていた。

 

「……わ、わらわへの贈り物だと認識していいのじゃな?」

 

 サンネは震える手で包みを持ち上げた。

 

「こ、これは……戦装備として……いや……」

 

 無理のある言い訳を試みたが、最後まで言い張れずに口をつぐんだ。

 

「わあ! かわいいんだゾ! ボス、よく分かってるんだゾ!」

 

 ミラだけは一切動揺せず、無邪気に喜んでいる。

 

 一番動揺していたのは魔王だった。

 

「な……なんで……アタシのサイズ……」

 

 魔王の耳まで真っ赤に染まっている。

 

 全員の疑惑の視線が、ヘンドリックに突き刺さった。

 

「……知り合いに相談した」

 

 ヘンドリックが白状すると、エリーゼが鋭く問い詰めた。

 

「どなたですか」

 

「……カトリーヌ夫人だ」

 

 その名前が出た瞬間、全員が深く納得した。

 

 あの方のレクチャーならば、全て辻褄が合う。

 

 廊下の外から「ふふっ」という上品な笑い声が聞こえた気がしたが、誰も確認しに行かなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

『……喜んでもらえた。計画書は没収されたが』

 

 ヘンドリックは、妹に回収されていく羊皮紙を見つめながら内心でため息をついた。

 

『……第48稿を書かないといけない』

 

 小柄な背中を丸める兄の横で、妹が最高の笑顔を浮かべていた。

 

 世界樹の枝葉が、夜風に穏やかに揺れていた。

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