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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第280話:世界樹の朝と、エルフの悲願

黒幕が倒れた翌朝。

 

 世界樹の根元に仕掛けられていた魔力吸い上げ装置は、完全に停止していた。

 

 朝の光を受けた世界樹の枝葉は、以前よりも鮮やかに、力強く明るい輝きを放ち始めている。葉の一枚一枚が光を含んでいるように見えた。昨日と今日では、明らかに何かが違う。

 

 その異変にいち早く気づいたのは、居候のエルフたちだった。

 

「世界樹の魔力が……回復しています」

 

 アレンが羊皮紙に素早く記録をつけながら、興奮した声で言った。指が震えている。

 

「これは……装置が止まっただけじゃない。世界樹自体が、自分の力で回復しようとしている」

 

「……ええ」

 

 隣に立つセリアは、大きく息を吸い込み、ただ静かに目を潤ませていた。

 

「エルディス様に……早く伝えなければ」

 

 アレンが羊皮紙を抱えて走り出す。セリアはその場に残り、しばらく世界樹を見上げていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 少し離れた場所では、エリーゼが一人で世界樹の前に立っていた。

 

 三百九十年。

 

 彼女が生まれた頃から、世界樹はすでに枯れ始めていた。エルフ族の長老たちが嘆き、若者たちが祈り、それでも止まらなかった。

 

 エリーゼは旅に出た。世界樹を救う方法を探して。

 

 誰も信用できなかった。裏切られた。傷ついた。それでも歩き続けた。

 

 三百九十年分の孤独が、今この朝日の中に静かに溶けていくような気がした。

 

 ヘンドリックが近づき、無言でエリーゼの隣に立った。

 

 何も言わない。ただ、小柄で猫背の身を寄せ、静かに隣にいる。

 

 それだけで十分だった。

 

 エリーゼの瞳から、大粒の涙が静かにこぼれ落ちた。

 

「……旦那様」

 

「何だ」

 

「……ありがとうございます」

 

「俺は何もしていない」

 

「していますわ」

 

「してない」

 

「……していますわ」

 

 エリーゼが穏やかに言い切った。ヘンドリックは何も言えなくなった。

 

 二人はそれ以上言葉を交わさず、しばらくの間、静かに世界樹を見上げていた。

 

 朝風が吹いて、枝葉が揺れる。その音が、三百九十年前よりも少しだけ生き生きしているように聞こえた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 やがて、枝の上からドライアドがふわりと下りてきた。

 

「パパ、世界樹が元気になってきた」

 

「そうか」

 

「……エリーゼ、泣いてる」

 

 不思議そうに小首を傾げるドライアドに、エリーゼは涙を拭いながら優しく微笑んだ。

 

「失礼しましたわ」

 

「なんで泣いてるの」

 

「……嬉しいんですわ」

 

「嬉しいのに泣くの?」

 

「ええ。そういうことがあるんですよ」

 

 ドライアドがしばらく考えてから、小さな両手でエリーゼの手をぎゅっと握った。

 

「……よかったね」

 

 その純粋な一言に、エリーゼはたまらず顔を覆い、再び静かに泣き崩れた。

 

 ヘンドリックは少しだけ視線を逸らし、朝の光に透ける葉を見上げた。

 

『……報われてよかった』

 

 ◇ ◇ ◇

 

 その場面を少し離れたところから、サンネとミラが黙って見ていた。

 

「……エリーゼ殿が、あんなに泣くのは初めて見た」

 

 サンネが静かに言う。

 

「……ボスのおかげなんだゾ」

 

 ミラが小さく呟いた。

 

 二人は何も言わず、ただ朝の世界樹を見上げていた。

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