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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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【SS】影の立案者と、四人の共犯者

 これは、あの『誕生日条約』が生まれる、少し前の話だ。


 ◇ ◇ ◇


 屋敷の廊下で、ヘンドリックの妹はエリーゼを呼び止めた。


「エリーゼさん、少しよろしいですか」


「ええ、何でしょう」


 妹がもじもじしながら言った。


「お兄ちゃんのことなんですけど……皆さん、お兄ちゃんのことが好きですよね」


 エリーゼが少し目を細めた。


「……否定はしませんわ」


「お兄ちゃん、絶対に自分からは動かないじゃないですか。いつも皆のことを優先して、自分のことは後回しにして」


「……ええ」


「だから、動かせる仕組みを作ってほしいんです。お兄ちゃんが自然に甘えられるような」


 エリーゼがしばらく黙っていた。


 やがて、静かに微笑んだ。


「……面白いことを考えますわね」


「えへへ。お兄ちゃんには内緒で、お願いできますか?」


「……ルミナリア殿下とも相談してみますわ」


 ◇ ◇ ◇


 数日後、エリーゼとルミナリアが羊皮紙を広げていた。


「誕生日条約。自身の誕生日において、旦那様を二十四時間独占する権利を有する……どうですかしら」


「完璧じゃな!」


「ただ、一つ工夫が必要ですわ。あの方は警戒心が強いから……パーティーメンバー全員の権利にしましょう。そうすれば特定の誰かを優遇しているように見えない」


「なるほど……」


 ルミナリアが扇子を開いた。


「しかし、ロッテはブラムがおるぞ。あ奴が権利を使えば……」


「使いませんわ、きっと」


 エリーゼが穏やかに言った。


「ロッテさんはブラムのことを一番に考えますもの。それに……」


 エリーゼが妹の顔を思い出した。


「あの子は、最初からそこまで計算していたかもしれませんわね」


 ◇ ◇ ◇


 条約発効の当日。


 ロッテがブラムと腕を組んでリビングに現れた時、エリーゼとルミナリアは「ロッテの誕生日」に気づいて青ざめた。


 しかしロッテは予想通り、きっぱりと権利を断った。


「ヘンドリックさんは私にとって大切な師匠です。妻のルールなど使うつもりもありませんし、今日は愛する彼と二人きりで過ごすと決めていますから」


 エリーゼとルミナリアが安堵の涙を流した。


 ヘンドリックがロッテを見送り、その後に「今日は誰の誕生日でもないよね」と条約の抜け穴を突いて自室に逃げた。


「だ、旦那様ぁぁぁっ!?」


「待てヘンドリック! 今のは言葉の綾じゃぁぁっ!」


 廊下に悔しそうな声が響いた。


 しかし妹は廊下の隅で、その様子を見てこっそりと笑っていた。


『お兄ちゃん……抜け穴を見つけるのだけは早いんだよね』


 ヘンドリックの足音が遠ざかった後、エリーゼとルミナリアの「悔しがる声」がぴたりと止んだ。


「……予定通りですわね」


 エリーゼが静かに微笑んだ。


「うむ。今日という日を犠牲にした分、次の収穫は大きいぞ」


 ルミナリアが扇子をパチンと閉じた。


 サンネが腕を組んで頷く。「今日の一日で、閣下は条約を認めた。それで十分だ」


「ボス、完全に自分が勝ったと思ってるんだゾ」


 ミラが尻尾をパタパタさせながら笑った。


 妹が四人の顔を見回して、満足そうに言った。(この時点ではまだ魔王マジカと知り合っていないので五人ではなく四人)


「じゃあ、それぞれの誕生日まで、楽しみにしていてください」


「「「「ええ(じゃ/だ/だゾ)」」」」


 声を揃えた四人の目が、一様に輝いていた。


 ◇ ◇ ◇


 夜、妹はエリーゼに声をかけた。


「今日はごめんなさい。お兄ちゃんに逃げられちゃって」


「いいえ」


 エリーゼが首を振った。


「条約は成立しましたわ。それで十分です」


「エリーゼさん……お兄ちゃんのこと、よろしくお願いします」


「……ええ。お任せください」


「お兄ちゃん、ずっと一人で全部抱え込んできたから。誰かに甘えることを、ずっと忘れてたんだと思うんです」


 エリーゼが静かに頷いた。


「……変で、不器用で、頑固で。でも誰よりも皆のことを考えている方ですわ」


 妹がにこにこした。


「だから、皆さんに任せます。お兄ちゃんのこと」


「……ええ。必ず、幸せにしてみせますわ」


 世界樹の枝葉が、夜風に静かに揺れていた。

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