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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第253話:王都防衛戦と、予算を砕く精霊たち

 シェルターの薄暗い中で、闇の精霊が静かに口を開いた。


「……旦那様。少し、お願いがございます」


 ヘンドリックの目が動く。


「……影だけの状態では、できることに限界がございます。旦那様の空間収納の権限を、少しお借りできますか」


 ヘンドリックが目だけで頷く。


 闇の精霊が収納の中に手を差し込む。取り出したのは、ミニベルナデッタの体だった。


 彼女はそっと人形に触れ、するりと中に入った。


 しばらく手足を確かめるように動かす。


「……これで、もう少しお役に立てます」


 ミニベルナデッタ姿の闇の精霊が、シェルターの壁に手を当てた。漆黒のオーラが広がり、外界との気配が完全に遮断される。


「……外からは存在を感知できません。しばらくはここが安全ですわ」


『……出来た子なんだよね。本当に助かるんだよね』


 ◇ ◇ ◇


 一方、地中深くを移動していたワームが、突然動きを止めた。


 主の気配が、消えた。


「キュウ……?」


 触角を激しく動かし、あちこちを探るが、どこにもヘンドリックの気配がない。闇の精霊の隠蔽が完璧に機能している証拠だった。


 ワームが混乱して方向を見失いかけた時、土の囲いの中からエリーゼの声が響いた。


「……落ち着きなさい。最後に気配のあった場所へ向かいなさい。そこから探しますわ」


「キュウ」


 ワームが頷き、最後にヘンドリックの気配を感知した座標へ向けて進路を取り直した。


 ◇ ◇ ◇


 地上では、王都郊外の公爵邸正門前に、漆黒の瘴気に当てられた魔物の群れと仮面を被った敵の残党が押し寄せていた。


「師匠の家は、俺たちが守る!」


 ブラムが大剣を振り回し、前衛の魔物たちを次々と切り伏せていく。


 その後方から、ロッテがブラムの動きにピタリと合わせ、死角を完璧にカバーしていた。


「ブラム君、右から回り込んできます!」


「わかってる! 任せろ!」


 側面では、無表情なイリスの背中にガッチリとしがみついた闇の商人が、半泣きになりながら自腹の超高級アイテムをポンポンと投げまくっていた。


「ひぃぃぃっ! なんで私がこんな前線にぃぃっ!」


「……側面、敵影多数。商人、投擲」


「あああっ! 金貨百枚の爆炎の魔石が! 金貨二百枚の雷竜の牙があぁぁっ! 全部ヘンドリック公爵に経費請求してやるんですからねぇぇっ!!」


 イリスが白黒の石で敵を無力化し、闇の商人が泣き叫びながら大火力のアイテムで爆砕する。事実上の歩く超高コスト固定砲台が完成しており、敵は屋敷に指一本触れることすらできていなかった。


 防衛戦は完璧にコントロールされている——かに見えた。


 だが、この公爵邸には、致命的に空気が読めない者たちがいたのである。


「ウオオオオオオッ! 変な主の留守は、我輩が守るんじゃぞい!!」


「悪い奴らは、全部ドカンじゃ!!」


 ズゴォォォォォンッ!!


 屋敷の庭から雄叫びと共に二体の精霊が飛び出してきた。土の精霊(ぞいの子)と、女の土の精霊だ。


「おい、お前たち! 前線に出る必要は——」


 ブラムが止めようとするのも聞かず、完全にテンションが上がりきった二体の土の精霊は、巨大な岩の拳を作り出し、敵の群れのど真ん中へ突っ込んでいった。


「我輩の必殺パンチじゃぞい!!」


「あたいは……じゃなくて、わらわのドリルじゃ!!」


 ドッゴォォォォォォォォンッ!!!


 凄まじい轟音と共に大地が爆発したように吹き飛んだ。魔物たちは粉微塵になった。だが同時に、公爵邸前の美しい石畳の道路がクレーターだらけの荒れ地へと変貌してしまった。


「やったんじゃぞい! 大活躍じゃぞい!」


「ドカンじゃ! すっきりしたんじゃ!」


 敵を倒した二体は空気を読む機能がすっぽり抜け落ちているらしく、クレーターのど真ん中でハイタッチして大喜びしている。


 その光景を、玄関前から見守っていたアルフォンスとベルナデッタが並んで眺めていた。


「やれやれ……」


 アルフォンスが眼鏡を押し上げながら深くため息をついた。


「閣下がようやく手に入れられた新居の景観が、たった数秒で台無しですね。あの石畳、王都から最高の職人を呼んで敷き詰めたばかりだったのですが」


「……ええ。後で、一週間の便所掃除の刑を言い渡さねばなりませんね」


 ベルナデッタが冷ややかな声で静かに呟いた。


 だが、夫婦の嘆きよりも遥かに深刻なダメージを負っていた男がいた。公爵家の経理を担うシリルである。


「ああああああっ!! なんてことをしてくれたんだ!!」


 シリルは帳簿を地面に叩きつけ、頭を抱えて絶叫した。


「正門前の石畳の修繕費、金貨五十枚! 吹き飛ばされた庭の彫像、金貨百枚! しかもあいつら、敵のドロップアイテムまで土砂で埋めやがった! 費用が! 公爵家の予算が、敵ではなく身内の物理攻撃で削られていくぅぅぅっ!!」


 ギリギリと歯を食いしばり、シリルは杖を構えた。周囲に数十の光の槍が展開される。土の精霊たちのような無駄な破壊を一切伴わない、魔力効率と殺傷力のみを極限まで追求した超高効率な魔法だ。


「これ以上、屋敷の備品を壊されてたまるか! 予算を脅かす敵は、俺が最小限の経費で全滅させてやるっ!!」


 シュバババババッ!!


 経理担当の怒りが乗った光の槍が、残った敵の急所を寸分の狂いもなく貫き、次々と絶命させていく。


 空気を読まない精霊たちが無邪気に地形を破壊し、泣き叫ぶ商人が自腹のアイテムを投げ、予算の心配で発狂した文官が敵を効率的に処理していく。


 そんなカオス極まりない王都防衛戦が繰り広げられている頃——地中の奥深くでは、ワームが最後の気配を感知した座標へ向けて、静かに移動を続けていた。

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