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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第252話:荒野の便利屋と、影との契約

 乾いた風が砂埃を舞い上げる、赤茶けた見知らぬ荒野。


 強制転移の国宝によって弾き飛ばされたヘンドリックが、ひび割れた大地の上に転がっていた。凄まじい着地の衝撃で意識を取り戻したものの、【狂笑の呪面】の反動は絶対だ。一週間は指一本動かせず、声帯を震わせることすらできない。


 動くのは、眼球だけ。


『……どこだここ。スローライフが待っているはずだった。でも……体が、全然動かない』


 太陽が容赦なく照りつける。のどが渇く。唇が乾く。声も出ない。助けを呼ぶこともできない。完全な詰み状態。


 だが。


 ひたり、と。


 彼自身の影の中から、色白の小さな手が音もなく伸びてきた。木彫りの器に澄んだ水がなみなみと注がれている。


 器がヘンドリックの唇にそっと当てられ、冷たい水がゆっくりと流し込まれた。飲めた。


 闇の精霊は水を与え終えると、布を取り出してヘンドリックの顔を拭き、体勢を丁寧に整え直した。全部無言でこなす。


 ヘンドリックの目が闇の精霊を追う。


『……魔法は、まだ使える。このままここにいるのはまずい』


 ヘンドリックは【土木建築Lv1】に意識を集中させた。


 声も動作も不要。魔力を地面に流し込むだけでいい。


 大地がモコモコと動き出した。地面が内側からえぐれ、頑丈な地下空間が形成されていく。日差しを遮る天井。砂埃を防ぐ壁。最低限の居住空間が、音もなく完成した。


 闇の精霊がヘンドリックの体を抱えて、そっとシェルターの中へと運び込んだ。


 涼しい。日差しが届かない。


『……我ながら、この状況でよくやる』


 落ち着いた暗闇の中で、ヘンドリックの目が闇の精霊を改めて追った。


『……この子、誰なんだろう』


 目だけで問う。


 闇の精霊はその視線を受け止め、静かに口を開いた。


「……記憶の一部を失っておられるのですね。わたくしはヘンドリック様と契約している精霊です。……影の中におりました。いつもこうしていますので」


『……ずっとそばにいたのか』


 声が出ないので何も言えない。ただ目だけが動く。


「……お気になさらず。わたくしは、旦那様のお側にいられれば、それで十分ですので」


 闇の精霊が静かにヘンドリックの傍らに座り直した。


 一瞬、中に入り込んで体を動かすことも選択肢としてよぎった。しかし。


「……お体が悲鳴を上げています。無理に動かすのは危険と判断しました。わたくしにできることをいたします」


 それだけ言って、また淡々と世話を続けた。


『……出来た子だ』

『……気づいていなくて、申し訳なかった』


 熱風が外を吹き荒れる中、地下のシェルターの中だけは静かだった。


 声なき男と影の従者の、奇妙で穏やかな時間が流れていった。


 ◇ ◇ ◇


 それから数日が経った頃。


 声も動作も戻らない。しかし魔力だけは使える。


 ヘンドリックは、ただ寝ているだけでは暇すぎた。


『……せっかくだから、色々作っておこうかな』


 シェルターの居住空間を少しずつ快適にしていく。岩のソファ。照明代わりの発光苔。濾過された水を引く手水鉢。


 そしてある日、ふと考えた。


『……いつかここを出る時、移動手段が必要かな。ワームはいるけど、自前で動ける何かがあると、スローライフがより充実するんじゃないかな』


 魔力を地面に流し込む。土と鉱物を圧縮し、組み上げる。


 声も動かせない体でも、魔力操作だけは自由だった。


『……地中を走れる乗り物、作れそうかな』


 闇の精霊が横目で見ている。


「……旦那様は、本当に飽きない方ですね」


 それだけ言って、また世話に戻った。

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