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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第251話:記憶なき王と、土竜の契約と、影の従者

 数百万の従業員(G)たちが各所で粛々と仕事を続ける公爵邸。彼らが向かうのは汚れた場所、生ゴミのある場所のみだ。メイド長が完璧に管理している寝室の周辺には、一匹も近づいてこない。


 そして今、その最高級のベッドは完全に空っぽになっていた。


 突然の強制転移。理不尽な追放。愛する男が跡形もなく消え去った空間で、ヒロインたちは呆然と立ち尽くしていた。


「……エリーゼ。あの目……見ましたか」


 静寂を破ったのは、サンネの震える声だった。


「……見ましたわ」


 エリーゼが静かに答える。目を閉じ、一度だけ深く息を吐いた。


「……あの目は、私たちを見ていましたわ。最後まで。すべてを一人で引き受ける……あの方らしい、覚悟の眼差しでしたわ」


 ミラがその場に膝をついて大粒の涙をこぼす。


「ボス……っ。なんで、いっつも一人で行っちゃうんだゾ……」


 ルミナリアは扇子をミシミシと音が鳴るほど強く握りしめたまま、一歩も動けない。


 完全なるすれ違い。


 その直後だった。テーブルの上で呆然としていた国王が、ビクンッと体を大きく痙攣させた。


「な、なんじゃ!?」


 ヒロインたちが警戒して距離を取る。国王の目と口から、漆黒の瘴気が一気に噴き出した。黒い霧が部屋を覆い尽くす。


 その霧の中から、異様な仮面を被った敵幹部が悠然と姿を現した。


「……長かった。あの男さえいなければ、後はどうとでもなる。有能すぎる公爵、ヘンドリック。奴という最大の障害は消えた。もはやこの王都は我々のものだ」


 勝利宣言。だが、それを聞いたヒロインたちの顔から、悲嘆の色がスッと消え去った。


「……ずいぶんと長い工程でしたのね。国王陛下を操り、国宝まで使わせる。そこまでしなければ、一人の便利屋を排除できなかったということですわ」


 エリーゼが笑顔のまま、杖の先端に魔力を集束させる。


「閣下を陥れたこと……後悔させてやる」


 サンネが絶対的な殺気を込めて大剣を抜く。


「ボスがいなくても、アタシたちはいるんだゾ!」


 ミラが凄まじい獣化の気配を漂わせた。


 想定外の圧倒的な殺気に、敵幹部は舌打ちをした。最大の目的は達した今、正面衝突するのは得策ではない。


「……いずれ絶望に沈む」


 捨て台詞を残し、瘴気と共に消え去った。


 黒い霧が晴れ、国王がゆっくりと目を開けた。


「……余は……何を……」


 激しい頭痛に耐えるように頭を押さえながら、その場に膝をついた。


「父上! ご無事ですか!?」


 ルミナリアが駆け寄る。アルフォンスが静かに一礼して告げた。


「陛下。……ヘンドリック閣下のことを覚えておられますか」


 長い沈黙。


「……ヘンドリック? 誰じゃ、それは」


 全員が固まった。


「救国の英雄で、世界樹を王都に根付かせ、公爵位を授けられた方です。陛下が先ほど、強制転移の宝玉でどこかへ追放されました」


 国王の顔から血の気が引いていく。


「……追放? 知らぬ者を……しかも救国の英雄を追放など……余は、一体自分の手で何を……っ」


「父上のせいではありません。敵の瘴気に操られていたのですわ」


 ルミナリアが慰めるが、国王は両手で顔を覆い、深い後悔に打ちひしがれていた。


 ◇ ◇ ◇


 屋敷に重苦しい空気が漂う中、中庭からズゴゴゴゴ……と地響きが伝わってきた。


 ワームが地上に顔を出す。


「ぶはぁっ!!」


 泥まみれになった土の精霊(ぞいの子)が庭の芝生に勢いよく吐き出された。


「……やっと出られたんじゃぞい……ワームの口の中は狭くて、目が回るんじゃぞい……」


 ワームはキョロキョロと周囲を見回し、主の気配を探す。いない。


「キュウ……」


 しょんぼりと地中に戻ろうとした。


「待ちなさい」


 エリーゼが窓から中庭へ飛び出した。


「あなたを使役した方が行ってしまいましたわ。私たちを、その方のところへ連れて行きなさい」


 ワームが首を横に振る。主の命令がない。


「……では、こうしましょう。あなたが主の命令を完璧に遂行したことを、私たちが主に伝えてさしあげますわ。大量の従業員たちを安全に屋敷まで届けたこと、全部。……その報告を届けるためだけに、私たちを連れて行きなさい」


 ワームの触角がピクリと動く。沈黙。


「キュウ」


 深く頷いた。


 ◇ ◇ ◇


「全員、集まってくださいな。少し窮屈になりますわよ」


 エリーゼが【土魔法Lv1】を発動する。球形の頑丈な囲いが組み上がっていく。


「ボスのところに行けるんだゾ! 一番乗りだゾ!」


 ミラが真っ先に飛び込む。サンネが続き、魔王が腕を組んで入り、ルミナリアが「わらわの愛しき殿方を迎えに行ってまいります!」と飛び込んだ。


 ブラムとロッテが入ろうとした瞬間。


 ズドォォォォォンッ!!


 屋敷の外壁が爆音と共に揺れた。敵の第二波。


 エリーゼが瞬時に判断した。


「ブラム、ロッテ。屋敷をお願いしますわ」


「でも師匠が……!」


「旦那様を迎えに行くのは、私たちだけで十分ですわ。あなたたちには、ここを守る役目があります。……旦那様の帰る場所を、どうか死守してくださいな」


 ブラムが拳を握りしめた。


「……わかりました。師匠を、頼みます」


 イリスが静かに一礼する。「閣下のご帰還を、心よりお待ちしております」


 闇の商人が半泣きで荷物を抱え直す。「ひぃぃ……また残るのですか……」


「我輩も行くんじゃぞい!」


 土の精霊が囲いに飛び込もうとした瞬間、ベルナデッタの手が後ろ首をガシッと掴んだ。


「あなたは残りなさい」


「……ぞい」


 エリーゼが最後に乗り込み、囲いが閉じる。ワームが大きく口を開けて囲いごと飲み込んだ。


「キュウ」


 静かに地中へ消えていった。


 国王・アルフォンス・シリル・ベルナデッタ・ブラム・ロッテ・イリス・闇の商人・土の精霊・アレン・セリアが、大穴の空いた庭を呆然と見送った。


「……夢ではないのじゃな」と国王が呟く。


「……現実です。我々は、この屋敷と王都を守り抜かねばなりません」


 アルフォンスが静かに答えた。


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