第25話:逃げ場なき浴室と、のぼせた守護者
「……さて、直ったから俺は失礼するよ。みんな、ゆっくり温まってくれ」
ずぶ濡れになったシャツを肌に張り付かせながら、ヘンドリックは一刻も早くこの場を立ち去ろうとした。だが、その背中に冷徹かつ有無を言わせぬ声が突き刺さる。
「待ちなさい、ヘンドリック。そんなずぶ濡れの姿で戻るつもり?」
エリーゼが、自身の「つつましい胸元」をタオルで隠しながらも、鋭い眼差しで彼を射抜いた。
「え? ああ、着替えれば済むことだからね。気を使わなくていいよ」
「ダメだゾ! ボス、今の時期は夜風が冷たいんだゾ! 濡れたままお外に出たら、風邪を引いて寝込んじゃうんだゾ!」
ミラの野生の直感が、ヘンドリックの退路を塞ぐように彼の背後に回り込む。
「エリーゼとミラの言う通りだわ。リーダーが体調を崩したら、明日の探索に支障が出るわ。……体調管理もプロの務め、そう言ったのはあなたでしょう?」
サンネが艶やかな笑みを浮かべ、逃げようとするヘンドリックの腕をがっしりと掴んだ。
「このまま一緒に入りなさい。汚れも落ちるし、体も温まる。合理的だと思わないかしら?」
「いや、合理的かもしれないけれど、流石にそれは……!」
ヘンドリックの必死の抵抗も、トップランカー三人の完璧な連携の前では無力だった。
「さあ、脱ぎなさい」「お手伝いするんだゾ!」と、三人がかりで強引に引きずり込まれ、気がつけばヘンドリックは、湯気の中に放り出されていた。
『……どうして、こうなったんだ……』
広い浴槽の端で、ヘンドリックは小さくなって湯船に浸かっていた。
右隣には、完璧な曲線美を見せつけるようにくつろぐサンネ。
左隣には、お湯を跳ね返しながら「夢の詰まった感触」をこれでもかと押し付けてくるミラ。
そして正面には、先ほどまでのパニックが嘘のように澄ました顔で、熱を帯びた瞳をじっと向けてくるエリーゼ。
「……あの、みんな。そんなに近くに寄らなくても、十分にお湯は温かいんだけどね」
「あら、背中が流しにくいわ。もっとこっちへ来てくれないかしら」
「ボス、耳掃除の続きもしてほしいんだゾ!」
「ヘンドリック、私の顔がまだ火照っているの……。少しだけ、冷たい手で触れてくれないかしら」
三者三様の猛攻。
サンネの【色気】、ミラの【生命力】、そしてエリーゼの【癒やし】。
それらが充満した湯気と共に、ヘンドリックの脳内をかき乱していく。
三十五歳の健康な男にとって、この状況は【深層】のボスモンスターとの死闘よりも過酷だった。
「……あ、ああ……なんだか、急に意識が……」
「ヘンドリック? どうしたの?」
「ボス! 顔が真っ赤なんだゾ!」
「大変、のぼせたのかしら!?」
ヘンドリックの視界がぐにゃりと歪む。
美女たちの肉感的な柔らかさと、逃げ場のない甘い香り。そしてお湯の熱さが限界点を超え、伝説の便利屋は、そのままバタリと湯船の縁に倒れ込んだ。
「ヘンドリックーっ!?」
おっさんの悲鳴ならぬ、三人の美女の絶叫が浴室に響き渡る。
理外の戦術と魔道具で数多の危機を乗り越えてきたヘンドリックだったが、身内の「女の連携」という名の鉄壁の包囲網には、あえなく撃沈するのだった。




