第24話:戦士の休息と、湯煙のハプニング
訓練場での激しい模擬戦を終え、一行はヘンドリックの工房兼自宅へと戻ってきた。
全員が土煙と汗にまみれ、装備もボロボロの状態だ。
「……はぁ、はぁ。本当に、とんでもない手数の多さだったわ……」
サンネが乱れた髪を拭いながら、感服したように呟く。本来なら【浄化魔法】で一瞬にして汚れを落とすのが冒険者の常識だが、ヘンドリックは皆をリビングに集めると、意外な提案をした。
「みんな、今日はお疲れ様。魔法で綺麗にするのもいいけど、せっかく大きな【大浴場】があるんだ。お湯に浸かって、しっかり筋肉を解しておいてくれないかな。その方が明日の疲れが違うからね」
ヘンドリックの家には、彼が魔道具の実験や趣味を兼ねて増築した、冒険者の拠点としては破格の広さを誇るお風呂がある。
「お風呂! 賛成なんだゾ! ボスのお家のお風呂、広くて大好きだゾ!」
ミラが尻尾を振りながら賛成の声を上げた直後だった。
「あ、あの! 師匠! 俺とロッテちゃん、ちょっとこれからギルドに用事があるのを思い出しまして! 先に失礼します!」
ブラムが少し顔を赤くしながら、隣で俯いているロッテの袖を引いた。サンネが不思議そうに首を傾げるが、ヘンドリックは全てを察して、穏やかに微笑んだ。
「ああ、そうか。それなら仕方ないね。あまり遅くならないように、気をつけて行ってくるんだよ。ロッテちゃんのことも、ちゃんと送ってあげるんだよ、ブラム」
「はいっ! 行こう、ロッテちゃん!」
「あ、はい……失礼します……!」
若い二人が逃げるようにして飛び出していくのを見送り、ヘンドリックは『邪魔をするのは野暮というものだよね』と目を細めた。
残されたサンネ、ミラ、そしてエリーゼの三人は、連れ立って脱衣所へと向かった。
エリーゼは【氷魔法】の特化型であるため、自力でお湯を出すことはできない。そこで彼女は、浴室に備え付けられたヘンドリックお手製の【魔力給湯器】を操作して、率先してお湯を張ろうと試みた。
「私が準備をするわ。ええと、このレバーを回して魔力を流せばいいのよね……」
だが、王都の騎士団やエルフの里にも存在しない「便利屋特製の複雑な最新設備」を、彼女が初見で扱えるはずもなかった。
エリーゼが魔力を流し込んだ瞬間、給湯器が誤作動を起こし、四方八方へ勢いよく熱めのお湯を噴射し始めたのだ。
「きゃあっ!? な、何よこれ! お湯が止まらないわ!」
「ちょっとエリーゼ! 私、もう服脱いでるのに! あつっ!」
「ボスー! お湯がいっぱい飛んでくるんだゾー!」
浴室の中から、ドタバタとした悲鳴と水音がリビングまで響き渡った。
「ねえ、ヘンドリック! 早く来てちょうだい! 使い方が分からないわ!」
サンネの切羽詰まった声に、ヘンドリックは「仕方ないな」とため息をつき、脱衣所へと足を踏み入れた。
『まあ、まだお湯を張っている最中だし、みんなバスタオルくらいは巻いているだろう』
そんなプロらしからぬ甘い希望的観測を抱いたまま、ヘンドリックは「開けるよ」と声をかけて、曇りガラスの扉をガラリと開けた。
湯煙の向こう側に広がっていたのは、まさに地獄、いや、男にとっての桃源郷だった。
バスタオルなどという文明の利器は、そこには存在しなかった。
お湯を浴びて艶かしく光るサンネの完璧なプロポーション。全身泡だらけで暴力的なまでの胸部装甲を揺らすミラ。
そして、パニックになりながら自身のつつましい胸を両腕で必死に隠し、顔を真っ赤にして茹で上がっているエリーゼ。
「うわっ……! ちょ、みんな! 隠してくれ! せめてタオルを巻いてくれないか!」
ヘンドリックの悲鳴が、お湯の音にかき消されるように浴室に響き渡った。




