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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第229話:英雄の犠牲と、三下の記憶

 翌日。

 窓の外の軒下で、土の精霊(男)が凄まじい速度で回転し続けているのを眺めながら、俺たちはリビングで優雅なティータイムを過ごしていた。


 エルフたちとの一件も一段落し、ようやく俺に平穏な時間が訪れた……と、安堵の息を吐きかけた、その時だった。


「……そういえば、一つ確認しておきたいことがあるのじゃが」


 ルミナリア王女が、扇子をパチンと閉じて口を開いた。


「この屋敷の庭にある新たな世界樹は見事に育っておるが……元々、旦那様が枝を拾ってきた『ダンジョンの最下層にあった世界樹』は、今どうなっておるのじゃ? 誰か知らぬか」


 その言葉に、リビングにいた全員の動きがピタリと止まった。


 エリーゼも、サンネも、ミラも、誰も答えられない。

 それもそのはずだ。


『……そういえば、誰も最下層の状況なんてまともに把握していないんだけどね。何せ、あの時あそこに辿り着いた俺は、まともな精神状態じゃなかったんだから』


 かつて、国中の精鋭が挑んでも全滅する超高難易度ダンジョンに、俺たちは足を踏み入れた。

 そこで絶体絶命の危機に陥った際、俺は皆を助けるために「周囲の者全員をダンジョン外へ強制脱出させるアイテム」を使用したのだ。


 仲間を逃がし、自分一人が取り残されるという決死の英雄的行動。

 だが、その強力なアイテムには「何かが犠牲になる」という重い対価が必要だった。その時、俺が支払わされた対価は『記憶』だった。


 記憶を失った副作用で、俺の性格は完全に改竄され、どういうわけか『三下の雑魚キャラ』になってしまったのだ。


「……あの時は、本当に大変でしたわね。旦那様を救出すべく、わたくしたちパーティーメンバーはすぐにダンジョンへ入り直したのですけれど」


 エリーゼが、遠い目をして紅茶を啜った。


「旦那様は途中まで戻ってきていたはずなのに、改竄された性格のせいで『ヒャッハー! お宝は全部俺のもんだぜぇ!』と叫びながら、ガニ股で奥へと逆走していってしまったのですわ」


「そうなんだゾ! しかも最下層で世界樹の根元に辿り着いたボスは、お宝と勘違いしたのか、知らずに世界樹の根に近い枝をへし折って持ち帰ろうとしていたんだゾ!」


 ミラの言葉に、俺は冷や汗を拭った。


『……英雄的な自己犠牲の感動が、ミクロン単位も残っていないんだけどね。しかも世界樹の枝をへし折った理由が、ただのチンピラの窃盗だったなんて』


「ようやく最下層で追いついたと思えば、閣下は私たちを見るなり『俺の獲物を横取りするんじゃねえ!』と襲いかかってこられましたからね。……あのアホみたいな口調なのに、剣の腕も魔法も完全に無双状態で、私たちは全滅を覚悟しました」


 サンネが、かつての恐怖を思い出したように身震いした。


「……ふん。あのままでは全員殺されるところじゃったからな。わらわが機転を利かせて、状態異常を治すレアアイテムを足元に落としてやったのじゃ」


 ルミナリアがドヤ顔で扇子を広げる。


「無双状態の三下だった旦那様は、それを見るなり『あ? 何だこれ?』と馬鹿みたいに拾い上げ……アイテムが発動して、ようやく元のポンコツなおっさんに戻った、というわけじゃな」


 ヒロインたちの視線が、一斉に俺へと突き刺さる。


「……あの、皆を逃がすために命を懸けた俺の英雄的行動については、誰も触れてくれないのかな?」


 ジトォォォォッ。


 俺のささやかな自己弁護は、四人からの絶対零度のジト目によって完全に封殺された。


「……というわけで、旦那様がへし折ったせいで、あのダンジョンの世界樹がどうなっているか、誰一人として確認する余裕などなかったのじゃ」


 ルミナリアが結論を述べる。


「いや、でも誰か他に到達した探索者はいないのかな。国に報告とか……」


「誰も到達できなかったんじゃ! あそこは国中の精鋭が挑んでも全滅する死地じゃ! ……旦那様が三下の雑魚のノリで踏破してしまったのが異常なだけじゃ!」


 王女の正論に、俺は言葉を失った。


『……マジか。俺が自分の足で確認しに行くしかないのかな。せっかく屋敷が完成してスローライフを満喫できると思ったのに』


「……旦那様。今朝、里の世界樹が復活したように、ダンジョンの世界樹にも何らかの異変が起きている可能性がございますわ。……参りましょう」


 エリーゼが、完全に臨戦態勢の笑みを浮かべて立ち上がった。

 サンネとミラも、すでに武器の手入れを終えてやる気に満ちている。


「……行くしかない、のか」


 窓の外では、土の精霊(男)が未だにぐるぐると回り続けている。

 俺は、遠ざかっていく平穏な日々に別れを告げながら、重い腰を上げて再び胃薬の瓶を煽るのだった。

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