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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第224話:終わらない開拓と、魔王の不憫な手土産

 王都郊外にある世界樹の周囲は、ここ数日で劇的な変化を遂げていた。


 屋敷の裏手に巨大なコロッセウムが建ったかと思えば、今度は森の向こう側の荒れ地が、恐ろしいスピードで開墾され始めたのだ。


『……ちょっと待ってほしいんだけどね。なんで昨日までただの荒野だった場所が、見渡す限りの広大な農地になっているのかな』


 俺が新居――俺は未だに侯爵邸だと思っている――のバルコニーから呆然と見下ろしていると、土の精霊たちがものすごいスピードでクワを振るい、次々と畑を耕していくのが見えた。


 彼らは地下へ潜ってやり過ごせばいいものを、先日ベルナデッタのスカートを捲るという万死に値する愚行を犯したため、「メイド長の視界に入ったらモップで粉砕される」という恐怖から逃れるべく、ひたすら外へ外へと開拓を進めているらしい。


『……逃げ方が物理的すぎるんだけどね。でも、あれだけ土地が広がったら、俺一人じゃ絶対に管理できないんだけどね』


 事実、どこから聞きつけたのか、「あの世界樹の周りに行けば、精霊が勝手に畑を耕してくれるらしいぞ」という噂が広まり、王都や近隣の村から次々と移住希望者がテントを張って押し寄せてきていた。


「……あの、ルミナリア王女。俺、ただの侯爵なんだけどね。領地経営なんて、ミクロン単位もやったことがないんだけどね」


 俺は隣で優雅に紅茶を啜っているルミナリアに助けを求めた。

 だが、彼女は扇子で口元を隠し、余裕の笑みを浮かべるだけだった。


「案ずるな、旦那様。領地を治めるための文官や実務の者たちは、すでにカトリーヌとロバートに命じて、王城の優秀な人材を根こそぎ『引き抜いて』こさせておる。今日明日には、馬車に詰め込まれて到着するじゃろう」


『……引き抜くっていうか、それ完全に権力を使った拉致なんじゃないかな。侯爵領にそこまで王城の人材を注ぎ込んで、国の中枢は大丈夫なのかな』


 俺は、自分がすでに国費を湯水のように使える「公爵」になっているとは夢にも思わず、王女の強引すぎる人材派遣に戦慄した。


 ◇ ◇ ◇


 ズドォォォォンッ!!


 その時、屋敷が揺れるほどの凄まじい爆発音が、裏手のコロッセウムから響き渡った。


「がははは! 甘いぜサンネ! そんな太刀筋じゃ、アタシのこの新しいヨガウェアの防壁は抜けねえぞ!」


「くっ……! なんという柔軟性と防御力! ですが、私の黄金比の踏み込みを見くびらないでいただきたい!」


「アタシも負けないんだゾ! ボスの夜のローテーションを守り抜くためにも、ここで鍛えるんだゾ!」


 コロッセウムでは、魔王、サンネ、ミラの三人が、地形が変わるほどの派手な音を立てながら、舞踏会(武道会)に向けた実戦形式の特訓に明け暮れていた。


「……本当に、元気な方たちですわね」


 いつの間にか俺の反対側の隣に陣取っていたエリーゼが、呆れたように微笑んだ。

 彼女は俺に密着するように寄り添い、俺の腕にそっと自分の細い腕を絡ませている。

 そしてなぜか、ルミナリアも反対側の腕にそっと身を寄せてきた。騒がしい脳筋組とは対照的に、この正妻同盟の二人は、常に俺の隣という安全圏から離れようとしない。


「……そういえば、魔王が旅から戻ってきた時に、何か大きな荷物を持っていたよね。あれは一体何だったのかな」


 俺がふと思い出して尋ねると、コロッセウムから魔王が跳躍し、こちら側のバルコニーへと着地した。


「おう、ヘンドリック! 聞いて驚け。アタシが旅で見つけてきた、最高の『土産』を見せてやるぜ!」


 魔王が指笛を吹くと、コロッセウムの地下ゲートから、鎖に繋がれた巨大な魔獣が引きずり出されてきた。

 燃え盛る炎のたてがみを持ち、鋭い牙を剥き出しにした、伝説の魔獣「ヘルハウンド」だ。本来なら一匹で軍隊を壊滅させるほどの恐ろしいモンスターである。


「がはは! どうだ! これならお前の領地の番犬にもなるし、舞踏会(武道会)の最初の対戦相手にもぴったりだろ!」


 魔王が誇らしげに胸を張る。


『……だから、なんで舞踏会にモンスターを召喚するのかな。参加者がドレス姿で食い殺される未来しか見えないんだけどね』


 だが、その伝説のヘルハウンドは、全く威厳がなかった。

 なぜなら、目の前で繰り広げられるサンネとミラの規格外の戦闘と、遠くでモップを構えて冷たい視線を送ってくるベルナデッタの殺気に完全に怯えきり、「キャンッ!」と情けない声を上げて尻尾を巻いて震えていたからだ。


「……なんだ、だらしねえな。もっと気合い入れろよ番犬」


 魔王がヘルハウンドの頭をペシペシと叩くが、伝説の魔獣は涙目で地面に伏せている。


「……旦那様。あのような汚らわしい獣をコロッセウムに放つなど、衛生上よろしくありませんわ。後でわたくしが『浄化』しておきますわね」


「……エリーゼ。浄化って、物理的に消し飛ばす意味じゃないよね?」


 俺が冷や汗を流しながら尋ねると、エリーゼは完璧な笑みを浮かべたまま、静かに小首を傾げた。

 反対側では、ルミナリアが「あの犬、毛皮にすれば良い絨毯になりそうじゃな」と物騒なことを呟いている。


『……魔王のお土産、この屋敷じゃ三日も命が持たない気がするんだけどね。俺の侯爵領は、一体どこへ向かっていくのかな』


 俺は、勝手に広がる領地と、勝手に連行されてくる文官たち、そして日々激しさを増すコロッセウムの騒音に包まれながら、静かに胃薬ポーションを呷るのだった。

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