第22話:熟練の武具と、二つの重圧
翌朝。ヘンドリックは約束通り、メンテナンスが終わった装備を受け取るために、サンネとミラを連れてドワーフの鍛冶場を訪れていた。
「ほらよ。サンネの盾は【重心調整】をミリ単位で見直した。ミラの爪は、より【魔力伝導率】の高い鋼で研ぎ直してある。……大事に使いな」
頑固爺バルガスから渡された武具は、昨日とは見違えるような鈍い輝きを放っていた。
サンネは盾の感触を確かめ、ミラは空を軽く切り裂いて、その驚異的な「軽さ」と「鋭さ」に顔を輝かせた。
「素晴らしいわ……! 重心が手元に吸い付くようだわ!」
「すごいんだゾ! これならもっと速く動けるんだゾ!」
二人のテンションは最高潮に達していた。そして、その溢れんばかりの喜びと感謝は、当然のようにその場にいるリーダーへと向けられる。
「ありがとう、ヘンドリック。これもすべて、あなたが素晴らしい素材と酒を用意してくれたおかげよ」
「ボス、最高なんだゾー!」
そう言うや否や、サンネがヘンドリックの右腕を、ミラが左腕を、まるで競い合うようにガッシリと抱き込んだ。
サンネの鍛え抜かれた、それでいて柔らかなプロポーションと、ミラの生命力に満ちた「夢の詰まった感触」が、ヘンドリックの両腕をこれでもかと圧迫する。
「あ、あの……二人とも。もう装備は受け取ったんだから、一度離してくれないかな。歩きにくいんだ」
ヘンドリックは顔を真っ赤にして、引き剥がそうと試みる。だが、トップランカーである二人の筋力に、レベル1の彼が抗えるはずもない。
「いいじゃない、訓練場までだわ」
「そうなんだゾ! 今日はこれからボスの胸を借りて模擬戦なんだから、今のうちにたっぷり甘えておくんだゾ!」
結局、ヘンドリックは美女二人にぶら下がられるような格好で、ギルド裏の訓練場まで「連行」される羽目になった。
道行く冒険者たちから、「あのおっさん、何者だ……?」「死ぬほど羨ましいんだが」という殺気混じりの視線が突き刺さるが、当の本人は『頼むから誰か代わってくれ、心臓が持たないんだ……』と切実に天を仰いでいた。
訓練場に到着すると、そこには既にエリーゼ、ブラム、そしてロッテが待っていた。
腕を組んで現れた三人を見て、エリーゼの周囲の気温が目に見えて数度下がったが、サンネとミラは何食わぬ顔でパッと腕を離し、戦士の顔に戻った。
「よし、みんな揃ったね。……それじゃあ、新しく調整した装備の慣らしを兼ねて、模擬戦を始めようか」
ヘンドリックは内心の動揺をプロの仮面で隠し、腰の【便利屋の多機能剣】を抜き放った。
「今日は、君たち五人で俺にかかってきてほしいんだ。……遠慮はいらないよ。深層の魔物にあったつもりで、本気で俺を仕留めるつもりで来てくれ」
おっさんの放つ、静かだが底知れない威圧感。
さっきまでデレデレとしていたサンネとミラの目が、一瞬で鋭い「狩人」のそれに変わった。
伝説の便利屋による、理外の【レベル1戦術教育】。その幕が、静かに上がった。




