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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第212話:夏の足音と、エルフの逆鱗と新居建築

 王都の空は、抜けるような青さに染まっていた。


 石造りの街並みに照りつける日差しは、数日前とは明らかに強さを増している。湿り気を帯びた熱風が、外套の隙間を抜けて肌を撫でていった。


「……地味に暑いね」


 俺が額の汗を拭いながら呟くと、隣を歩いていたエリーゼが、翡翠色の瞳を僅かに細めた。


「ええ。もう夏ですわね、旦那様。……わたくしたちハイエルフにとっては、少々過ごしにくい季節かもしれませんわ」


 エリーゼはそう言いながら、普段よりも薄手の、涼しげな素材の法衣を整えた。


 背後では、ミラやサンネも心なしか軽装になっている。ミラの圧倒的なスタイルや、サンネの均整の取れた肢体が強調される薄着姿に、俺は目のやり場に困って、意識的に視線を前方へと固定した。


『……季節感が急に出てきたのはいいんだけどね。彼女たちの薄着に、どう反応していいか分からないんだよね。便利屋としては、平静を装うのが一番かな』


 王都の混乱が一段落し、俺たちは再建されたばかりの拠点へと移動していた。


 そこで俺は、気配を殺し近くにいるはずのミニベルナデッタ(闇の精霊)から、静かに、しかし抗いようのない圧をかけられた。


「……旦那様。そろそろ、こちらの暴れん坊に別の『体』を用意していただけないでしょうか。わたくしの依代が、内側からの衝撃でもう限界です」


 人形の中から「出すんじゃ! わらわも外を歩きたいんじゃ!」という土の精霊(女)の声が漏れ聞こえる。


「……分かったよ。無理をさせてごめんね」


 俺は空間収納庫を開き、予備のパーツを組み合わせて新しい依代を作成することにした。


 土の精霊(女)からは、事前に強烈なリクエストが入っていた。


『わらわはとにかく、一番でっかい体がいいんじゃ! あの獣人の娘のような! でも顔は、あの胸が平らなエルフの顔がいいんじゃ!』


 俺は深く考えず、収納庫からミラのサイズを模したグラマラスなボディと、エリーゼの顔を模した頭部パーツを取り出し、がっちゃんこと結合させた。


「……これを使ってくれるかな」


 俺が差し出したのは、エリーゼの涼しげな美貌を持ちながら、体つきだけはミラのように豊満という、奇跡のようなキメラ・ダミー人形だった。


 それを見た瞬間、周囲の空気が絶対零度まで凍りついた。


「…………旦那様?」


 エリーゼが、この世のものとは思えないほど美しい、しかし一切の光を宿さない笑顔で俺を見つめた。


「……わたくしの顔に、あのような無駄に大きい脂肪の塊をくっつけるなど、どのような嫌がらせですの? 旦那様は、わたくしに足りないのは『あれ』だと仰りたいのですか」


「……いや、土の精霊のオーダー通りに作っただけなんだ。なぜ俺が怒られてるのかな」


 俺が冷や汗を流しながら目を逸らすと、隣でミラが「おお!」と声を上げた。


「アタシの胸のサイズが使われてるんだゾ! やっぱりボスはアタシのが一番好きなんだゾ!」


「……黙りなさい、ミラ」


 エリーゼの静かな声が響く。サンネは「……私の黄金比のボディを使えば、もっとバランスの取れた人形になったものを」と、少し不満げにぼやいていた。


 そんな修羅場などどこ吹く風で、土の精霊(女)は「おお! 立派なものが二つも付いておるんじゃ!」と大喜びで人形に飛び込み、カシャカシャと新しい体を動かし始めた。


 ◇ ◇ ◇


 新しく受肉した土の精霊(エリーゼ顔・巨乳)と、王都の「ぞいの子」の初対面は、案の定、怒号から始まった。


『お主が我輩の屋敷を壊したんじゃぞい! この不届き者め!』


『なんじゃと!? お主こそ、メイドから逃げてきただけの腰抜けのくせに!』


 二体の土の精霊が、世界樹の根元で激しく言い争いを始める。


 だが、俺が「世界樹の周辺に新しい拠点を作ってほしいんだよね」と頼むと、二人は鼻を鳴らし合いながらも、驚くほどの連携を見せ始めた。


 二人が同時に地面を叩くと、地脈のエネルギーが世界樹の魔力と混ざり合い、真っ白な石造りの新居がみるみるうちに組み上がっていく。


 さらには、世界樹の根元から、魔力が溶け込んだ天然の温泉までもが湧き出した。


『……なんで仲悪いのに、息ぴったりで並んでるのかな。というか、俺が頼む前に温泉まで作ってるんだけど。土の精霊たちの基準がよく分からないなあ』


 ◇ ◇ ◇


 新居が完成した日の夜。


 翌日にミラの誕生日を控えた一行は、静かな前夜祭のような空気に包まれていた。


 だが、その裏で、エリーゼの機嫌は目に見えて悪かった。


 昼間の「巨乳ダミー事件」に加え、誕生日の順番が自分が最後であることに、ハイエルフとしてのプライドが傷ついていたらしい。


 俺は廊下の隅で、一人で月を眺めていたエリーゼの隣に並んだ。


「……エリーゼさん。機嫌を直してほしいんだけどね。あの人形、本当に悪気はなかったんだよ」


 俺が静かに声をかけると、エリーゼはぷいっと顔を背けた。


「……別に、怒ってなどおりませんわ。ただ、旦那様がわたくしの顔であのような……ふしだらな……」


「……エリーゼさんは、そのままで十分綺麗だよ。俺は、今の君が一番いいと思っているんだ。知っているだろ。完璧な機能美」


 俺が本音を口にすると、エリーゼの耳がピクリと動き、僅かに赤く染まった。


「……本当ですの?」


「……嘘を言っても仕方ないよ。だから、あんまり落ち込まないでほしいんだよね」


 俺が彼女の肩にそっと手を置くと、エリーゼはようやく溜息をつき、俺の腕に頭を預けてきた。


「……分かりましたわ。今回は、免じて差し上げます」


 エリーゼの機嫌が回復したのを確認し、俺は次にサンネの元へと向かった。


 彼女は新居の警備を理由に、一人で庭に立っていた。


「サンネ。ヘラフテンでの戦闘、本当によく頑張ってくれたね。君がいなければ、被害はもっと大きかったはずだよ」


「閣下……。私は騎士として当然のことをしたまでです」


「……それでも、俺は君に感謝しているんだよ。これはご褒美かな」


 俺が彼女の頭を優しく撫でると、サンネは一瞬だけ体を強張らせたが、すぐに「……ありがとうございます」と、蕩けるような表情で目を伏せた。


 最後に、不満そうにこちらを伺っていたルミナリア王女が、扇子をバサリと閉じて歩み寄ってきた。


「ヘンドリックよ。わらわにも、何かないのかえ? わらわも城を守り抜いたというのに」


「……そうだね。王女殿下も、本当に頼もしかったよ」


 俺は苦笑いしながら、彼女をそっと抱きしめた。


「……これでいいかな」


「……む、無礼者め。……だが、今日だけは許してつかわす」


 ルミナリアは顔を真っ赤にしながらも、俺の胸に顔を埋めて大人しくなった。


『……一人ずつのケアが、戦いより疲れるんだけど。魔王は……まあ、彼女は明日でもいいかな、どっか行っていないし』


 全員の機嫌がとりあえず収まったところで、エリーゼが凛とした声で、翌日の予定を宣言した。


「……さて、明日からはミラの誕生日ですわ。黎明の森の特別ルールにより、誕生日の者は旦那様を丸一日独占できます。……他の方々は、大人しく順番を待つことですわね」


 エリーゼがそう告げると、ミラが「やったんだゾ!」と歓喜の声を上げ、俺の腕に飛び込んできた。


『……明日から、さらに動けなくなりそうだよね』


 俺は、夏の夜風に揺れる世界樹の葉音を聞きながら、静かに覚悟を決めるのだった。

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