第211話:逃げ込んだ先の大騒動と、帰還した軍師
王都郊外の森。世界樹の周辺。
組織の一団が世界樹に向けて進軍していた。
その先頭に、ベルナデッタに追われて逃げてきた土の精霊の土気色のダミー人形が飛び込んでくる。
敵の一団と鉢合わせになった。
土の精霊が止まる。
敵が止まる。
『……なんじゃ、お主たちは』
敵が土の精霊を見る。
土の精霊が敵を見る。
本人は逃げてきただけだ。世界樹を守る気など全くない。
しかし。
『……まあ、ここは我輩の縄張りじゃ。追い払ってやるんじゃぞい』
理由は「邪魔だから」であった。
土の精霊が短い両腕を高く掲げる。
直後、世界樹の周辺一帯で強力な土魔法が炸裂した。
敵の悲鳴が上がり、仮面の集団が空高く打ち上げられていく。
土の精霊の大暴れによって、世界樹周辺は大騒動へと発展した。
だが、その暴威の中心にある世界樹だけは、無事に守られ続けていたのだった。
◇ ◇ ◇
王城。
ルミナリアが護衛の騎士団と共に、敵の波を受け止めていた。
アイシャと、彼女の婚約者であるルークも戦線に加わっている。
「わらわを誰だと思っておるのじゃ」
ルミナリアが国宝の魔道具を展開し、光の防壁が城を包み込む。
アイシャはルークに守られながら、後方で治癒の補助をしている。
城の防衛は保たれているが、数が多い。
そこへ闇の精霊が城に現れた。
「……応援に参りました」
土の精霊がいなくなって身軽になった闇の精霊が、本来の力を発揮して敵の気配を次々と暴いていく。
ルミナリアが静かに頷く。
「……よくぞ来てくれた」
◇ ◇ ◇
轟音と共に、魔導車が王都に到着した。
俺はすぐに状況を確認した。
屋敷は一部崩壊。城は防衛成功。世界樹は無事だった。
崩壊した屋敷の前に、ベルナデッタが立っている。
土の精霊は、世界樹の根元で正座させられていた。
アルフォンスが、修繕費の見積書を差し出してくる。
「……閣下、お帰りなさいませ。こちらが修繕費の見積もりです」
俺は、受け取った見積書を見た。
そして、遠い目をした。
「……土の精霊が世界樹を守ったんだよね」
「結果的には」
エリーゼが静かに言う。
「ベルナデッタ様の説教から逃げてきただけですが」
アルフォンスが淡々と補足する。
『……動機はともかく、助かったんだけど。でも修繕するのは俺なんだよね。スローライフしたかっただけなんだけど、どうしてこうなった』
世界樹の根元で、土の精霊が正座している。
ベルナデッタが、無表情でモップを持って立っている。
『……助けてほしいんじゃぞい、主よ……』
俺は静かに目を逸らした。
「……土木建築、始めようかな」
◇ ◇ ◇
城で、俺は妹と再会した。
妹が駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん! 無事だったの!?」
「……ただいま。怪我はなかったかな」
「アイシャさんとルークさんが守ってくれたよ」
俺はアイシャとルークを見た。
「……ありがとう。二人とも」
アイシャが微笑む。
「ヘンドリックの大切な人を守るのは当然よ」
ルークが肩を竦める。
「まあ、王女殿下が一番頼もしかったけどな」
ルミナリアが扇子を広げる。
「当然じゃ」
『……みんな無事でよかった。それだけで、今日は十分かな』
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