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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第205話:ミニメイド長の同居問題と、説明できない状況

 仄暗い地下ダンジョンを、圧倒的な暴力が突き進んでいた。


 次々と立ちはだかる仮面の怪人たちだったが、単独で先行する魔王の圧倒的な力の前に、文字通り瞬殺されていく。


 彼女が軽く腕を振るうたびに分厚い石壁がひび割れ、怪人たちは悲鳴を上げる間もなく紙くずのように吹き飛ばされていく。


「……雑魚ばかりだな」


 魔王が退屈そうに首をポキポキと鳴らしながら進むと、それだけで敵の群れが割れ、一直線の道が開けていく。


「ま、待ってください魔王様! 俺たちじゃ追いつけません」


 後続のトップランカーたちが必死についていくが、その表情には明らかな疲労と畏怖が浮かんでいた。彼らも一流の冒険者であるはずなのだが、前衛の規格外の進行速度には全くついていけていないのだ。


 ◇ ◇ ◇


 一方、さらに地下の深い場所。


 崩落の危機にある広大な空洞に、ミニベルナデッタの姿を受肉した闇の精霊が、影の中からすっと現れた。


 彼女の目の前では、土の精霊(女)が激しく暴れ回り、仮面の怪人を次々と叩き潰している。


「ふんぬっ! 主の敵はわらわが全部潰すんじゃ」

 ルミナリア王女の口調で、彼女はなり切っているつもりだ。

 王女は絶対こんことはしないというのに。


 彼女が地面を強く踏み鳴らすたびに、衝撃波で周囲の地下構造がぼろぼろに崩れ落ちていく。


 闇の精霊が、降り注ぐ瓦礫の雨を器用に避けながら静かに声をかける。


「……少し落ち着きなさい。旦那様からの伝言です」


 土の精霊が、ピタリと動きを止めて振り返る。


「なんじゃ!? お主、何者じゃ!?」


 彼女はヘラフテンで召喚されたばかりの個体であり、王都の屋敷でメイド長を務めているベルナデッタのことを知らない。そのため、この姿に対する恐怖心や萎縮は一切なかった。


 むしろ、闇の精霊が受肉した小柄で可愛らしい体を、珍しそうにじろじろと見回している。


「……旦那様が、一旦戻るよう仰っています。これ以上地下の構造が壊れると、地上の街に影響が出ます」


 淡々と用件を伝える闇の精霊に対し、土の精霊は鼻息を荒くして首を横に振った。


「うるさいんじゃ! わらわは主を守るんじゃ! まだ敵がいっぱいいるんじゃ」


 完全に防衛本能による興奮状態であり、闇の精霊の言葉を全く聞こうとしない。


 ◇ ◇ ◇


 説得が難航する中、土の精霊が興味津々な様子で近づいてきた。


 そして、ミニベルナデッタ(人形)の体を、泥だらけの指でつんつんと触り始める。


「……なんじゃこれ。不思議な感触じゃ。面白い体じゃのう」


「触らないでください」


「ほほう、温かいんじゃ。土みたいな、でも少し違うような感触じゃ」


「ですから触らない——」


 闇の精霊が注意しようとした次の瞬間、土の精霊の体がふっとブレた。


 気づいた時には、土の精霊が実体を持たないまま、ミニベルナデッタの人形の中にするりと入り込んでしまっていたのだ。


 直後、ミニベルナデッタの体が、痙攣するようにぶるぶると激しく震え始める。


 内側からは、二つの異なる声が漏れ聞こえてきた。


「狭いんじゃ」


「出なさい」


「でも温かくて居心地がいいんじゃ」


「出なさいと言っています」


 ◇ ◇ ◇


 ちょうどその時、その場を魔王が通りかかった。


 瓦礫の山の中で、小さなメイド姿の人形がぶるぶると震えながら、一人で二役のように独り言を言い合っている。


 魔王はピタリと足を止め、怪訝そうに眉をひそめた。


「……なんだあれ」


 彼女は一瞥しただけで深く考えることを放棄し、そのまま足早に通り過ぎていった。どうやら、目の前の異常現象よりも仮面狩りの方が楽しいらしい。


 ◇ ◇ ◇


 その頃、地上の病室。


 ミラが、俺のベッドの横にちょこんと座り、俺の手を両手でしっかりと握っていた。


「ボス、手が少し冷たいんだゾ。アタシが温めてあげるんだゾ」


「……ありがとう、ミラ。でも、ずっと同じ姿勢だと君が疲れないかな」


「全然疲れないんだゾ! ボスのそばにいられるのが一番嬉しいんだゾ」


 俺が動けないのをいいことに、ミラは嬉しそうに尻尾を振りながら俺の腕に頬を擦り寄せている。


『……相変わらず真っ直ぐな愛情表現だね。痛みを忘れさせてくれるのはありがたいんだけどね』


 ぽすっ。


 ふと、ベッドの上に小さな何かが軽い音を立てて着地した。


 見れば、俺が先ほど送り出したミニベルナデッタだった。


 ただし、その様子が明らかにおかしい。体はぶるぶると小刻みに震えており、よく見ると左右の瞳が二つの意思を持つようにバラバラに動いているのだ。


「……戻りました、旦那様」


 人形の口から、落ち着いた闇の精霊の声が響く。


 だが、その直後に声色がガラリと変わった。


「主じゃああああ!! 主がいるんじゃああああ!!」


 人形が突然、元気いっぱいの土の精霊の声で叫び出し、激しく暴れ出したのだ。


「落ち着きなさい」


「やじゃ! 主に会えたんじゃ! 嬉しいんじゃ!」


 人形が短い手足をバタバタと振り回し、俺の胸に勢いよく飛び込もうとする。それを、闇の精霊の意思が必死にブレーキをかけて抑え込もうとしている。


 一つの人形が、前へ行こうとする力と後ろへ引く力でぷるぷると不規則に引っ張り合いをしているという、極めて異様な光景だった。


 俺は完全に思考が停止し、固まるしかなかった。


『……二人で入ってるんみたいなんだけど』


『というか、なんでそうなっているのかな』


『土の精霊を止めに行ったはずなんだけどね』


『誰かこの状況を説明してほしいんだけど』


 混乱する頭のまま、俺は隣で同じように目を丸くしている獣人の少女に助けを求めた。


「……えっと、ミラ。今の状況、説明できるかな」


 ミラがふるふると首をかしげる。


「……アタシも全く分からないんだゾ。人形の中に、二人が入ってるみたいだゾ」


「……だよね。俺にもそう見えるよ」


 病室に、しばらく気まずい沈黙が流れた。


「……闇の精霊。土の精霊を止めに行ったはずなんだけどね」


 俺が恐る恐る問いかけると、人形の片目がすっと伏せられた。


「……申し訳ありません、旦那様。説明が難しい状況になりました」


 闇の精霊が、静かに、しかし普段の彼女からは想像もつかないほど若干疲れた声で答える。


「やじゃやじゃ! 出たくないんじゃ! 主と一緒にいたいんじゃ!」


 その言葉に被せるように、土の精霊が人形の中で大暴れを続ける。


『……止めに行って、一緒に帰ってきたのか』


『しかも同じ体に二人で入った状態で』


『どうしてこうなったのかな』


『聞けばいいんだけど、聞いたら余計に混乱しそうなんだよね』


 俺はこれ以上深く追求することを早々に諦め、一番重要な点だけを確認することにした。


「……まあ、土の精霊が地下で暴走するのは止まったんだよね?」


「……はい。それだけは確かです」


 闇の精霊が力強く肯定する。


「……じゃあ、よかったかな」


 俺は天井を見上げて、心の底から小さく息を吐いた。


 ミニベルナデッタは、見えない内側で引っ張り合いの喧嘩をしながらも、俺の枕元にしっかりと陣取って離れようとはしなかった。

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