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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第204話:闇の精霊の受肉と、副リーダーの最優先事項

  嵐のように現れた元弟子たちが去り、再び静けさを取り戻した病室。

 

 俺はベッドに横たわったまま、地下で暴走しているという土の精霊の件について頭を悩ませていた。

 

 俺が自爆した際に召喚され、そのまま放置されてしまった彼女は、俺を守ろうという防衛本能だけで仮面の怪人たちを粉砕し続けているらしい。敵を倒してくれるのはありがたいが、このままでは街の地下インフラまで完全に崩壊してしまう。

 

 しかし、指一本動かせない今の俺には、彼女を止めるために地下へ向かう手段がなかった。

 

 その時、病室の隅の影が不自然に揺らぎ、見慣れた闇の精霊がすっと姿を現した。

 

「……旦那様。よろしければ、私が土の精霊に指示をしてまいりますが」

 

「……闇の精霊。君が直接行ってくれるなら助かるんだけどね。でも、精霊同士だと意思疎通というか、言うことを聞かせるのが難しいんじゃないかな」

 

 俺が掠れた声で尋ねると、闇の精霊は小さく頷いた。

 

「はい。現状の私は実体を持たない影の存在ですので、物理的に暴走している彼女を制止するには少し力不足です。ですので……私に、受肉するための『体』を用意してはいただけないでしょうか」

 

『なるほど。物理的な依代があれば、土の精霊に干渉できるということだね。以前、闇の精霊がそういう望みを持っていると知った時、念のため作って収納庫に入れておいたものがあるんだ。指は動かせないけれど、空間収納庫を開くくらいなら、寝たままでも何とかなるかな』

 

 俺は残された僅かな魔力を練り上げ、空間収納庫を開いた。

 

 コロン、と音を立ててベッドの脇に転がり出たのは、王都にある俺の屋敷でメイド長を務めている、ベルナデッタをモデルにして作った精巧なダミー人形の一つだった。

 

 本来の彼女は百七十センチを超える長身で、メイド服の上からでもわかる抜群のスタイルを誇る才色兼備の女性だが、あの威圧感のある長身をそのまま再現すると色々と不便だったため、身長を百五十センチほどにスケールダウンしてある。結果として、少し幼さを残した可愛らしい造形に見えなくもない仕上がりになっていた。

 

「……これを使ってくれるかな。王都の屋敷のメイド長をモデルにしたダミー人形なんだけどね」

 

「……感謝いたします」

 

 闇の精霊が、ベッドの脇に転がったベルナデッタ型のダミー人形にすっと触れた。

 

 直後、人形の体が淡い闇色のオーラに包まれる。しばらくピクピクと手足を動かし、関節の可動域や重心を確認するように試行錯誤していたが、やがて人形はゆっくりと立ち上がった。

 

 漆黒の瞳を開いた小さなベルナデッタ(中身は闇の精霊)は、自分のメイド服の裾を摘まみ、恭しく一礼をした。

 

「……見事な依代です。これならば、あの暴れん坊を黙らせることができるでしょう。では、行ってまいります」

 

 そう言うが早いか、彼女の足元に黒い泥のような影が広がり、人形の体はそのままズブズブと影の中へと沈んでいった。

 

「……えっ? 消えた?」

 

 俺が驚きの声を上げる間もなく、病室には俺とミラだけが残された。

 

『……わざわざ物理的な体を用意したのに、歩いていくんじゃなくて影に溶けて移動できるんだね。さすがは闇の精霊というか……色々と規格外だね』

 

 頼もしい使い魔の出立に安堵しつつ、俺は天井を見上げて小さく息を吐いた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 同じ頃、病室の外――冒険者ギルドの一角では、副リーダーとして指揮を執るエリーゼが、集まったトップランカーの冒険者たちを前に的確な指示を飛ばしていた。

 

「地下の南側ルートは、魔王が先行して突破します。あなたたちは彼女が切り開いた道の後方支援と、行方不明者の救出に専念してくださいな。決して前に出過ぎないように」

 

「了解しました、エリーゼ姐さん!」

 

 三百九十年を生きるハイエルフの完璧な采配に、ヘンドリックの元弟子であるトップランカーたちもすっかり感服し、一糸乱れぬ動きを見せている。

 

 だが、作戦会議が一段落し、わずかな休憩時間が訪れた時のことだった。

 

「いやー、それにしても驚きましたよ。ずっと独り身だったお師匠様に、エリーゼさんみたいな綺麗でしっかりした奥さんがいたなんて」

 

 パーティーの紅一点である女性魔術師が、興味津々といった様子でエリーゼにすり寄ってきた。

 

 その言葉に、エリーゼの完璧なクールビューティーの仮面が、ピシリと音を立てて崩れた。

 

「お、奥さん……っ。まあ、私たちは夫婦のようなものですからね。ふふっ」

 

「やっぱり! あの病室での徹底的なガードぶり、ただのパーティーメンバーじゃないと思いましたよ! それで、いつ結婚するんですか? 式には絶対に私たちも呼んでくださいね!」

 

「け、結婚……っ。そうですね、旦那様のお怪我が治りましたら、改めてきちんとご挨拶を……」

 

 エリーゼは頬を朱に染め、両手で顔を覆いながらも、まんざらではない様子で口元を綻ばせている。非常時にもかかわらず、その場はすっかり女子会のような恋バナの空気になってしまっていた。

 

『……おいおい、君たち。それ今会話することじゃないんじゃないかな』

 

 もし俺がその場にいれば、呆れた顔でそうツッコミを入れていたことだろう。

 

 だが、たとえ俺がそう口を出したとしても、今のエリーゼなら微塵も悪びれることなく、満面の笑みでこう切り返したはずだ。

 

『いえ、旦那様。わたくしたちの結婚は、街の危機を救うことと同等、いえ、それ以上の最優先事項ですわ』と。

 

 進退窮まった寝たきりの軍師の苦労などつゆ知らず、水の都の復興は、たくましいヒロインたちの手によって着実に、そして賑やかに進められていくのだった。

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