第200話:添い寝じゃんけんと、侯爵の朝
小鳥のさえずりと共に目を覚ました俺は、両腕と胸にのしかかる凄まじい重量と、対照的な柔らかな感触に思わず呻き声を上げた。
『重い……そして、色々な意味で逃げ場がないんだけど、どうしたら?』
昨晩の壮絶なじゃんけん大会の結果、俺の両脇という特等席を勝ち取ったのはエリーゼとサンネだった。
右側では、薄いシルクのネグリジェに包まれたエリーゼが、俺の腕を抱き枕のようにして安らかな寝息を立てている。彼女の体つきはサンネに比べれば慎ましいが、その分、華奢な肩や肌の白さが際立っていた。
対する左側では、肌着姿のサンネが豊満すぎるその双丘を俺の二の腕にこれでもかと押し付け、足を絡ませるようにしてぴったりと密着している。
コンコン。
その時、静かな寝室のドアが控えめにノックされた。
「ヘンドリック侯爵閣下。冒険者ギルドのマスターですが、お目覚めでしょうか。至急お耳に入れたい儀があり、お伺いを立てに参りました」
ドア越しに聞こえるギルドマスターの畏まった声に、俺の両脇の二人が同時に弾かれたように目を開けた。
「……ギルドマスター? よりによってこんな時に」
エリーゼが不機嫌そうに眉を寄せ、即座に俺の胸元に顔を埋めて露出の多い背中を隠した。
「閣下以外の男にこのような姿を見せるわけには参りません」
サンネもまた、頬を赤らめながらも鋭い手つきで毛布を引き寄せ、俺と自分たちの体を首元まで隠すように包み込んだ。二人は外敵から身を守るように、さらに俺へと密着を強めてくる。
「入っていいよ。鍵はかかっていないからね」
俺が許可を出すと、ギルドマスターが「失礼いたします」と重々しくドアを開けた。
神妙な面持ちで入室してきたギルドマスターだったが、毛布の中から顔だけ出し、左右の美女にガッチリと固められた俺の姿を見た瞬間、その表情が複雑に歪んだ。
「……相変わらずだな、お前は。一国の侯爵が朝からこれとは、羨ましい……いや、呆れて言葉も出んぞ」
「動けないから、されるがままになっているだけなんだけどねぇ。……ギルドマスター、君の力で彼女たちを引き剥がしてくれるなら頼みたいんだけど」
俺が半ば本気で、半ば冗談めかして助けを求めると、ギルドマスターは引きつった笑いを浮かべて首を横に振った。
「御冗談を。そんなことをしてみろ、引き剥がそうとした瞬間に俺の首が飛ぶ自信があるぞ。彼女たちのあの眼光が見えないのか」
ギルドマスターの視線の先では、エリーゼとサンネが毛布の隙間から「邪魔をするな」と言わんばかりの冷徹な視線を彼に突き刺していた。
「……ま、あんたが元気そうで何よりだ。それで、至急の報告って何かな」
俺が苦笑交じりに促すと、ギルドマスターは咳払いをして表情を引き締め、手元の資料に視線を落とした。
「ああ。昨日お前たちが捕縛した、仮面で操られていた住民たちについてだ。あの仮面の出所と、黒幕の狙いがおぼろげながら見えてきた」
ギルドマスターの低い声が響くと同時に、俺の腕に触れている二人の体が、僅かに緊張で強張るのが伝わってきた。




