第20話:便利屋の独白と、遠すぎるスローライフ
拠点の工房で一人、魔道具の微調整をしながら、ヘンドリックは深い、深いため息をついた。
「はぁ……どうしてこうなったんだ」
正直に言えば、ヘンドリックだって一人の男だ。
サンネのあの隙のない完璧なプロポーションを間近で見れば、平静を装うだけで心臓はバックバクだし、ミラのあの「男の夢」を凝縮したような弾力に押し潰されれば、『ああ、このまま窒息死するのも悪くないかもな』なんて不謹慎な考えが頭をよぎることだってある。
だが、彼が本当に困っているのは、サブリーダーのエリーゼだった。
サンネやミラの「暴力的なまでの色香」に比べれば、確かに彼女はつつましい。だが、時折不意に抱きついてくる彼女にも、ちゃんと女性としての柔らかな感触はある。
そしてヘンドリックは、自分でも気づいていなかった自身の性質を自覚し始めていた。
『俺、あの大迫力で迫られるより……エリーゼみたいな、こう、しっとりと落ち着く感触の方が、どうやら「癒やし」を感じてしまうらしい……』
それはエリーゼが自信満々に確信している「性的な性癖」とは少し違う、もっと根源的な、疲れたおっさんが求める「心の安らぎ」だった。
これを彼女に正直に伝えて喜ばれるのか、それとも「女として物足りないってこと!?」と激怒されるのか。便利屋の経験値をもってしても、その正解は導き出せない。
「どいつもこいつも魅力的すぎて、毒気が抜かれるよ、本当に……」
さらに悩みの種は尽きない。
弟子のブラムだ。なぜ彼は、あんなに嬉しそうに「師匠!」と呼んで付きまとってくるのか。性格が真っ直ぐで擦れていないのが救いだが、引退して静かに暮らしたいおっさんにとっては、あまりにも眩しすぎる熱量だった。
幸い、新入りのロッテとブラムがいい雰囲気なのは喜ばしいことだ。あの地獄のようなパーティーから抜け出した彼女には、ぜひともブラムと幸せになってほしい。……だが、そうやって「俺の居場所」がどんどん居心地の良い家庭的な場所になっていくのは、当初の予定と大きく違う。
「俺はただ、貯金を切り崩しながら、のんびりとスローライフを満喫したかっただけなんだけどな……」
今の状況で強引に引退したとしても、あの3人と弟子たちがそのまま工房に居座り、毎日騒がしく押し掛けてくる未来しか見えない。
『……いや、待てよ。それはそれで、悪くないのか?』
一瞬、そんな考えが浮かんだ自分に驚き、ヘンドリックは慌てて首を振った。
「いや、駄目だ。流石にそれは心臓が持たない。……よし、明日も早いんだ。余計なことを考えるのはやめて、寝るとしよう」
魔力を全放出し、空になった体を引きずるようにしてベッドに潜り込む。
便利屋おっさんの明日は、今日よりもさらに騒がしく、そして「癒やし」に満ちたものになるに違いない。




